5.『死神との対面』
異世界生活が一日目を終え、二日目を迎えた。
昨夜は月が綺麗であった。
この世界の月は紅く、魔を彷彿とさせるもので不思議と引き寄せられる感じがした。
異世界の幻想的な部分を見れた気がした。
昨夜の夕食時にユミとタクミは他の勇者に挨拶を終わらせ、みんな、歓迎ムードで俺たちの異世界入りを祝ってくれた。
食事を終わらせた後、大浴場へと向かった。火の魔法で沸かした湯は直に魔力を身に染み込ませる効果付きだった。
風呂を上がった後のメイドさんたちの火属性と風属性の魔法を合わせて作られた簡易的ドライヤーは異世界の面白さを感じることができた。
就寝前に国王の側近の人に国王からの伝言で朝食を終えた後、王の間へ集まってほしいと言われていた。
用意されていた服に着替え、身支度を終え、ユミとタクミと一緒に行こうと思い、別々に用意された部屋へ行くが、先に行っているようだった。
(できれば起こして行ってほしかった……)
食卓へと入るが誰もいない。
残っているのは食器を片付けているメイドさんのみだった。
朝食をそそくさと済まし、王の間へと足を運ぶと、他の勇者たちが先に集まっていた。
まずは今の状況を確認する。
「タクミ君、タクミ君。もしかして、俺で最後だったりする?」
「もしかしても何もその通りだとも、ユウヤ君」
何か含みのある言い方だった。
「オレたちは時間通りに集まったんだが、ユウヤお前、二十分の遅刻だぞ。みんなその間お前が後どれくらいで来るか賭けをしていたくらいだ」
「ホントに悪いとは思うけど人で遊ばないで」
みんなを待たせ、タクミとリュウジに遅刻したことを咎められて、ちょっとした罪悪感が生まれた。
「まぁ、ユウ兄は昔から一度眠ったら中々起きないタイプだったからね」
「てか、ユミもタクミも部屋が隣なんだから起こしに来てくれても良かったじゃねえか!」
「何度も起こそうとしたけど起きなかったのはお前だからな? あと五日だけって言ってたぞ」
「なっ! それはゴメンナサイ」
平日いっぱい!? そうツッコもうとしたが、それを言える立場ではなかったので引っ込めた。
ユウヤは自覚は無いが中々起きることができないのはよく聞かされていた。
直したいと思ってはいるが無自覚のために難しいのだ。
「勇者たち、仲がいいのはいいことなんだけど、そろそろ僕の話に移ってもいいかな?」
「ああ、いいですよ」
国王が誰にも構ってもらえず少し寂しそうに聞いてきた。
(やはり、髭のあるおっさんがやるには気色悪いな)
(可愛い女の子ならまだ許せるけどこれは気色悪い)
(これは違うな)
周りから国王を貶す小言が聞こえてくる。みんなに好かれているのか嫌われているのかどちらかにしてもらいたい。
「新たに三人の勇者が加わって、ようやく十人の勇者が揃った。これで魔王軍に対抗出来るようになった。やつらの進軍も止められる」
「そんなに改まってど……」
「ありがとう。勇者になってくれて。本当にありがとう」
国王は悪ふざけの無い、感謝のみ気持ちを込めて頭を下げた。
いきなり感情の移り変わりを見て、
これは気持ち悪くなかった。
「父上は今まで魔王軍という重圧に苦しんできた。国民が殺され、国民の不満が集まる中、自分なりに責務を全うしてきた。それが今、解放されたんだ。裏でアホになっていたのは辛い顔を見せない為だったのかもしれないな」
隣でライドがそう解説した。国王は今までそんな辛い思いをしてきたんだな。
※ ※ ※
「さて、この世界の現状について僕の側近のスコットが話そう。スコット頼む」
先程から国王の側にいた側近の人が指名された。
「はい。魔王軍は今、幹部が世界中に蔓延って王国を一つずつ壊滅させていってます。今もこうして話している間にも人々が恐怖に陥れられているでしょう。このラバン王国にも魔王軍幹部の一人が軍を率いて、攻め込もうとしています。今のところは王国の騎士や魔術師が食い止めておりますが防戦一方なのでいつ危険が来ようかわかりません。そこで戦力確保のため、貴方方が召喚されました」
スコットが長々と説明してくれたが、話を短く纏めるとこうだ。
魔王軍の幹部がすぐそこまで来ていて危険だから勇者たちを召喚した、ということだ。
魔王軍は相当恐ろしい存在でこの国が追い詰められているということはわかった。
(俺達に倒すことができるのか?)
