4.『初めましてと漏れ出る殺意』

 ライドとの親交を深め、俺は王城へと向かった。

 王城は近くで見るとかなり大きく、この国の国旗らしきものがはためいていた。

 道中、周りが道を開けたりしていたが恐らく、ライドがいたからだろう。

 未来の国王陛下が普通に街中を歩いていたら、驚くのも無理はない。俺は、みんなには殿下の護衛とでも思われてたのだろう。ライドには護衛も何も必要ないだろうが。

 だから、俺にも誰も近寄ろうとはしなかったのだ。


「着いたよ。これがこの国を象徴する城であり、僕の家だ」


「城を自分の家って言うやつ、俺、初めて見たわ」


 そんな小ボケをさらっ流し、城内へと入った。

 城内には多くの兵士や使用人がせかせかとそれぞれの仕事をこなしていた。

 すると、一人の使用人が俺たちに気付いたのか他の使用人たちに並ぶよう呼びかけた。


「ライド殿下、よくお戻りで。そちらの方が先程連絡のあった勇者様でございますか?」


「ああ、彼が八人目の勇者、ムクノキ ユウヤだ」


「おお、あなた様が。申し遅れました。私はこの城の執事長を務めております、サリバンでございます」


「えと、よろしくお願いします。サリバンさん」


 サリバンさんは整えられた髭が美しく、身なりもきっちりとしている。その老け顔も凛々しく見える。


「それではムクノキユウヤ様こちらへどうぞ」


 その時、サリバンさんの案内を遮って声が入った。


「サリバンさん、わたくしの紹介がまだなのですが」


 声がした方を向くと、メイド服を来た、ブロンドヘアの若い女性がいた。


「ああ、すみません。ムクノキユウヤ様、彼女は城のメイド長のような物、エルダでございます」


「サリバンさん、勝手にわたくしの紹介をしないでください。それにわたくしはメイド長のような物では無く、メイド長なのです。黒焦げにされたいのですか?」


「いえ、エルダさん、私の紹介で合っているはずです。だって貴方はメイド長としての仕事をすべて他のメイドたちに任せっきりで何もしていないではありませんか」


 エルダの切れる音が聞こえた。


「サリバンさん、今日こそ焼き尽くして差し上げましょう!」


「ふん、私に勝てると思っているのか! 闇に染まれ若人《わこうど》が!」


 そう叫び合い、二人は魔法を放ちあった。エルダは火でサリバンは闇か。

 何が二人をここまで奮い立たせるのだろう。


「ユウヤ、あの二人はいつも、ああだから気にしないでくれ」


「あんなに激しく争っているけどいいのか!?」


「止めた方がいいけど、二人はこの国でも数少ない上級魔法を扱える才能の持ち主だ。いくら僕でも少しキツいな」


「そうなの!?」


 ライドでもキツいほどの強さを誇っているのか。


「まぁでも、さすがに勇者を前にしてこれは失礼極まりない。大人しくさせるか……八の太刀『落雷轟轟《らくらいごうごう》』!」


 そう叫び、ライドは腰に掛けた剣を抜き、大きく振り下ろすと、目が潰れるほどの光と大きな落雷の音が響き……いや、轟き渡った。光が消えかかってくると床に膝を付く二人がいた。


「少しは頭が冷えたか?」


 二人の前に立ち、問いかける。


「申し訳ありませんでした。殿下」


「頭に血が上ってしまい、何と言えばよろしいのか」


「いや、いいんだ。ただ、城内で魔法をあまり使わないでほしいだけだ。ユウヤ、終わったよ」


 こちらを振り向き微笑むと鞘に剣を戻した。

 またもや、ライドの強さを目にした。


「ライド、お前、少し大人しくっつったよな。でもよ、全然、少しどころじゃねーーよ!! 眩しいし、うるせぇし、なんだよお前! 今までのじゃ、まだ強者アピール足りねーのか!」


