第40話 プロポーズ
「はぁ、やっと解放された〜!」
大きく息を吐きながら身体を伸ばす。
慰労にかこつけたパーティーが終わり、王城内のあてがわれた部屋へ戻る途中、少しでも外の空気が吸いたくなってテラスに出る。
そこには誰もいなくて、先程までの喧騒も嘘のように静かだった。酒を飲まされて火照ってしまった身体に当たる夜風が心地よく、少しだけ心が安らぐ。
「あー疲れたー。回復魔法でこの疲労の倦怠感も回復できたらいいのに……」
グルーの背に乗って帝都の王城まで戻ってきたはいいが、帰ってくるなり報告だのパーティーだのと大忙しだった。
会食では旅でのことを根掘り葉掘り聞かれ、ダンスパーティーでは慣れないダンスを踊らされ。先程ようやくパーティーが終わったのだが、普段と違って気を遣うことが多かったせいか身体中バキバキになっていた。
この疲れが溜まる感じは年をとったせいな気もしないが、認めたくはなかったのであえて慣れないことをしたせいだと自分で自分に言い訳する。
「こんなところにいたのか」
声をかけられて振り向くと、そこにはヴィルが立っていた。
相変わらずパーティー後だというのに服の乱れもなくイケメンのままだ。
「王子様がこんなとこにいてもいいの?」
「シオンが迷子になってないか確認しに来ただけだ」
「失礼ね。迷子じゃなくてわざと道を外れただけ。ちょっと休みたくて」
テラスの手すりにもたれかかるように空を見上げると、満天の星空。こうして空をゆっくり見上げるの久しぶりだなぁと思っていると隣にヴィルがやってくる。
「さっきまでずっと飲めや歌えや踊れやだったしな」
「そそ。もう疲れちゃった。帰ってきてから休む間もなくだったし」
「悪いな。父さんも悪気があったわけじゃないんだが、何でもすぐに行動したがる人だから」
「あー、前にもそんなこと言ってたわよね。実際、聖女になれって言われたときもそんな感じだったし」
思い返してみれば、あのときも断ってるのにヴィルと結婚させようとしたり大司教を呼んで説得させようとしたりと強引だった気がする。
とはいえ、その説得でこうして聖女になることに決めたわけだが。
「でも、結婚認められてよかったじゃないか」
「まぁね〜」
「どうしたんだ? もっと喜ぶかと思ったのに」
「そりゃあ嬉しいは嬉しいけどさぁ」
約束通り試練をクリアしたので、聖女になったあとも結婚の許可はもらえたのだが……
「でも、結局聖女としての活動は続けなきゃいけないわけじゃない? それなのに魔王を倒した聖女として知れ渡らせられたら私、結婚から遠ざかると思わない?」
「あー……」
「美しくて可憐で優しい聖女が人生のパートナーを探してます。とかだったらきっと引くて数多だったかもしれないのに、魔王倒した聖女です! 結婚相手募集中です! じゃ、印象全然違うでしょ」
「それは、そうだな」
試練をクリアし、ついでに魔王も倒したことを報告したあと、王様は何を思ったか国民全員に私のことを魔王を倒した聖女として大々的に発表したのだ。まさに絶望である。
「もう信じられないよね。何考えてんのか。こっちは本気で結婚したいってのに! 王様じゃなかったら殴ってたわ」
「あーその、何だ。それについては身内として謝る」
「別にヴィルが謝る必要はないから。言っちゃったもんは仕方ないし。でも、もしこれで婚期が遠のいたら王様には責任とってもらうからね」
万が一これで結婚相手がいなくなったら本気で婚活パーティーでも開いてもらおう。こうなりゃ職権でも何でも濫用してやる。
「なぁ、シオン」
「なにー?」
「オレじゃダメか?」
「何が?」
「相手がいないなら、オレと結婚しないか?」
「へ?」
ヴィルのほうを向く。そこには真剣な表情をしながらも耳が真っ赤染まったヴィルがいた。
「いや、別に責任感でそこまでしなくてもいいわよ? それに、ほら、前に気になっている人いるって言ってたじゃない」
「それはシオンのことだ」
「はい?」
「はぁ、やっぱりわかってなかったか。……気になるって言ってたのはシオンのことだ」
「……えぇぇぇ!? うそ!?」
「今この状況で嘘を言ってどうする」
「いつぞやみたいに魅了されてない?」
「されてない」
まさかの展開に言葉が出なくなる。
これは想定してなかった。
というか、思い返してみてもヴィルが私のこと好きになる要素が一ミリもない気がする。
「私、めちゃくちゃ強いのよ?」
「知ってる」
「私、魔力がエグいくらいあるのよ?」
「知ってる」
「私、ダメンズメーカーなのよ?」
「知ってる」
自分のモテない要素をひたすらあげてみる。それでもヴィルは「だからどうした?」と言わんばかりに「知ってる」と返してくる。
「元カレいっぱいいるし」
「知ってる」
「私、もうすぐ二十五才になるし」
「オレは今二十三だ。そのくらいの差なんて大したことないだろ」
「でも私のほうが年上」
「もう黙れ」
いつのまにか目の前にいるヴィル。そのまま身体を引き寄せられると抱きしめられた。
ヴィルの鼓動が速いのがわかる。それに呼応するように私の心臓も早鐘を打った。
「全部わかってて好きなんだ。だから、オレはシオンと結婚したいと思ってる。……シオンはそんなにオレと結婚したくないのか?」
「そ、れは……」
今回試練の旅を通してヴィルが顔だけでないことはわかっている。
優しくて、変なところが律儀で誠実で、いい面を見てくれて、なんだかんだで面倒見がよくて、一緒にいて苦じゃない。悪いところは指摘してくれるし、お互い何でも言い合える。
だけど……
あぁ、私自分に言い訳してる。
本当は旅の途中からヴィルのことが好きになっていた。
けれど、それに気づかないフリをして隠していた。私が好きになってはいけない人だと気持ちに蓋をしてこれ以上好きにならないように努めていた。
「あんなにグルーの言うこと否定してたのに」
「それは……その、恥ずかしかったというか、なんというか」
「本当に私でいいの?」
「今更だろ。オレはシオンがいい」
「物好きだね」
「自分でもそれは否定しないが、好きになってしまったものは仕方ない」
「それは言えてる」
好きになったら感情は止められない。それは幾度となく経験済みだ。
「それで返事は? 訳もわからん理由で二度もフラれるのはごめんだぞ」
「あはは。ごめんごめん。……私もヴィルが好きだよ。だから、ヴィルが結婚してくれるなら嬉しい」
素直に気持ちを吐露すれば、ギュッと力強く抱きしめられる。そしてそのまま口づけられた。
「もうよそ見するなよ」
「わかってるってば。浮気したことないし」
「あまり無茶もするな」
「それは聖女という役職的にちょっと難しいかも……?」
「シオン」
「だって〜。ヴィルだって国民守るためならしょうがないと思うでしょ?」
「オレはシオンの方が大事だ」
「それは王子として言っちゃダメでしょ」
むすっと不貞腐れるヴィル。まだまだ王子として未熟だな〜と思いつつも嬉しい自分がいた。
「でも嬉しい。王子としてはダメかもしれないけど、婚約者としては百点満点」
「だろ?」
「すぐに調子に乗らないの」
お互い見つめ合うと再び唇が重なる。
あぁ、両想いってこんなに心が満たされるのかと実感し、私はヴィルの背中に手を回したのだった。
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