「さらに、その魔王軍の幹部は他の国に繋がる関門を全て占拠しているので武器も食料もできなくなってきています。兵糧攻めを狙っているのでしょう」
確かに先程急いで終わらせたが食事が質素な感じがした。これも魔王軍の仕業だったのか。
「なのでそうなる前に皆さんには魔法を修得してもらいます。今からこの魔道具を使い、皆さんの適性属性を調べます。ここに用意してありますので一人一人、魔道具に取り付けられた水晶玉に手を翳していって下さい」
綺麗な水晶玉だ。不思議なオーラを微かに感じる。
「十の属性からその者に適性する属性を手のひらから出てくる微量の魔力を抽出し、文字となって、水晶玉に浮き出てきます。火属性なら火、風属性なら風となります」
「それじゃ、私から行くね」
ユミが先陣を切って、魔道具に手を翳した。すると、魔道具はユミの魔力に反応して、強く光を出し、薄っすらと文字が浮かんできた。そこに見えるのは『聖』の文字。
「おめでとうございます。ユミ様は聖属性の勇者です」
「やったぁ! 成功した!」
ユミに属性が決まったことで、みんなも自分は何の属性だろとドキドキしている。
ユウヤも内心かなり楽しみだった。
その後もみんな、順番に手を翳していき、最後はユウヤとなった。
今のところ、
ユミ:聖属性、タクミ:風属性、アカリ:火属性、シオン:水属性、リュウジ:土属性、モトキ:毒属性、スズネ:氷属性、リツ:闇属性、シュウヘイ:雷属性
となっている。
(俺は何属性なんだろうなぁ。……ん?)
ユウヤの嫌な予感センサーが反応した。ユウヤは急いで魔道具に手を翳した。するとそこに浮き出ていたのは……『無』の文字。
「レミィィィ! 俺、嫌だって言ったじゃんかよぉ!」
嫌な予感センサーは的中し、ユウヤはその場に存在しない神に対して、絶望の嘆きをあげた。
水晶に浮き出た文字は『無』の文字、それは無属性ということを示す。何度見てもそれは変わらない『無』だ。
この世界に来る前にユウヤは無属性は嫌と実際には言ってはいないが、思っていた。
嫌だと思っていたこと、それが今、現実に起こってしまった。
「ユウヤ様、安心してください。無属性はほとんど攻撃性のある魔法はありませんが、無属性の使い手は滅多にいません」
「それってどういうことですか?」
「無属性は攻撃性がほとんどありません。加えて、攻撃性のあるものはかなりの魔力の持ち主でないと使えないのでほとんどの人が習得しようとしません。ですので、無属性は珍しいのです。それに貴方様は勇者です。勇者なら人並外れた魔力を持っているはずです」
「本当か?」
ライドに尋ねると、ライドはコクリと頷き、崩れ落ちていたユウヤに手を差し出してくれた。
「それじゃあ、ユウヤ君が落ち着いたところで次の工程へ移るよ。次は魔法を扱えるようになるために一ヶ月ほど、訓練に参加してもらうよ!」
「「おお!!」」
みんなやはり、魔法を使いたくてウズウズしていたようだった。
かくいう俺もとても魔法を使いたがっていた。
魔法と言えば、ファンタジーものでは定番のものだが、現実では使うことができない。
その魔法が実際に使えるのだ。
「一人一人、講師と中庭を用意してあるから魔法の訓練、頑張ってね。特にユウヤ君は」
「何で俺だけ!?」
「君、無属性になっちゃったでしょ? だから、早く攻撃性のある無属性魔法を覚えてもらいたいから、国一番の宮廷魔導士の人に無属性の人を鍛えてほしいって、もう頼んじゃっているんだよね」
宮廷魔導士。
国王直属の高名な魔道士でよくゲームやラノベで強キャラポジションの役職だ。
そして、主人公たちのサポートをしたり、魔法の指導をしてくれたりといろいろ頼りになることも付け足しておこう。
「それで特に、っていうのは?」
国王はその質問に対し、少し戸惑う素振りを見せたがすぐにその理由が分かった。
「その人なんていうか、かなりの変わり者なんだよね」
国王が頬を掻き、少し目を逸らす。
「どう変わっているんだ?」
「魔法の教え方がかなりスパルタだし、色々と自分ルールってのがあるみたいなんだ。それにかつてたった一人で魔王の幹部を、
(『死神』か、しかもライドに次いでって相当、ヤバい人なんじゃないのか?)