「心外だな、今のは僕の剣技の一つ、八の太刀『落雷轟轟』。目を焼くほどの光に大きな轟音で視覚と聴覚を同時に失わせる僕の剣技唯一の防御に特化したもので……」


「防御に特化し過ぎだっ!」


 ライドの剣技の説明を遮り、ツッコミを入れる。

 それほどまでに特大な剣技だったのだ。

 危うく、鼓膜の替えが必要になるところだった。


「まぁ、良しとして、それでは父上のところへ頼む」


「わかりました。ムクノキユウヤ様も失礼しました、では、こちらです」


 そう言われ、付いて行くと大きな扉の前で止まった。

 ここに来るまで、城のあらゆる扉をみたが、この扉からは他の部屋とは重圧感が異なっており、細かい装飾が施されており、槍を持った兵士が扉の前で番をしている。


「この中に国王様がいるんですか?」


「はい、それと他の勇者様方も後程、いらっしゃると思います。それと、


 他の勇者は先に七人、来ている。どんな人たちかはわからない。


(仲良くやれるかな。ってか、気を付けてって何だ?)


 サリバンの意味深な言葉に疑問を感じたが、質問する前に去ってしまった。

 意味がわからないまま、扉の前の兵士にお願いし、扉を開けてもらう。

 重い扉が開くと


「ただいま見回りから戻りました。父上」


「御苦労だったな。ライド」


 この国王は威厳があるというより、いかにも国王らしい人だ。

 よく漫画で見る、動きにくそうなぶかぶかの服に、宝石の嵌め込まれた王冠。ふさふさの髭が目立つ。


「その者が勇者か」


「はい、見回り中に遠くに光の柱が見えたもので、足を運んでみたところ草原に彼が立ちすくんでいました。彼の話を聞くところ勇者で間違いありません」


 さすがライド、俺がスライムに襲われていたことを話していない。やっぱりライドは紳士だ。


「そうか……よっろしくぅ、勇者くん!」


 ……は?


「君ぃ、名前は?」


「えと、ムクノキ ユウヤです」


「ムクノキくんかぁ、その珍しい名前から察するにやはり君は勇者だねぇ。あ、僕の名前を言ってなかったね。僕はこの国の国王、ラートル・ラバン・レヴァノールでーす! よろしくぅ!」


 国王はウインクし、サムズアップをする。異様過ぎる光景だ。国のトップのおちゃらけ模様に俺はあっけらかんとしてしまう。


「はぁ……」


(何だ? いきなりキャラが変わった。え、この人本当に国王か? 国王に似た別人? いや、それならライドが気付くか)


 いきなりの国王のキャラチェンジに理解が追い付かない。


「ユウヤ、驚かせてすまないな。父上は表では威厳を保った人格になり、裏ではこのようにふざけた人格になるんだ」


「つまり……?」


「つまり、裏では……アホになる」


 ライドが頭を抱えている。ライドにとって余程、恥ずかしいのだろう。


(そうか、アホなのか。さっき、サリバンさんが言っていた気を付けてくださいの意味がわかった。こんな王でこの国は大丈夫なのか?)


