第2話 呼び出し

「はぁ。どこかにいい恋落ちてないかなー」


 とは言っても、昨日の今日で相手が見つかるわけもなく。

 綺麗に片付けた部屋のリビングで紅茶片手に出会いがありそうなクエストを探す。早く結婚したい私にとって、できるだけフリーな期間があるのはなるべく避けたかった。


「聖獣の爪と鱗採取……こっちは上位モンスター二頭捕獲……。うーん、報酬は申し分ないけど、高ランクギルドに所属してる男の人って大体既婚者なのよね。かと言って低ランクの男の人だと今回の二の舞になっちゃうし。どうしよう」


 さすがに不倫をするつもりはない。そして、歴代彼氏のようにあまり実力が伴っていないいわゆるヒモも避けたい。


「ふむふむ。こっちは王国騎士団のメンバー募集……なるほど、いっそ騎士とかもアリかもね。王国の騎士さまだったらある程度倫理観がしっかりしてそうだし、まだ若手なら未婚者もいるかも? せっかく首都にいるんだから、選択肢に入れても問題なさそう……」


 __ヴォ……ン……!


 ブツブツ独り言を呟いてると、不意に探知魔法が発動する。


「赤、か……」


 防犯対策で家の周囲数百メートルに魔法壁を張り巡らしているのだが、どうやら誰かが家の敷地内に入ってきたらしい。

 探知魔法で侵入者を色分けで区別させてるのだが、今回は顔見知りではない、何かしら武装した人物が来たということを知らせる赤い光を放っているため緊張が走る。


「まさか強盗?」


 玄関に向かいながら、すぐに引き抜けるように愛用の片手剣を携える。いきなり攻撃されることはないだろうが念のためだ。


「とにもかくにもまずは相手を確認しないとね」


 パチンと指を鳴らすと、魔法壁内の映像が映る。そこには二人組の騎士がいて、特にコソコソするでもなく堂々と我が家の玄関までやってきていた。


 噂をすればなんとやらっていうけど、そう言うんじゃないわよね。あの騎士服は確か……国王直属の騎士のものだったはず。ますます見当がつかない。


 心当たりと言えば邪竜の件と昨日の別れ話の件くらいだ。

 邪竜の件は恐らく優秀なギルドメンバーのことだから、なんだかんだ文句言いつつも対処してくれているだろう。

 となればやらかし案件と言えるのは昨日の一件のみ。

 けれど、すぐには帰って来れないくらい遠方に転送したので、さすがの昨日今日で帰ってこれないはず。


 だったら他になんだろう……と再び思考を巡らせていると、コンコンコンコンとちょっと強めにドアをノックをされた。


「やだなぁ、出たくないなぁ。でも公務執行妨害で捕まるのはそれはそれで嫌だし。ま、何かあったらそのときはそのとき謝ればいいか。いくら国王直属騎士とはいえ私もそれなりには強いし、理不尽なことがあれば叛旗を翻しちゃえばいいわよね」


 よし、と気合いを入れて嫌々ながらもゆっくりとドアを開ける。そして私はひょっこりとドアの隙間から顔だけ覗かせた。


「はい」

「超上級ギルド白夜光のギルドマスター、シオン殿はご在宅か?」

「はい、私がシオンですけど」


 素直に答えると、二人の騎士は訝しげな様子で私の顔をまじまじと見たあと、顔を見合わせている。明らかに納得していない様子だ。


 一体どういう反応なのよ、それ。


「失礼。本当に貴女がシオン殿?」

「えぇ。正真正銘、白夜光のギルドマスターシオンですけど。疑うならうちのギルドメンバー呼びましょうか?」

「いえ、結構です。すみません、想定してたよりもお若い方だったので……その……なぁ?」

「はい。聞いていたよりもかなりお若くいらっしゃったもので、失礼しました」

「はぁ……?」


 とりあえず悪い意味で言っているわけではないということでいいのだろうか。若いと言われたことは嬉しいが、「想定してたより」という言い草が気になる。


 騎士たちの反応に、私はどういう人物だと認識されていたのか問いただしたくなるも、グッと堪えた。


「それで、私に何の御用件でしょうか」

「シオン殿には早急に王城に来ていただきたい」

「え、今から?」

「はい」

「今すぐに」


 頷く騎士達。

 そして「これは王命です」と言われて暗に私に拒否権はないことを示される。


「わかりました。ですが、なぜ私が呼ばれているのか教えていただいても?」

「申し訳ありません。我々は貴女を王城まで連れて行く任を受けているのみですので、内容までは」

「王から直接御用件をお話するそうです」

「そうですか、わかりました。支度するので少々お待ちください」


 王様が私に一体何の用なのかしら。


 思い当たることは何もないが、呼ばれたからには行くっきゃない。

 あいにくドレスなどの正装なんて持ち合わせてないのでいつもの服で行くしか選択肢はないのだが、この召集がもし未婚女性を集めた婚活パーティーとかだったら王様を恨んでやる。ま、ギルドマスターかどうか確認するってことは絶対に違うだろうけど。


 とりあえず一旦ドアを閉めて部屋に戻り、一通り装備は揃える。一応国王に謁見するのだからと身嗜みも整えておいた。


「では、行きましょうか」


 先程は顔しか出してなかった私が玄関を出ると、なぜか騎士たちは私の姿を見て再び驚く。


 だからそれ、一体どういう反応なのよ!?


 すごくヤキモキしながら、私は騎士達に促されるまま王城へと向かった。

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