8.『必死の抵抗』
「ブオオオオオオオオ!!」
(ヤバいヤバいヤバい!! 何でこんな所にミノタウロスなんて化け物出てくんだよ! 死ぬよ!)
思わぬ魔との遭遇に死を感じる。
今すぐに逃げないと死んでしまうかもしれない。
しかし、一人でも化け物級に強い師匠はともかく、無防備なメリナを置いていくことはできない。
なんとか策を考えなくてはならない。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!)
「ユウヤ! 落ち着け!」
恐怖で焦りが身体中に拡がるのを裏腹に師匠が声をかけてきた。
「アイツはお前も知っているようだが、ミノタウロス。国からボスモンスターに指定されている強敵だ。だが、逃げてもすぐに追いつかれるぞ。メリナちゃんを助けるためにお前の訓練の成果を存分に出してやれ!」
そんなことを、と言いそうになったが、メリナを助けるには俺が動くしかない。
どの道逃げられないのなら、抵抗するしかないのだ。
「メリナ! 大丈夫だからこっちに……あれ、何してんの?」
「はあ、ミノタウロスか。それくらいなら私も大丈夫。すぐに終わらせるから」
そう言い、メリナは手を突き出し、
「氷魔法!? しかも、氷柱の大きさはどらも均一で精巧に作られてる、どうやったら、そんな綺麗に魔法が使えるんだよ!?」
「氷属性だけは得意なの。でもその話は後回し! 今はコイツを倒すのを考えよう!」
作られた氷柱はミノタウロスに狙いを定めた。
次の瞬間、四十を超える氷柱の包囲網がミノタウロスを襲う。
「いけぇぇー!」
やった、とそう思った。
しかし、掛け声虚しくミノタウロスはほとんどの氷柱を手に握られている斧で薙ぎ払う。
いくつかの氷柱はミノタウロスに命中するが、大きなダメージにはならなかった。
「ウソ……でしょ?」
さすがのメリナもあの大きな体から考えられない素早さから呆気に取られたようだ。
ミノタウロスは目測ではあるが五メートルはあるだろう。そして筋骨隆々。
そんな巨体が軽々と斧を振り回し、攻撃を防いだのだ。
「メリナ! 上!」
とっさに俺に呼ばれたメリナはこっちを振り向いただけで動作が終わった。
ミノタウロスは斧を振りかざし、斧の刃先はメリナへ勢いよく向かっていった。
「ーーっ!」
師匠が寸でのところでメリナを押し倒し、命を救った。おかげでメリナの紫の髪がいくつか宙を舞うのみで済んだ。
「そらっ!」
師匠がメリナを庇ったまま片手で雷魔法を放つ。氷柱とは違って、防ぎようがなかったのでかなり効いたようだ。
だが、流石のボスモンスター。一発ではやられなかった。
ミノタウロスが斧を振りかざす。師匠はそれを見て、魔法障壁を作り出し、自身とメリナの身を守った。
「ユウヤ! いくら私でも、攻撃魔法以外は得意ではない! それに魔力も魔法障壁でほとんどない! だから、お前に頼るしかないんだ! せめて、少しでもダメージを与えつつ、隙を作ってくれたら倒すことができる!」
「わかりました! やってみます!」
と言っても俺には攻撃魔法なんてものはない。俺の『ギフト』も近くに属性に関わるものがなければ付与できない不便な魔法だ。
なら、
「師匠、火属性魔法をその辺に放ってください! 俺が『ギフト』を使って剣に付与します」
「わかった。頼んだぞ!」
師匠は俺の願いを聞き届け、火を放った。
火は俺の近くで燃え上がり、その威力を強めた。そこへすかさず、『ギフト』を唱える。
「『ギフト』!」
『ギフト』の効果で剣が火に包まれた状態へと変化した。
しかし、これであと使える回数は四回に減った。
(これで多少は戦えるだろうが、あと四回で片付くか?)
不安が残るが、今はそれどころではない。
ミノタウロスはいまだに魔法障壁を斧で叩き壊そうとしている。先程、師匠は魔法障壁は苦手だと話していた。長くは持たないだろう。
ミノタウロスの注意を引くため挑発をかける。
「おい! この筋肉ムキムキの化けモン! 俺が相手になってやるよ!」
ミノタウロスはゆっくりとこちらへ顔を向ける。魔法障壁が破れないのに苛立っているのか鼻息が先程よりも荒い。
闘牛のような興奮具合だ。
「さーて、アイツはこっちにターゲットを変えたが、こっからどうするかな」
こちらに注意を引いたあとは何も考えていなかった。
「うわっ!」
ミノタウロスが斧を振り下ろす。地面には亀裂が走った。
「あんなのアリかよっ!?」
ミノタウロスの攻撃を避けるので精一杯だ。こちらが攻撃をする余地なんてない。隙を作るなんてどうしたらいいかもわからない。
「結構、キツすぎんだろこれ。せめて動きさえ止められれば」
そう思っていると体の底から力が湧き上がる気がした。
「ユウヤ! 今お前に肉体強化魔法をかけた! これで攻撃が与えられるようになるはずだ!」
「私もアイツの動きを止めるの手伝います。『アイスフロア』!」
メリナが唱えると、ミノタウロスの足下が一面、氷に覆われた。
そして、俺の足下にも氷が敷かれたが、敵とみなしたものにしか効果はないようだ。
ミノタウロスは自身が滑らないよう体の軸を保つため隙ができている。
が、師匠は少しダメージを与えてくれと言っていた。おそらく、一撃で仕留めるのは困難だからだろう。俺が少しでも弱らせる必要がある。
「サンキュ、メリナ。これで少しは優位に戦える」
地を駆け、ミノタウロスへ近付く。注意すべきは斧のみだ。だが、ミノタウロスは体を支えるのに身動きがとれなくなっている。
「これならやれる。うらぁ!」
一撃を食らわせる。ミノタウロスの横腹に一線に血が引かれるのと同時に傷口から火が燃え上がる。
火傷をすれば傷口を抑えられるというが、この火は段々と全身へ燃え移る。傷口のみならず、全身へと火が回り、生き物を灰に変える。
『ギフト』にはもう一つ効果があり、付与したものを一回り、威力を上げる効果がある。しかし、欠点があり、一つのものしか付与できないというのが惜しい点だ。
「どうだ! ボスモンスターのくせして、初心者に負けるとかダセーな」
それがミノタウロスを怒らせたのか、ミノタウロスは自らその場に伏せ、氷を溶かしていった。
これがフラグ回収というものか、と後悔の念と共に出てきた考えだった。
「ブオオオオオオ!!」
燃え盛るミノタウロスが突進してきた。いきなりのことで反応がワンテンポ遅れた。
(これは、避けきれねぇ)
ミノタウロスが俺に近付くと、斧を振り下ろした。
咄嗟に剣でガードしたが、剣は折れてしまい、俺も大木に吹っ飛ばされてしまった。
「どおっ!」
幸い、切り傷は無いが、木にぶつかったせいで身体中に激痛が走る。反動で吐血もした。骨もいかれたかもしれない。
「痛てーけど、諦めきれねぇだろ!」
「ブオオオオオオオオオ!!」
手負いの俺へミノタウロスが見計らったように斧を振り下ろす。
(でもこれ、死ーー)
ミノタウロスの斧が俺に直撃する。
次の瞬間、俺の脳が縦に両断され、血肉が辺り一面に広がった。
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