 国王がこんなものだったため、国の情勢に不安が出てきた。


「そういやライド。お前もなんか砕けた話し方してね?」


「ああ、父上の影響か、僕も裏ではこのような話し方だ。まあ、気にするな。家ではどんなやつでも人が違うことがあるだろ?」


「ああ。確かにそうだな」


 実際にユウヤがそうだった。

 特に中学時代、学校では陰キャでそれ以外では陽キャだった。

 なのでユウヤはそれを『プライベート陽キャ』と名付けていた。

 友達からは陰キャは大体、プライベートではそうではないかと言われたが、全体はわからない。


「ところでさ、ライド。あまり城内で剣技使わないでよ。爆音騒ぎで訴えられるし、いつかこの城が壊れちゃうよ」


「すいません、サリバンとエルダがまた撃ち合いしてたので少々、落ち着かせようとしてまでです」


「気をつけてよ。僕の顔が立たないだろ?」


 もうすでに立っていない気もする。

 そう思っていると、扉から何人かの若い男女が入ってきた。

 ユウヤが数えてみたところ七人いる。となると、この人たちが仲間の勇者になる。


「国王、新しい勇者が来たって本当ー?」


「うん。本当だよー。ほら、そこにいるユウヤくんが新しい勇者だよ」


 そう言われ赤毛の女の子が近付いてきた。


「あなたが新しい勇者?」


「ああ、俺はムクノキ ユウヤ。よろしく」


「ウチはホムラ アカリ。ユウヤ、よろしくね」


 赤毛の彼女が俺に握手を求めてきた。握手をしてあげると彼女は笑った。


「んじゃあ、他のみんなも紹介するね。そこにいる小さいのがウチの親友のニッタ シオン。人と話すのが苦手だから」


 この大人しそうな少女が勇者か。


「えと、よろしくね」


「…………ん、……よろしく」


 小さく返事をし、すぐに目を逸らした。苦手なのに返事を返してくれ、俺はほっこりし、笑顔で返した。


「それでこの几帳面そうなのが……」


「アカリ、僕らは自分で紹介するから大丈夫だよ」


 紫がかった髪をした少年がアカリに話しかけてきた。少年はやたらときっちりとした服を着ており、礼儀の正しそうな人だった。


「僕は隣にいらっしゃるお方のお世話係をしております。シノザキ リツです」


「私はミクラ スズネです。皆さんのお役に立てるよう頑張ります」


 立派なお嬢様だ。礼儀もいい。この主従は似ているな。


「お嬢様を気品溢れる人物と勘違いするかもしれませんが、実はかなりのドジっ子です」


「ちょっとリツ~! せめて、自己紹介はカッコつけさせてよ~!」


 俺は何を見せられているんだ。


 そう思ってしまうが、やはり似たもの同士だなと感じてしまう。


「お前ら結構、仲良いんだな」


「ええ、七年近く側にお仕えしていますので」


「羨ましい」


 主従で幼馴染か。漫画のような面白そうな関係で羨ましく思う。


「次はオレたちだな。オレはトヨハマ リュウジだ。何かわからないことがあったら何でも聞いてくれ」


 頼り甲斐のあるガタイをした男だ。タクミに似た何かを感じる。


「俺はウルシマ モトキ。わからないことがあったらリュウジに聞いてくれ。俺は無理だから」


 なよなよした男だ。身長は俺と同じくらいだが、パーマをかけたような髪型だ。天パと言うのだろうか。気弱な見た目だ。


「お、おう」


 この二人は方向性が正反対だな。


「最後は俺っすね。俺はハギノ アオイっす」


 金髪の背の高い人物がやって来た。

 明るい感じの人物だ。


(顔も整っていて、絶対にモテるだろコイツ)


「お前何で後輩口調なの?」


「だって俺、高一っすもん。多分、ユウヤ先輩は高二でしょ?」


「何でわかったんだ?」


「俺、見ただけで人の年齢がわかるんっすよ。俺の特技っす」


「お前スゴイな!?」


 思った以上の人物で驚きが隠せない。


 コイツ等が俺の仲間か。みんな、個性が強いけどみんなと仲良くなれるようにしたいな。


「みんな、これからよろしく頼むな」


    ※     ※     ※


 しばらくの間、他の勇者と話にふけていた。

 どうやら、勇者たちは全員、マジックライフを全クリした高校生らしく、レミが言っていた通りでイメージ力がある人ばかりだった。おそらく、多少の知力も必要だから、中学生は除外され、大学生は豊かなイメージ力が薄れてきているのだとみんなは語っていた。

 他の勇者と話した後、ユウヤは国王に部屋を用意したから好きに使っていいと言われ、そこへ向かってみた。

 ライドは少し国王と話があると一旦別れた。

 長い廊下をメイドさんに案内され、部屋の前についた。ドアを開くと中から新品特有の匂いが漂ってくる。


「何これめっちゃ豪華!」


 その部屋は実に豪華で大きなシングルベッドにクローゼット、風通しも良く、灯りはシャンデリアが使われている。


「こんな部屋を好きに使えるなんて勇者になってホント良かった!」


 部屋のベッドに飛び込むと体が沈んだ。


(ヤバい、気持ち良すぎる。色々あったからか動きたくなくなってきた)


