17.『一つの戦いの終わり』

 レジーナとの戦いが終わって一週間後、ようやく『ナッシングリターン』の反動の脱力感が取れて、動けるようになった。あのあと、ユミとリツがアカリたちに加勢し、形勢は逆転。こちら側の完全勝利となった。

 あの戦いで魔王軍の軍勢は関門から立ち退き、ラバン王国は他国との国交が回復したようで今は交易が盛んな街へと変貌している。

 あの戦いの最中、一度も姿を現さなかったライドは街中で倒れているのを見つけられ、今は療養中だ。話を聞くと、魔崇教の司教と戦っていたらしく、かなりの切り傷を負っていた。

 今回の戦いで打ち倒したレジーナや魔王軍のことも気になるが、戦いの裏で動いていた魔崇教も気になる。

 魔崇教が怪しい動きをしているということはこの先何かが起こるのだろう。


「それにしても、今回はありがとう! 勇者たちっ!」


 上機嫌な国王が祝杯片手に感謝を述べる。あまり感謝をされていないようにも見えるが、それはないだろう。


「それで? 幹部にトドメさしたの、誰なのさぁ?」


「俺だよ。国王」


「ユウヤくんなの!? いやぁ、ミナスに頼んでおいて良かったよ。無属性の攻撃魔法だなんてそうそう、使えるものじゃないからね」


 声高に師匠の功績を称える。師匠は未だ、昏睡状態だ。目覚めるにはあと二週間はかかるとのことだ。


「さて、幹部を倒した君たちは近いうちに存在を公表しなければならないね」


「それはなんでだ?」


「……ヒーローを、作らないと、いけないから?」


 今の今まであまり喋らなかったシオンが口を開いた。か細い声でその要因を語る。


「その通りだよ、シオンちゃん。国民を安心させるためにも必要だからね」


「なるほどな……」


 幹部を倒したそれだけでも国民には十分な安心感を与えられる。それに安心できる要素を更に加えれば、俺たち勇者への期待値も高まる。そして、


「自分への支持を集めるためでもある、だろ?」


「おや、見透かされてしまったようだね。まぁ、そこまで隠すことではないだろうけとね」


 自分へ、国王へ支持が集まればその分、今までよりも大規模な、例えば、出兵などができるだろう。それを見越しての算段のようだ。


「ああ、そうだな。俺たちにとってはなんの損はない。むしろ、利用のしがいがあるしな」


「別にいいよ。僕も君たちの力を利用させてもらうし、君たちも僕の権力を利用してもいい。この世界を救ってくれるのならね」


「この世界、じゃなくて、この国ってのが国王的には正しいんじゃないの?」


「いいや、この世界のためだよ。僕は純粋にこの世界を守りたいんだよ。まぁ、この話は置いておこうか。それで君たちの公表の話なんだけど」


 国王は俺の挑発に乗らず、あっさりと話の軸に戻る。


「アカリ、リツ、あと頼んだ」


 いつもの話の進め役の二人にこの話を託す。俺にはこういう役目は苦手だ。


「はぁ、わかりましたよ。で、国王。どのように公表するのですか?」


「そうだよ。パレードでもやるの?」


 パレードなら、この国王ならやりそうなことだろう。何かを仕掛けてくるのはわかり切っている。


「パレードという言い方より、お祭りって言う方が通りがいいかな? 初討伐祭を開こうと思うんだ」


「初討伐祭?」


 聞き慣れないが、大体の予想は付く。


「うん。お祭り感覚なら、君たちも気張らないでいいでしょ? 国民も楽しめてみんなハッピーってね」


 国王なりの気遣いなのだろう。公表するということは大勢の前に出るということだ。その緊張をほぐすために祭りという形で行うのだ。それに幹部との戦いで疲れ切った俺たちへの労いでもあるのだろう。国王なりに考えているようだ。


「確かにそれなら国民も集まって来やすい。よく考えているのですね」


「まぁね。これでも一応、この国の王だからね。ということで、頼んだよ」


 こうして、国王の話は終わった。


     ※    ※    ※


「ありがとうな。ユウヤ」


 国王の話が終わったあと、自室に戻り、気を休めていた。そこにタクミが用があると入ってきたのだ。そして、感謝をされている。それが今の状況だ。


「いきなりどうした? 俺、お前に感謝されるようなことしたか?」


 いきなりのことで何がなんだかわからない。感謝されるようなことをした覚えがない。俺は何をしたんだ?


「俺が突っ伏してたらお前が戦えって叫んだんだろが。お前が俺を奮い立たせてくれたんだぞ?」


「いや、そんなに俺の言葉に力あった!?」


 確かに叫んだが、そこまでタクミの心に刺さるほどの力はなかったと思う。


「俺にはかなり響いたぜ。お前のおかげで本当の目標なんかも見つかったしな」


「へぇ、どんなのだよ?」


「それはいくら親友のユウヤくんにも教えられないなぁ」


 スッキリした様子でタクミは笑ってベランダに出る。

 風が気持ち良くそよぎ、夕焼け空が綺麗だった。


「まぁ、いつか俺の目標が達成した時にでも話してやるよ」


「お前らしいな。ま、気長に待つとするわ」


 いつか、タクミの目標が達成する日を俺はいつまでも祈ってやるか。


 お互いに笑い合い、そのあともたくさんのことを夜食の時間になるまで話した。


     ※    ※    ※


 風呂に入り、今は自室でくつろいでいた。灯りを消してもう寝る準備はできている。

 しかし、なんだか胸騒ぎがする。中々寝付けない。いつもはよく眠るくせになんでこんな時に。


「明日から祭りの準備があるからか? いや、それにしては寒気もするな。なんだ? 風邪か?」


 しっかりと寝て、食べて、風呂にも入った。なら、風邪なんてひくはずがない。

 周りを見回す。そしてふと、その原因に気が付いた。


「ベランダの窓、開けっぱじゃねぇか。そりゃ、寒いわけだ」


 タクミとの話で開けたベランダの窓を閉じていなかったのだ。

 今、この世界は秋頃。そして寒さ的には秋の中旬といったところだ。ちょっと風吹けば、肌寒く感じるのは当たり前だ。


「この一ヶ月、本当に色々あったなぁ。異世界に召喚されたり、メリナ助けたり、師匠と地獄の訓練したり、ボスモンスター倒したり、魔王軍の幹部倒したり、……本当に色々あったな」


 小学生の夏休みのように色々なことをした。夏休みは一般的には一ヶ月、俺の夏休みは面白おかしく終わるのだ。

 秋の風に当たりながら風流のあることを考え、ベランダの窓を閉める。

 窓から差し込む月明かりは今日も紅く、その光を増していた。

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個性豊かな異世界召喚 佐原奏音 @Sahara_kanato

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