ダメンズメーカー聖女〜結婚したくて尽くしまくってたら最強の聖女になっちゃいました!〜

鳥柄ささみ

第1話 記念日

「今日のクエストは邪竜なりかけのドラゴン討伐だったわね。うん、対象はこれで間違いなさそう」


 見上げた先には私たちの背丈をゆうに超えた山くらいの大きさのドラゴン。

 邪竜と呼ぶまでの凶悪さはないものの、瘴気を放つ漆黒の毒の鱗を身に纏い、黒煙を吐いている姿は禍々しかった。


「これ、どうしよっかー? 焼く? 切る?」

「そんな軽いノリで……BBQしに来たわけじゃないんですから」

「シオンさん、もう少し緊張感持ってくださいよぉ」

「とりあえず弱点調べますから待っててください。いいですか、シオンさん。ステイですよ!」

「わかってるわかってる」

「グォオオオオオオ!!」


 突然雄叫びを上げ、こちらを睨むドラゴン。どうやら足の爪先ほどのサイズの私たちを視認したらしく、のそりのそりとこちらに向かってやってきた。


「あ、見つかっちゃった。じゃ、しょうがない。ちゃちゃっと狩っちゃいますか」

「待って待って待って!」

「まだ弱点不明ですけど!?」

「弱点もわからないのにこの人数じゃ無理ですよぉ」

「なーに言ってるの。まだ邪竜になってないし、超上級ギルドの私たちならできるできる!」

「いや、いくらなんでも……うぉ!?」


 話してる最中に吹っ飛んでくる巨大な尻尾。思いのほか機動性はあるらしい。

 打ちつけられた尻尾の跡は周囲を大きく吹き飛ばし、呪いの効果か辺り一帯を毒沼と化していた。不意打ちの一撃とはいえ、あまりの威力にギルドメンバーたちも慄き始める。


 けれど私にはこのあとに予定があるため、そんなこと気にも留めずに自分よりも遥かに大きい大斧を思いきり振りかぶった。


「はいはーい、泣き言はあとあと! 私このあと予定あるのよ。てことで、いっくよー!」

「ちょ、まっ!」

「まだ準備できてなーい!」

「大丈夫大丈夫! とりあえず一発いっとこー! はぁっっっっっっ!!」

「グァアアアアアアア!」


 防御魔法を身に纏って勢いをつけながら鱗の合間に一撃を与えると、ドラゴンの首から漆黒の呪いの血が噴き出す。

 痛みのせいか、ドラゴンは地響きを起こすほどのたうち回っていた。


「うへぇ。ほぼ邪竜になりかけてるじゃん。あ、これ普通に当たったら呪いかかって死ぬから、みんな気をつけて!」

「それ今言う!?」

「待って待って! どの魔法かけりゃいいの!?」

「んー、呪いに対抗するなら多分聖魔法じゃない? かけられる?」

「聖女じゃないのに、かけれるわけないでしょー!!」

「しょうがないなぁ。んじゃ、軽くだけど全体に聖魔法かけといてあげるから。……全てを邪のモノから守護せよ、ケア! よし、これで大丈夫。でも、あんま近寄らないようにねー。んじゃ、もう一発いくよー!! せーの!」

「待て待て待て待て!!」


 ドラゴンが体勢を整える前に間髪入れずにもう一発。今度は聖魔法を纏わせた大斧を大きく振りかぶってドラゴンの首にお見舞いした。


「グゴガァアアアアアアア!!!」


 ドラゴンは断末魔の叫びを上げると首が落ちる。そしてその巨体はバランスを失い、崩れるように倒れた。


「意外に呆気なかったわね」


 思ったより手応えがなくてつまらなかったが、とりあえずクエストクリアしたこととこのあとの予定に間に合いそうなことにホッとした。


「ほら、大丈夫だったでしょ?」

「えぇ……?」

「なんなの、この人」

「エグ」

「さすがシオンさん! 褒めてませんけど!」

「どーもどーも。じゃ、私このあと予定あるから! お疲れ!」


 みんなが呆れた顔で私に賛辞(?)を送ってくるのを軽く流す。時間を確認すれば予定まであと二時間。急げば間に合うはず。


「は?」

「え、ちょっ!?」

「いやいやいやいや、待って待って待って」

「このドラゴンどうするんですかぁ〜!?」

「現在進行形で呪い吐き出し中ですけど!!」

「も〜文句が多いなぁ。浄化魔法かけておくから。んじゃ、あとはよろしく!」

「おいおいおいおい!」

「せめて報告終わらせてから帰ってー!」

「シオンさーん! カムバーック!!」


 背後から悲痛な叫びが聞こえるが、私はとにもかくにも早く帰らねばならなかったので、みんなには悪いと思いつつも足早に我が家へと急ぐ。

 ギルマスという仕事も大事だが、今日は私にとってそれよりももっと大事なことがあるのだ!