ライドも魔王の幹部を追い詰め、『ラバンの
鬼と死神どちらも危険な印象のある名前だ。
「今は魔術学院の理事長なんかもしているみたいなんだけど、昔は同じ学院に通う僕の同級生でね、まぁ、年齢不詳で魔法で何度も姿を変えているから、本当に同級生かはわからないけど。あ、でも、ちゃんとした人間だと思うよ。でも、同じ学院にいたときに何度か殺されかけたんだよね」
魔法で姿を変えるのは魔女だろうか。聞いただけではそんな魔のイメージしか思い浮かばない。
「僕も三年程、あの人に指導をしてもらったな……剣一本持たされて、無人島に捨てられ、自力で戻ってこいって言われて、戻れたと思ったら今度はダンジョンの奥に二週間も一人置いてかれて……」
「国王もライドもこの国のトップだよね!?」
国王は身震いをしており、ライドは思い出したくも無いものを思い出したせいか顔が青ざめていき、しかも少し冷や汗を出して、ブツブツ何か呟いている。
(あのライドがそんな状態になるほど恐ろしい人なのか……。国王や王子ですら殺しかける人。俺、生きて帰れるのかな?)
※ ※ ※
指定された中庭に行き、そこにあったベンチに腰を掛けて本を読んでいる女性がいる。
女性は俺に気付くと、読んでいた本を閉じ、立ち上がった。身に纏ったローブを翻し、ユウヤの下へ歩み寄ってきた。
「君が無属性の勇者か。私は君の魔法の講師を務める、ミナス・ガードナーだ。よろしくな」
「俺はムクノキ ユウヤです。こちらこそ、これからよろしくお願いします。ミナスさん」
そう返事をし、握手を交わした。
『死神』とも呼ばれているようだが、全くそんな風には見えない。
「それと私のことをミナスさんと呼ぶのはやめろ。代わりに師匠と呼べ」
「はい! わかりました師匠!」
この師匠呼びが国王の言っていた自分ルールというもののようだ。
このくらいであればユウヤならまだ耐えられる。
「それと私の指導を受けるからにはいくつか大切にしてもらいたいことがある。一つ、私の指導についてこられないのなら舌を噛んで死ね!」
(……は?)
「二つ、私の指導で死んでも、私は一切責任を負わない! 三つ、指導を受ける際、毎日私に一日二十個限定のレッドドラゴンの卵で作ったふわふわ卵サンドを買ってくること! 以上!」
(……マジか)
国王やライドが唸るのも無理はないとそう感じた。
ふわふわなど可愛いところを見せてるように見えるがミナスは全然そんなことはなかった。
ユウヤは察した。
ミナスはライドを越える逸材であると同時に、これから自分は人として扱われないことを。
「それにしても無属性なんてよく引き当てたものだな」
「なんか、すみません」
(俺だって、無属性は最初から嫌だったよ。火とか雷とかカッコいいイメージのある属性の方が良かったよ。でもさ、なってしまったものは仕方ないじゃん。俺、悪くないじゃん。そんながっかりした顔しないでほしい。すごく不安になるから)
「だが、無属性には無属性に合う指導をする。付いて来られない時点で即、お前を勇者から引きずり下ろす。逃げ出そうなんて考えるなよ。捕まえた時点で即、お前の股間に付いてるものを捥ぐ。それでもやるか?」
不意に股間を押さえる動作をする。
恐怖しか出てこないがこんなことで引き下がれない。勇者としての使命を果たすためにはやり遂げるしかないのだ。
「はい! 師匠に付いて行けるよう努力しますのでこれからしばらく、お世話になります!」
不安しかないが、自身に気合いを入れ、これからのことは何も考えずにただ師匠に従おうとやけくそとも思える決意をした。
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