第30話 戦い方
「うぉおおおおお!!!」
「ヴィル! 魔法が強い! そのままだったら自分が焼けちゃうわよ!」
「え? うわぁ!?」
「はっはっは、ヴィルはダメじゃのう」
「グルー! 余裕ぶっこいてるけど、攻撃来てる!!」
「うぉっ!? 思いのほか早く動くのう、こやつ」
モルドーの村を出て、早速レベル上げのために徒歩で移動する。道中の魔物は推奨レベル五十くらいなので、レベル三十五のヴィルにはバフをかけ、ヴィルとグルーには共闘してもらって経験値を稼いでもらった。
ちなみに、私が参戦すると速攻で倒してしまうので、手出ししない約束で戦闘を見守っている。
現在はサイクロプスとの戦闘中で、巨体に四苦八苦しながらも連携をとりつつヴィル達は戦っていた。
「はぁはぁはぁ。……疲れた」
「ヴィルがもうちょっとマシな動きをしておれば」
「はぁ!? グルーが出遅れてたせいだろ!」
「はいはーい。言い合いしないの〜」
どうにかサイクロプスを討伐したが、なかなか二人の息が合わない。
似たもの同士だからか思考が似てるようで、どうもちぐはぐになっている。というわけで、現状は共闘など夢のまた夢といった感じだ。
「最初なんだし、しょうがない。まずはやってみることが大事なんだし」
「そうは言うがのう」
「全然できる気がしないんだが」
「そうやってネガティブにならないの。やれるって信じて続けてたらきっとできるようになるから、ね?」
励ますと恥ずかしいのか、ヴィルとグルーはお互い顔を見やったあとにそらす。
こういうとことかそっくりなんだけどなぁ〜。
相性は悪くないからあとはタイミングだとか協調性とかの問題だろう。特に協調性は壊滅的だから、そこを上手く伸ばしていくしかない。
一応元ギルマスとして、メンバーの補佐はしっかりとしていきたいと色々アドバイスする。
ヴィルは加減を覚えること。
グルーは周りをよく見ること。
この二つさえまずどうにかできれば、自然とタイミングなども合ってくるはずだ。
色々とレクチャーすると、納得した様子で頷きつつも、グルーは魔物の気質もあってか「疲れた。ちと休憩じゃ」とどこかへ飛んで行ってしまった。
相変わらず気まぐれなやつである。
「難しいな、戦闘って。ただ攻撃すればいいってもんじゃないんだな」
「んまぁ、雑魚敵なら何も考えずに攻撃すればいいんだけどね。レベルが上がってくると魔法攻撃が効かないとか物理攻撃が効かないとか、状態異常魔法かけてくるとか多種多様になってくるのよ。そういうのにも対応するとなると相手を見ながら攻撃しなきゃいけないし、頭を使わないと勝てなくなってくるかな」
「なるほど」
「ま、でも場数踏めばそういうのも自然と覚えていくから大丈夫。攻撃のタイミングだとか、魔法発動のタイミングだとかのクセってそれぞれ魔物によって違うけど、何度も経験することで自然と身体が覚えていくから、今からそんな身構えなくていいよ」
「そういうもんか……」
ヴィルが何やら考え込む。
特に何か変なことを言った覚えはないんだが、何か気に障るようなことでも言っただろうか。
「シオンもそうやって強くなったのか?」
「え、私?」
「あぁ、最初からそんなに強かったわけじゃないんだろ?」
「んー、まぁそう言われてみればそうだけど。とはいえ、昔から魔力はたくさんあったからなぁ……」
過去のことを思い出す。
物心ついたときから私の魔力はたんまりとあった。
実際、五歳くらいで十レベルくらいの敵なら瞬殺できていたし、両親がそれぞれ亡くなり孤独になってしまった十歳の頃には五十レベルくらいならギリギリ倒せるくらいには強かった。
とはいえ、両親が亡くなったあとは教えを乞う相手がいなかったから、誰に何を教わるでもなく魔法も戦闘も全て独学。
とにかく一人が寂しくて、結婚したくて、そのためには自立して強くなってお金を稼いで結婚相手を見つけようとがむしゃらに生きてきた人生だった。
「生まれたときから魔力に困ったことないし、ヴィルとはそういうとこちょっと違うかも? でも、私も最初は高レベルの魔物にボコボコにされたし、魔力あるからって最強ってわけでもなかったよ」
「そういうもんなのか」
「そうそう。言ったでしょ? 高レベルの魔物になると頭使わなきゃいけないって。だから小さいときは死なない程度に何度もやられて何度も挑んで勝つことが多かったかな」
「シオンも苦労してるんだな」
「やめてよ、しみじみそういう風に言うの。まぁ、程々よ。程々」
我ながら波瀾万丈な人生ではあると思うが、後悔はしていない。
というか、振り返ってしまうと前に進めない。
だから私は振り返らずに前に進むのみで、常に前しか見ていなかった。
「ずっと気になっていたんが、シオンって……」
ヴィルが何かを言いかけた瞬間、ドゴォォォォンと遠くから何か大きな音が聞こえる。
「何事!?」
「あそこにグルーが!」
ヴィルが指差す先にグルーがいるが、様子がおかしい。空を蛇行しながら急降下したり急上昇したりと不規則な動きをしている。
「グルー!? どうしたの……ってちょっと!!」
突然こちらに向かって急降下したかと思えば、視界に飛び込んでくる何か。どうやらよく見るとグルーは誰かを背に乗せている状態だった。
「おやおや、可愛い子達だねぇ」
「サキュバス!? グルー、どっから連れて来たの!」
「すまん、シオン。憑かれた!」
「何やってんの!?」
「おやおや、美味しそうな男がいるじゃないか」
「ヴィル、避けて!」
サキュバスが魅了魔法の投げキッスを飛ばしてくる。想像以上の速さで、まるで弾丸のようにヴィルに向かって飛んでいった。
「うわぁっ!」
「ヴィル、大丈夫!?」
「あ、あぁ、どうにか」
どうやらスレスレで避けれたらしい。
良かったとホッとしつつ上空を見れば、いつの間にか魅了を受けていたグルーが何やら近くの岩に向かって一直線に飛んでいった。
そして、グルグル言いながら岩にいやらしい動きをして抱き着いている。
「グルー! 何やってんの! それ岩だから!! そういうのやめなさい!」
「グルグル。ふふふ、愛しいハニーじゃのう。食べてしまいたいくらい可愛いのう」
「だから、それ岩だってば! 舐めないの!! ペッしなさいペッ!」
「うふふ。可愛い仔猫ちゃんだこと。さて次は貴女を魅了して、あ・げ・る」
「させるか!」
投げキッスが飛んで来る前に、グルグルと鳴きながら求愛しているグルーを岩から引き剥がしてすかさず魅了を解除する。そのまま素早く雷の魔法をサキュバスに撃つと、彼女は雷に打たれて影になって消えていった。
「はぁ、全く。ろくでもないことしてくれるんだから」
「すまん。困ってる人間だと思ったらまさかサキュバスでな」
「まぁ、人助けしようと思ったのはいいことだけど。ヴィルは大丈夫?」
「あ? あぁ、問題ない」
随分と口数が少ないヴィルを不思議に思いながら、休憩は終わりと次の村に向かって歩き始める。道中でもやっぱりヴィルは物静かで、なんだかちょっとおかしかった。
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