「ふぅ。どうにか間に合った〜! 記念日に緊急討伐クエスト入って一時はどうなるかと思ったけど、さすが私。完璧ね!」


 私はシオン。

 家事万能、女子力抜群、高難易度魔法も使いこなせて最強の超上級ギルドマスターでもあるスーパー美女(自称)だ。

 両親は訳あって駆け落ちして私を産んだのだけど、父は邪竜に食べられてしまい、母は病弱で私がまだ年端もいかないときに病死してしまったため天涯孤独。

 だから私は早く家族が欲しくてすぐに結婚したいのだけど、彼氏ができるとつい尽くして尽くして尽くしてしまうせいか、歴代彼氏は借金したりニートになったり殴ってきたり私のものを盗んだりとまぁ見事なダメンズになってしまう。


 そう、私はいわゆるダメンズメーカーである。


 自覚はあるものの、つい気に入られたくて彼氏にはやはり尽くしたくなってしまうわけで。気づけば彼氏の要求に合わせてスキルを磨いていったら二十四歳現在、未婚のまま最強超級ギルドのマスターにまでなってしまった。


 だけど、こんな経歴もとうとう終わりを迎える。なぜなら今日は今彼との


 交際記念一周年!!


 今までの交際期間半年がせいぜいだった私にとってこんなに長く付き合うことは初めて。ということはつまり、そろそろ結婚の夢も叶うかもしれないのだ!!

 これでようやく私は報われる。晴れて家族を手に入れるのだ! そう信じていたのに……


「シオン、別れてくれ!」

「…………は?」


 彼が家に来て早々、私に突きつけられたのは別れ話。


 えーっと、これはきっと夢よね? さすがに交際記念一周年という記念日に別れ話するバカはいないわよね? と自分の頬をつねるが痛い。


「じょ、冗談よね?」

「子供ができたんだ」

「……えっと、誰の?」

「オレと彼女の」

「オレトカノジョノ?」


 これはもしかしてもしかしなくても浮気なのでは?

 しかも子供ができたってわかったってことは結構前から二股かけられてたのでは?

 え、というか私はなんなん? 私が本命じゃないの? まさかの浮気相手?


 突然の彼の告白に混乱していると、なぜか「シオンも優しいけど、彼女はシオンと違って頼りがいがあって優しくて甘えさせてくれて、とびきり美人なんだ。きっと産まれてくる子供も可愛いと思う」と聞いてもいないのにペラペラ語り始める彼。

 どうやら彼の話を聞くに、私がクエストなどで不在の間に愛を育んでいたらしい。


 つか、何気に私ディスられてるんですけど。


 今まで頼られ尽くしまくっての繰り返しだったため、今度こそ失敗しまいと超上級ギルドマスターなことや収入が高いことなど隠してか弱い女を演じて彼を立てるようにしてきたというのに、まさかそれが裏目に出るとは。


「……そう。じゃあ、しっかり出産費用や養育費稼がなくちゃね」

「そうなんだ。だから、その、できればシオンからお祝い金もらいたいなーなんて。あ、もちろんそんな高額でなくてもいいけど、ほら、金はないよりあったほうがいいだろ? シオンってなんだかんだ金持ちだし、ちょっと色つけてくれると嬉しいなーって。ははは」

「お祝い金……かぁ。そうよね、先立つものは必要よね」


 私はにっこりと微笑みながら魔力を解放する。


 __バリバリバリバリ……!


 私が魔力を放出させると室内に雷鳴が轟き始める。それは渦を巻き、竜巻のように彼を包み込んだ。


「し、シオン?」

「オッケー、わかった! 新しい門出を祝って、私が報酬稼げそうな地域に送り届けてあげるね」


 バチバチバチバチ……!


 渦に稲妻が混じり出す。

 事態をなんとなく察したのか、だんだんと青ざめる彼。


「いやいやいやいや、そういうんじゃなくて……っ!」

「遠慮しないで。とっておきのスポットに連れてってあげる」


 バリバリバリバリバリバリバリバリ……!


 さらに威力が増す渦。あまりの勢いに、だんだんと彼の姿が見えなくなってきた。


「な、なぁ! オレの勘違いじゃなければ、これって転移魔法!? でもまさか、シオンがそんな魔法使えるわけ……」

「そそ! 超上級レア魔法って言われてる転移魔法だよ! 結婚出産祝いで特別に魔力奮発しちゃうね! ……歯ぁ食いしばって味わえや!」

「待て待て待て待て!」

「図々しい浮気クソバカ野郎を遥か彼方の地へとぶっ飛ばせ! セドオン!!」


 魔法を唱えると魔力の渦が光に包まれる。そしてパッと光が拡散すると、彼はもうどこにもいなかった。

 彼の力量的にここまで帰ってくるまでまぁまぁ時間はかかるだろうが、雑魚モンスターが多い地方辺りに飛ばしたから死ぬことはないはず。多分。


「はぁ、今度こそ結婚できると思ったのに……」


 期待してたぶん、落胆は大きい。もうすぐ二十五。早く結婚して子供を産みたい身としてはやはり焦ってしまう。


「でも、結婚する前に浮気するクズ野郎だってわかったからよしとするか。次いこ、次!」


 私はすぐさま気持ちを切り替え、魔法によって荒れてしまった部屋の中を片付け始めた。

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