第15話 大都市マダシ

「ここが、大都市マダシ! 大きいー!!」


 グリフォンに跨りながら上空から街を見下ろす。

 先程のプハマの村と違って平地にあり、大都市というだけあって巨人でさえも入れないような高さのしっかりとした囲いの中に数多くの人々が行き交っているのが見える。

 水路を確保しているからか人だけでなく船も行き交い、活気に満ちているのが上から見てもわかった。

 緑も多く、人々の顔も晴れやかで、ここで問題が起きているようにはあまり見えなかった。


「マダシは国内有数の発展都市だからな。近くに大きな河川があるから、交易が盛んで人も多い」

「なるほどね〜。てか、ヴィルのくせによく知ってるのね」

「オレのくせにって。シオンはオレを何だと思ってるんだ。王子だぞ? 国内の都市くらいちゃんと把握してる」

「なるほど。ちゃんと勉強してて偉いわね」


 偉い偉いと頭を撫でて褒めると「バカにするなっ」と手を叩かれつつもなんだか嬉しそうにしているヴィル。こうして褒められるのはどうやら慣れていないらしい。


「さて、どこに降りましょうかね」

「ちょっと離れたところで降りないとな。近くで降りたらグリフォンを見て皆が恐怖でパニックを起こすかもしれない」

「そうね。透視魔法が効いてるとはいえ、なるべく混乱は避けたいから街からちょっと離れたとこで降りましょうか。とはいえ、透視魔法の効果的にもそこまで遠くで降りなくても大丈夫だし、そこのオアシス辺りにしよっか」


 一応念のため、グリフォンでの移動中は透視魔法をかけ、私達が見えないようにしている。そのため、今の偵察を含む現在の行動はマダシの街の人々から私達は見えないようになっていた。


 というのも、さすがにグリフォンで聖女が乗りつけるというのはイメージが悪い。

 一応聖女として活動している以上、魔物と一緒にいるというだけで下手に不信感を持たれてしまっては聖女の業務並びに婚活に支障をきたしてしまう恐れがある。それは絶対に避けねばならない。


「これでよしっと。はい、グリフォン。縮んで」


 無事に着陸すると、すぐさま人目につかないようにグリフォンに小さくなるよう促す。

 せっかく透視魔法を使ったのに、ここでバレたら意味がない。


「全く、グリフォン使いの荒いやつじゃのう」

「うん? 誰が私達についてきたいって言ったんだっけ?」

「ぐぬぬぬ。……ワシです」

「じゃあ、つべこべ言わないでさっさとする」


 パンパンと手を叩くと、グリフォンはまたみるみると小さくなっていく。そして手乗りサイズになると、ぴょんとヴィルの肩の上に乗った。


「そのサイズだと愛らしいのにね」

「ふんっ、威厳も何もなく可愛いと言われても嬉しくないわいっ!」

「そういえば、グリフォンって名前ないの? 呼ぶとき毎回グリフォンって言うのもアレだし」

「今更すぎるじゃろ! ワシの名はグレムルじゃ」


 あ、ちゃんと名前あったのねと聞いたくせに内心驚くも、顔には出さないでおく。


「じゃ、グルーで。グルーはなるべく大人しくしといてね」

「ワシの名が随分とフランクなものに……」

「てか、ヴィルはどうしたの? 急にフードを被ったりして」


 さぁ、街に行こう! というタイミングで突然目深にフードを被るヴィル。前回のプハマの村ではそんなことしなかったのに。


「いや、あの……実は……」

「何よ、はっきり言いなさいよ」

「なるべく、ここにいるとある人物に会いたくなくてな」

「うん? 何で急にそんなこと言い出すのよ。ここに来るのなんて国王に言われたときからわかってたんだし、言うならもっと早く言いなさいよ」

「いや、その、来てから思い出したというか……」


 そんなことある? と眉を顰めるも、ヴィルの様子から察するにどうやら本当らしい。

 さっきの明るい表情から一転、キョドキョドと挙動不審になっている辺り、すっかり忘れていたようだ。

 普通、会いたくないほどの人物がいるなら真っ先にその人のことを想像しそうものだが。


「とにかく、その相手はマダシの市長とかではないんでしょ?」

「そ、そうだが」

「だったらこんなに大きな都市なんだし、会う約束さえしてなければ早々に会うこともないわよ。大丈夫大丈夫」

「そ、そうか? 確かに、それもそうだよな」

「そうそう。むしろ会ったら奇跡でしょ。いや、逆に運命?」

「それは勘弁してくれ」


 考えるだけで寒気がする、と溢すヴィル。

 どうやらそこまで言うくらい相当会いたくない人物がいるらしい。それほど嫌悪する人物ということは、元カノとか何か因縁のある相手なのだろうか。


「なぁ、お主達行くのか行かないのか? ワシを縮めたんだ、どちらかはっきりせい」

「行く行く! とりあえず、どんな内容の依頼かはわからないけど、ちゃちゃっと行ってちゃちゃっと終わらせればいいんでしょう?」

「あぁ、そうしてくれると助かる」

「じゃあ、さっさと中入って用件聞いちゃいましょう! 用件の中身によってはすぐに終わるだろうし」


 なんて、私は未だに表情を曇らせて行き渋るヴィルの手を掴んで引っ張って意気揚々と大都市マダシの中に入ったのだった。

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