第4話 Rough


202X/4/13 水曜日 放課後?


「…ところでさ、ここから脱出するにはどうすればいいの?」


 地平線の先も同じ光景が続きそうな、荒廃した景色を見渡し、彼女にそう訪ねる。


『…ここはくろっちの潜在意識が生み出した空間、君の心の中のようなもの。君が、この世界をどう思ったかはウチにはわからない。

 逆に、君はこんなところからどうやって抜け出せると思う?』


…ここは私の潜在意識が生みだした空間、か。

 漫画に登場するキャラクターは、それを執筆している漫画家より博識なことは言えない、みたいなことか。


「エレベーターのボタンを一定の規則に則って順番に押したり、地下鉄で回送の電車に乗ったりすれば…」


 私は、思い浮かんだ異世界―霊界(?)―からの脱出方法を次々に挙げていく。


『なんか、オカルト感が強い物ものが多いね…世紀末のようなここの景色といい、君の心を作る【基盤ルーツ】はなんなんだろう…』

「…【基盤ルーツ】?」

『…なんでもない、独り言!

 さぁ、早くここを出よう!』


…意味のわからないことをAが言ったが、今は脱出が先か。私は道なき道を進み、出口を探し始めた。





 荒廃した異世界を進むこと数十分、駅のような外観の施設に到着した。


『君の予想通り、ここから出口っぽい反応がある。いい加減、ここの単調な景色にも飽きてきたし、早くこんな所脱出しようよ!』

「急かすな、慌てるな、騒ぐな。こういうところには、見張りが巡回しているのが定石なんだから」

『ソコを止マれ!』


 騒いでいたら、後ろから声を投げかけられた。

…最悪、Aのせいでバレたじゃねーか。


 振り向くと、警官のような格好をしたロボットが数名―数体か?―私の視界の先で佇んでいる。


『生命ヲ検知。殲滅もーどニ移行しまス。』


 ロボ共の動きを伺っていると、奴らは突然物騒なことを言い出し、警棒に酷似した武器を体の中から取り出してきた。 


『随分と、好戦的なロボットだね。』


 Aが呟く―自分は安全なところにいるからって、悠長なこと言いやがって―


「武器が必要。出来れば扱いやすいのを頼む。」


『…転送するから、受け止めてよね。』


 突如、私の頭上に裂け目が出来た。

 そしてそこから、一辺20cm程度の大きさを持つ、黒い立方体が現れた。

 私は鈍く輝くそれを、両手を使って受けとめる。重い。


「…これでどう戦えと?」


 私は、ただ重いだけの黒い塊を抱え、戸惑いの表情を見せる。

 確かに、この重量のものを奴の体をぶつければかなりダメージを与えられるだろう。ぶつけられればの話だが…


『…君の武器を、思い浮かべて。』


 Aが、私の問いに答えた。―質問の答えになってないけど―

 そう思いつつも、私はAの指示に従って、私がサバゲーで良く使う、一つの武器を想像した。

 すると、黒い塊が強い光を放ちつつ、私の愛銃、【グロック26】へと形を変化する。


『武器ヲ検知、素早イ制圧を開始しまス。」


 私が手にした愛銃グロック26を警戒したロボ共が、警報を鳴らしながら私へ襲ってきた。


「―こんな豆鉄砲で、あいつの装甲が割れるかわからないけど、やるしかない!」


 敵意むき出しのロボ共に焦点を合わせ、私は銃の引き金を引いた。

 銃口から放たれた【実弾】が、ロボの動力源と思われる部位を打ち抜く。

 盛大な爆発音と共に、奴等は粉々になった。


『…それこそ、天才達が叡智を結集させることで完成させた、この仮想現実での武器、【電子武装ホロアーツ】!

 仮想現実の力を利用し、思い描くものを何でも形にする事の出来る、夢のような代物さ!』


 私とロボ共の戦闘を、黒い塊の活躍を見て、Aが興奮しながら、私へ送って来た武器キューブの解説をし始める。

 しかし、その説明が正しいのだとしたら―


「私が想像したのって、サバゲ―のモデルガンなんだけど。なんで実弾が出ているの?」

『ウチは、武器を思い浮かべて、って君に言ったじゃん。

 その言葉が君の心の内に作用して、殺傷力のある物を無意識下で想像したのかもね。』

「かもね、って随分と適当だな。」


 はっきりとしないAの解説に呆れつつ、私は立方体の形に戻ったホロアーツを足元に置いて、ロボ共の残骸を漁った。


「物色、物色。多分、こいつらが改札を通るための切符的な物を持っているはず―やっぱりあった。」


 奴らの残骸から見つけたカード的なものを、改札に取り付けられているセンサーにかざす。


『―SKYカードを認識―完了しまシた。ゲートを開キまス。

―本日ノ御活動、御疲れ様でシた。』


 機械音声のアナウンスと共に、改札が開いた。


『…やっと終わった~!』

「Aは特に何もしていないでしょ。」

『失礼な!!

 ウチだって、この空間の維持とか、君のアシストなどなど、仕事が多くて大変なんだぞ!』


 Aの必死の弁明に呆れつつ、私は電車に乗り込む。

 すると、車体に取り付けられた窓から見える外の景色が、歪んできた。


『今日のところは、これでバイバイかな。

 依頼をしたくなったら連絡をするから、それまで待っててね。』


 さらに景色は歪んてゆく。


『それじゃあ、また今度、共犯者君。』


 そこで、私の意識は完全に途切れた。

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