第36話 魔王城
魔王の城は異様な雰囲気だった。
簡単に言うと趣味が悪い。全体的にゴテゴテしててドロドロしてて、とにかく私の好みには全く合わないものだった。
「うへぇ、気持ち悪。しかも、臭っ」
「魔王城じゃからな」
「魔王城ってこういうものなの? 趣味悪くない? もうちょっと綺麗にしたってバチは当たらないでしょうに」
「魔物の根城など大体こんなもんじゃろ。人間が綺麗好きすぎるだけじゃ」
「えー……」
「そんな目でワシを見るんじゃない」
息するのもちょっと鬱だと思いながらグルーと共に城を徘徊する。
さすがに蜘蛛の巣やら何かよくわからない液体やらがあちこちにある城内にゾッとした。
グルーは魔物だからか慣れているのか平気そうにしていて、魔物の感覚は理解できそうにない。
まさしく汚部屋……いや、汚城? いくらイケメンでもこれはないわー。見た目はめちゃくちゃ好みだけど中身はマジで無理だわー。
そんなことを思いながら奥へと進むと一際大きな扉がある。
正直触りたくはなかったが、さすがにいくら敵の城とはいえ、来ていきなり扉を吹っ飛ばすというのも気まずいので、私は意を決してその扉を押し開けた。
ゴゴゴゴゴゴ……
「ヴィル!!」
開けた瞬間目に飛び込んで来たのは腕を縛られてぐったりした様子のヴィルだった。
遠目から見てもところどころ傷だらけで見るも無惨な状態。
その近くの大きな玉座に悠々と腰掛けているのは紛れもなく魔王であった。
「……シオ、ン……?」
どうやら意識はあるらしい。まだヴィルが生きていたことにホッとする。
「ヴィル! 今助けるから!」
「何で、来たんだ……罠だぞ。早く逃げ……っ」
「そんなことわかってるわよ! でも、だからって私がヴィルを見捨てるわけがないでしょ!!」
「シオン……っ」
ヴィルの様子は息も絶え絶えといった状態。このまま時間が経てば経つほど危険な状態に陥るのは明らかだった。
一刻も早く助け出さないと!
私がキッと魔王を睨むと、彼はなぜか嬉しそうに口元を歪めた。
「思ったよりも早い到着だね。……もっと時間がかかると思ったけど、もういいのかい?」
「えぇ。時間をかける意味もないからね」
「ふぅん? そのままのキミで僕に勝てると?」
「もちろん。なんたって私は最強の聖女だからね!」
「はははっ! 面白いね。では、その言葉が真実か、僕が確認してあげるよ」
「なっ……!?」
ズガァアアアアアアン!!
魔王が禍々しい魔力を帯びたかと思えば、その溜めた魔力を魔法に変えてヴィルに放った。
けれど間一髪私は魔王の思考を察して慌ててパチンと指を弾き、ヴィルの前に防御壁を張って攻撃を防いだ。
「へぇ? 不意打ちにも対応できるとはなかなかだね」
「信じらんない! クズにも程があるでしょ」
まさか無防備状態のヴィルを狙うだなんて、と苛立ちを抑えられない。とことんこいつはクズだと吐き気がした。
「ヴィル、無事!?」
「あぁ」
「待ってて、すぐに助けるから!」
「ダメだよ。彼は人質だと言っただろう?」
「私はもうここに来てるんだから人質も何もないでしょう!」
「威勢は十分のようだね。なら、彼を救ってごらん?」
すかさずヴィルの元へ向かうと、魔王は次々と攻撃を仕掛けてくる。頭上、足元、前後左右とバリエーションに富んだ攻撃を躱しながらヴィルを回収すると、グルーに向かって投げつけた。
「グルー! ヴィルをよろしく!」
「任された!」
「シ、オン……っ」
「私のことは気にしないで。自分のことだけ考えて!」
グルーがヴィルをしっかりと受け止め、出口の近くにまで下がる。恐らく脱出するのに一番適しているからだろうが、無常にも出口は魔王によって塞がれてしまった。
「おや、残念。まさか全部躱されてしまうとは。さすがにキミを侮りすぎたようだね」
「お生憎さま! って言いたいとこだけど、躱さなかったらアレ誘爆するでしょ! それくらいはわかってるわよ」
「ふふ、なるほど。場数は踏んでいるということだね。面白い。ますますキミのことが好きになったよ、シオン。……さて、人質も無事に回収したことだ。これで心置きなくキミも戦えるよね?」
魔王の瞳に怪しい光が灯る。
その瞳を見た瞬間、ゾクゾクゾクと背中を悪寒が走り抜けた。
「シオンになら、ちょっとは本気を出せそうかな」
魔王が舌なめずりをする。
私はさらにゾワッと寒気を増しながらも、腕を捲った。
「来るなら来い!」
「相変わらず威勢はいいね。でも、いつまでもつかな?」
ドン! バン! バシン! ガンッ!
激しい魔法の応酬だった。
こちらが魔法を放つと、魔王はそれよりもさらに強い威力の魔法で返してくる。
まさに倍々ゲームかのごとく、どんどん増していく魔力量にさすがの魔王城も耐えられなくなったのか崩落していった。
「あははは! 楽しいねぇ! こんな強い魔法を出すのはいつぶりだろうか!」
「っく、……っ、」
腕の感覚も足の感覚もなく、身体は焼き切れそうなほど熱い。
気を抜いたら一瞬で死んでしまうほどの強大な魔法に、ただ打ち返すだけで必死だった。
考えるよりもまず先に延々と詠唱をしているせいで口も渇き、喉の酷使で声がかすれる。
「あれ? あんなに啖呵を切ってたというのにもう限界かい? 残念だなぁ、もうちょっと遊んでいたかったのに」
「……っ、は……っ」
もう体力も魔力も限界だった。
避けてはいるものの魔王の強烈な魔法はかすっただけでも大ダメージで身体はぼろぼろ。
しかも何度もヤツの攻撃に見合った魔法を打ち返しているため、魔力はそろそろ底を尽きそうだった。
そろそろ決着をつけないと、もうもたない。このまま長期戦だと、どうやっても私の方が不利。一か八か賭けるしかない……!
「……全ての始まりはここから。大地、水、生命の起源。我は今、己れの力全てを以てその始まりを行使する……!!」
「その詠唱は……! 凄いな、シオン。まさか禁忌の魔法まで使えるなんて。勇者のみが使えると聞いていたが、なるほど面白い。であれば、僕もその期待に応えよう」
私は全魔力を膨張させ、肥大させ、拡大させていく。魔力あるものから次々と魔力を奪いながら巨大化したそれは、城をも飲み込むほどの大きさへと変貌していく。
ゴウンゴウンゴウンゴウン、ピシュン……ッ
膨らみきった魔力がある一定の大きさまでいくと一気に圧縮され、拳ほどのサイズになる。私はそれを思い切り魔王に向かって投げつけた。
「いけ、ビッグバン……!!」
魔王に当たった瞬間大爆発を起こす。
始まりの魔法にして禁忌の魔法であるそれは、爆音と大きな衝撃と共に魔王を飲み込み霧散した。
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