第13話 交渉
拘束の魔道具でぐるぐる巻きにし、身動きが取れない状態にする。その間グリフォンはぶるぶると震えていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい! つい出来心だったんじゃ! 何でもしますから命だけはどうかご勘弁を!!」
「えー、どうしよっかなぁ〜?」
「実はまだワシ人間喰うたことはないんじゃ! ちょっとした好奇心で喰うてみたいとつい言ってしまっただけで……!」
「へぇ〜? でも、プハマの村の人に生け贄を寄越せって脅してたんでしょ〜? 私が来なかったら食べようとしてたわけじゃない〜?」
「そ、それは……っ、ですが貴女様のおかげでもう懲りました! 人間はもう食べません! 今後はもう絶対に人を襲いません!!」
「ふぅん。……で? それをどうやって信じろと?」
ニコニコと微笑んで見せれば、再びぶわっと目に涙を溜め込んでぼろぼろと泣き出すグリフォン。
完全に立場は私が上である。
「こいつもこう言ってるし、許してやってもいいんじゃないか?」
グリフォンの嘆きに絆されたのか、おずおずと提案してくるヴィル。さすが温室育ちは甘っちょろい。
「甘い! これだから坊ちゃん育ちは甘いんだから! ごめんで済んだらギルドはいらないのよっ」
「それは、そうかもしれないが」
「言っておくけど、このまま野放しにしてもどうせ次はバレないように行動するだけよ。こういう口だけのヤツほど厄介なものはないんだから。それとも何? ヴィルは自国民が殺されて食べられてもいいってわけ?」
「い、いや、決してそういうわけでは……っ! そ、そうだな。悪い、今の言葉は忘れてくれ」
私に気圧されてすぐに前言撤回するヴィル。
頼みの綱が使い物にならなかったせいか、グリフォンがさらに嗚咽を上げながら泣き出す。
「うぐっ、えぐっ、お願いだから、殺さないでくだされぇぇっ」
「お黙り。それ以上泣き喚くようなら今すぐ焼きグリフォンにしてもいいのよ」
私がピシャリと言うと、すぐさま泣きやむグリフォン。やはり嘘泣きだったようだ。
「それで? さっき何でもするって言ったけど、実際に何ができるの?」
「えっと……? 実際に、とは……」
「あんたが使い物になるという証明よ。一体私にとってどういうメリットがあるわけ?」
「そ、それは……」
黙り込むグリフォン。どうせ詭弁だとは思っていたが、こうもあからさまだとは。
「やっぱり首と胴体を分けておきましょうか」
にっこりと微笑んで大斧を振り上げる。
すると「あああああああ! 待って待って待って! あ、空! 空が飛べます!」とグリフォンがジタバタ暴れ出した。
「それが私に何のメリットが?」
「ワシのところに来るまで徒歩じゃったろ? だから、ワシが移動で空を飛べば便利ではないでしょうか……!」
「ほほう。なるほど」
「そうだな。移動手段が手に入るのはありがたいかもな。毎回転移魔法使う手間も魔力も必要ないし」
「それはそうね。なんだかんだ転移魔法は魔力を食うからあまり頻発はできないし。それもアリかもね」
移動手段が確保できるのはありがたい。
魔力消費が減るぶん他にリソースを回せるのは大きいし、何より上空からならどんな場所へも行けるのは便利だ。
大きさ的にも私とヴィルの二人なら悠々と乗れるだろう。
「ということは私達の旅についてくるということ?」
「え? いや、呼ばれれば行きますが、ワシは別に行かなくても……」
「うん? 今、何て言った?」
私がにっこり口元を歪めて大斧を見せる。
「すみません、行きます! お供させてください!!」
よし、これで移動手段は確保ね。
だが、問題はこいつをこのままの状態にはしておけない。
というか、この大きさでは連れ歩けない。
移動するときはこのサイズでいいにしろ、さすがに普段連れて街や村に入るときにこのままではどう考えても現地の人に迎え入れてもらえないだろう。
グリフォンだし、魔物だし。
「ということで、縮んで」
「何が『ということ』なんじゃ!?」
「いいから、さっさと縮む。ほら、できるでしょ? 魔物は魔力操作したらサイズを自由自在に変えられたはずよね? その大きさだと連れて歩けないから、人前に出ても威圧感が出ないくらいに小さくなって」
「そ、そんな急に言われましても……っ!」
「はーやーくーすーるー」
パシ、パシ、と大斧を手で叩きながら催促するようにニコニコと微笑む。
「なんか、やってることは聖女というより魔王だな……」
「そこ、何か言った?」
「いや、何でもない」
ヴィルをジト目で見つつ、「グリフォン?」とグリフォンに早くやれと視線で促す。
「ぐぬぬぬぬ……っ」
グリフォンが泣く泣く身体を小さくし始める。そしてみるみると縮んでいき、手の平に乗るほどのサイズになった。
「おぉ、小さくなった!」
「これで、よいじゃろうか?」
「えぇ。では、そのまま大人しくしててねー。我は主人にて、この者を僕として契りを結ばなん……コネクト!」
私が呪文を唱えると、グリフォンの首に赤い首輪がかかる。
「これでよし、と」
「ちょちょちょちょっと待ってくだされ! ワシに何をしたんじゃ!?」
「うん? ペットには首輪は当然でしょう? これ、無理矢理外そうとしたり何か悪さをしようとしたりしたら自動で電撃が流れる仕組みになってるからそのつもりで」
「なんと!?」
グリフォンが驚愕する。まさか首輪までつけられるとは思ってなかったようだ。
「悪さをしなきゃいいだけよ。お利口なグリフォンちゃんならできるわよね?」
「あ、や、も、もちろんです、じゃ……」
「ということで、今後も移動の際はよろしくね」
「うぅぅぅぅ」
これで簡単には裏切れないだろう。私はにんまりと微笑むと、唖然としてるヴィルを引っ張って「さ、帰るわよ!」とグリフォンを再び元のサイズに戻して跨るのだった。
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