第3話 聖女要請

「凄い……」


 思わず感嘆の声が漏れる。


 何を隠そう王城に入るのは初めてだ。

 というのも今まで何度か呼ばれる機会はあったものの、いずれも元カレの用事やギルドのクエストなどの予定が先に入っていたため、ダンスパーティーや祝賀祭など王城で行われていた誘いはことごとく断っていたのだ。


 って、今まであまり気に留めてなかったけど、これほどまでにダブルブッキングするのはある意味凄くないか、自分。


 そんなこんなで初めて入った王城はどこの建物よりも豪奢で美しかった。

 クエストで各地を旅してきた私は様々な建物を目にしてきたが、白を基調としたこの城は今までで一番美しいと言える自信があった。これまで、不運でここに来られなかったのが恨まれる。


「大臣。シオン殿をお連れしました」

「あぁ、ご苦労。して、そのシオン殿はどちらに」

「あの、大臣。こちらの方がシオン殿です」


 大臣の視線が私に向く。

 そしてギョッとした顔をして、「こらお前達、冗談はよしなさい」と騎士達を諌めた。


 ……そんなに私のイメージと本人像がかけ離れているのだろうか。

 ここまで毎度驚かれると、どんなイメージを持たれていたのか非常に気になる。絶対にいいイメージではなさそうだけど。


「あの、私がシオンですが」

「何ぃ!? ……本当の本当か?」

「えぇ、まぁ。これがギルドマスターの証です」


 肩につけていた紋章を見せるとまじまじと見つめる大臣。なんかここまで疑われるというのはさすがにちょっと複雑である。


「こ、これはまさしく超上級ギルド白夜光のギルドマスターの証……! これは失礼した。では、王がお待ちだ。早速中に入ってくれたまえ」

「わかりました」


 促されるまま謁見の間に通される。

 扉が開くとそこは謁見の間で、玉座には既に王が鎮座していた。その隣には王子も座っている。


 へぇ、王様と王子様ってこんな顔してたんだ〜。


 二人共顔は整っていて、金髪に碧眼。

 王様は髭を生やしていて、ザ・王様な風貌だ。

 王子様のほうも顔は整っていて、一般的なイメージとは違って顎は割れていない。さらに色白で綺麗に整えられているショートボブの髪もサラサラしてそうで、ザ・王子様といったようなキラキラした雰囲気を醸し出している。


 んまぁ、イケメンではあるけど、なんか物足りないというか私の好みではないかな。イケメンではあるけど。


 今まであらゆる行事に顔を出してなかったせいで王と王子の顔を知らず、ついまじまじと見てしまう。

 すると、「シオン殿。シオン殿。王の御前なのだから、そうまじまじと見るでない。不敬であるぞ」と大臣に耳打ちされて、慌てて頭を下げた。


「陛下。こちらがシオン殿でございます」

「うむ。彼女が……彼女が、か?」


 何なの、さっきから。そんなに私が白夜光のギルマスのシオンだと不都合なの?

 会う人会う人みんな同じ反応をされると正直傷つくんですけど。


 彼らははたしてどういうシオンを想像していたのか、とだんだん戸惑いよりも苛立ちが勝ってくる。


「はい。間違いなく、彼女が超上級ギルド白夜光のギルドマスターであるシオン殿で間違いございません」

「そうか。想像していたよりも……随分と若いな。まさかこんな細身の女性だったとは……ベヒーモスやゴーレムを単騎で倒したこともあるとも聞いていたが……そんな小さな身体と細腕で……」

「僕とあまり年が変わらなそうじゃないか……」


 あーなるほど。

 もっとおばさんでマッチョな体型をしていると思われていたのね。そりゃ、私の顔や身体を見るたびにみんなそんな反応するわけだわ。


 王や王子の言葉で自分が今までどういう風に思われていたか何となくわかり、彼らの反応に合点がいく。

 一応超上級ギルドのマスターということで人並み以上に名前が知れ渡っている自覚はあったが、まさかそんなイメージを持たれていたとは心外である。そこで、はたと気づく。


 え、ちょっと待って。もしかして、それが原因で婚期が遠のいているのでは? 超上級のギルマスってやっぱイメージ悪いのかしら。

 やっぱ能力隠してか弱い女のフリする? でも、今更能力を隠してか弱いフリしても先日みたいなことになっちゃったら元も子もないし。

 ならいっそ、強い女性を好きな男性に焦点を絞って狙うしかないわね。


 私が今後の展望について妄想を膨らませていると、「ごほん」と王が咳払いをする。ハッと我にかえると近くにいた大臣が「王の御前だと言っているだろう。集中したまえ」と小声ながらも強く指摘された。

 王の顔は特に変わりないが、王子は呆れたような顔をしている。それでもイケメンだ。


「それで、シオン殿。キミを呼んだのにはワケがある。単刀直入に言おう。次期聖女にキミが選ばれた」

「そうですか。私が次期聖女に…………って、はぁ!? 私が聖女!??」

「シオン殿!」


 大臣に不敬だと咎められるも、私はそれどころじゃなかった。


 聖女と言ったら国の平和の象徴。

 我が国の女性であればみんなが憧れる存在ではあるのだが、いかんせん国の安寧を保つための聖なるものの化身ということで生涯未婚でなければならない制約があるのだ。

 そのため、結婚したい私にとっては一番なりたくないものである。


「ご、ご冗談、ですよね……? 私、白夜光のギルマスですよ? 聖女とか程遠い存在ですけど。大斧振り回しちゃったり、魔法ぶっ放しちゃったりしますよ?」

「いや、間違いない。大司教が占ったところ、キミが次期聖女だと」


 大司教、勝手に私を占ってんじゃないわよ……!


 内心憤りながらも、そんなこと王様の前で言えるはずもない。

 というか言ったら最期。さっきから私の言動に顔を赤くしたり青くしたりしている大臣がまず卒倒するだろう。


「現在、我が国の聖女を務めているキャリーは齢八十でな。いよいよ旅は厳しいと言っておってな」

「は、八十!? 八十まで聖女やらせてたとか鬼畜すぎない!??」

「シオン殿!!」


 大臣からすっごく怒気を含んで名前を呼ばれるが、だって普通に考えて八十のおばあちゃんに今まで頼ってたってヤバすぎるでしょ。

 それに、もしかして、もしかしなくても私が聖女になったらその年まで国にこき使われるって言うの? 未婚で? マジで?


 想像するだけでゾッとして青ざめていく。


 絶対無理。死んでも無理。絶対に嫌だ。死んでもなるものか……!


「元々はもっと若い先代聖女がいたのだが、行方不明になってしまってな。それから先々代の聖女が復帰してずっと聖女としての役目を担ってくれているのだ」

「……あー」

「だからキミにすぐにでも聖女の座に就いてもらいたいと考えているのだ。そして聖女として国の安寧のために旅をしてもらいたい。もちろんキミ一人でとは言わん」

「えっと、同行者がいるということですか?」

「あぁ。我が隣に座している我が息子……ヴィルと一緒に旅をしてもらう」

「王子と、ですか……?」


 王子と目が合う。相変わらずイケメンだ。目の保養にはなる。


 けれど、好みではない。

 何回でも言うが、イケメンだけど好みではない。


 ここでもし王子が私の好みにドストライクだったら悩む間もなく即答してただろうが。


「どうだ、引き受けてくれるか?」


 王様にまっすぐ見つめられる。私の答えはもちろん決まっている。私の答えは……


「絶対に絶対に絶対ぜぇぇぇぇぇっっっっっっったいに嫌です!!!!!」

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