第4話 はじめてのライド

初めてのライドは、結論から言うと失敗に終わった。


江戸川往復120km。時速20㎞で走っても6時間で終わる道のりに、冬希が要した時間は13時間。

日曜日の朝5時に起床、6時に出発して家に帰り付いたのは19時だった。


自転車屋にもっていった10万円で買った自転車用品で一番高かったのはシューズだった。

ペダルに固定できる特別な靴【ビンディングシューズというらしい】

次にヘルメット、そして靴をペダルに固定するための金具【クリートというらしい】


サイクリングウェアとグローブ、靴下は全部で2万円でいいと格安で売ってくれたが、お店のロゴが入っているところを見ると、お店のチームのウェアの余りを在庫処分されたのだろうと思う。


本来なら速度計がついているサイクルコンピューターという小さなスマートフォンと、スピードやペダルを漕いだ数を計測するセンサーも買う必要があるらしいが、それは自転車ごと譲り受けることになり、前の持ち主のデータの削除だけ店主がやってくれた。


パンク修理の道具や、自転車用のボトルをつけてくれて、8万円程度で済んだのは僥倖だろう。

ベルと、夜乗る時のためのライトと反射板は付けておかなければ法律違反ということで、追加で購入した。


準備万端で出発したつもりだった。

往路は驚くほど順調で、最高時速40㎞も記録した。

江戸川の終着点、関宿城まで20㎞付近でスーパーに入り、昼食も取った。

昼過ぎには関宿城に到着することが出来た。

自転車とは、こんなにも速いものかと感動し、もしや自分には才能が・・・などと思ったのが大間違いだった。


復路はどんなに頑張っても時速12km以上は出なかった。

そのうち体に力が入らなくなり、土手に転がって休んだ。


多少回復しても、すぐに走れなくなり、騙し騙し走った。

帰りに急にスピードが出なくなった原因は、強烈な向かい風にあることは、休憩中に声をかけていたおじさんの話で知った。


体が動かなくなった原因は、ハンガーノックと呼ばれる現象で、要は昼食がおにぎり2個だけだったため、エネルギー切れを起こしたということを、帰ってきてネットで調べて知った。


柔道をやっていた時は、どんなに練習が長くても3時間を超えることは無かったため、ハンガーノックになったことは無かった。


「はぁ、大変な一日だった・・・」


冬希はベッドで横になりながら、次に行くときのことを考えていた。

「次はちゃんとお昼ご飯を食べないと」

動けなくなった時にいつでも摂れる携帯食などもあったほうが良いかもしれない。

「あと、もうちょっと短い距離から行こう・・・」

今となっては、往路の快調な走りも、追い風のおかげだったのではないかと思う。

(復路が向かい風だったので、往路は追い風だったのだろう)


ごめん、手入れは明日やるから、と自転車に謝りつつ冬希は眠りについた。

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