 今日あったことは異世界に召喚され、モンスターに襲われ、ゴロツキ共に襲われている女の子を助けて、初日から色々あり過ぎた。

 異世界に来る前は休日はゲーム三昧、学校でもいじめに遭わないよう、平均的に過ごすので精一杯だったユウヤがここまで色んなことに巻き込まれることは以前のユウヤでは、あり得ないことだった。

 おそらく、これからは多忙を極めることになるだろう。


 そう考えていると、部屋の外から声がした。どうやら複数人いるようだ。

 そして、ドアからノックが聞こえた。


「どうぞ」


 ドアノブを引く音が聞こえ、ドアが開くとそこには二つのユウヤの見知った人物がいた。


「ユミ! タクミ! お前ら来たのか!」


「当たり前じゃん! こんな楽しそうなの断れないよ! ユウ兄だってそうでしょ!」


「ユミちゃんってばこの世界に着いた時からこんな状態だよ」


 そこにはユミとタクミがいた。

 他にも何人かライドと同じ服装の人がいるがライドと同じ騎士の人だろう。

 二人共、あとから来るはずだとレミから伝えられていたが、内心、心配していたところもあった。

 ユウヤはこの二人が来ると思っていたから勇者になることを選んだ。

 しかし、二人が来なかったらと思っていたところもあった。

 しかし、その心配はいらなかった。


「お前ら二人一緒なんだな。俺のときは一人だったのに」


「俺が先に来たんだけどね。ユミちゃんも来るのかなと思って待ってたんだ」


「心配しなくても私なら来るってわかってるはずなのにね。ホント、無駄なお世話だよね」


 そう言いつつもユミは内心、嬉しく思っているだろう。

 確かにユミなら来るだろうがユウヤは来てすぐにモンスターに襲われた。


(それを考えたらタクミの考えは無駄じゃないな。むしろ、守ってくれたお礼を言いたいくらいだ)


「その子がお二人が探してたユウヤ君ですか?」


 ユミたちと来た騎士の人が話しかけてきた。水色の長い髪を下ろした、薄い緑の瞳の女性だ。


「私は王国騎士のシーナです。よろしくお願いします」


 健やかな笑顔でにっこりとその美しい顔が更に美しく見えた。


「私はカレン。よろしくね。それと君たち、特に男性陣、君たちに話があるの」


 いきなりシーナの背後からもう一人の女性が話しかけてきた。アカリのような赤毛でボーイッシュな女性だ。


「君たち、特に男衆。シーナが可愛らしいのはよくわかる。でも、シーナに好意は抱かない方がいいよ。シーナは、国王の所にいたライドのことが好きだか……」


「わああああああああ!! やめてえええええええええ!!」


 アカリ似の女性の話を遮り、シーナの叫びが部屋に響いた。


「カレン、それは誰にも言わないでよ!!」


「えー、でもほとんどの人が知ってるよ」


「ちょっと待って下さい。どうしてですか!? 他の皆さんも知っているのですか!?」


 この二人以外の騎士の人が頷いた。


「ちょっとどうしてですかーー!?」


 いきなりの大暴露大会が終わり、残りの騎士の自己紹介に移った。


「シーナ、カレン、俺たちの紹介がまだなんやけど。そろそろさせてくれや」


「ああ、ゴメンゴメン」


 一人の騎士の男が目の前に立った。詳しくは騎士のような男だ。

 男は三人いて、男たちはみんな、ライドやシーナたちと同じような服装をしているがこの関西弁のような喋り方をしている男は他と違い、騎士服に似合わないブーツを履いている。

 それにこの男は額に傷を負っている。


「俺はラガーや、よろしく頼むで勇者様方」


「あのラガーさんの喋り方は何ですか?」


「さん付けは辞めてくれや。何か痒いわ。で、この喋り方やな。これはこの世界の標準語の一つでカンサイ弁言うたか? 過去に何度かアンタ等のような異世界からやって来たっちゅー人間がおってなソイツ等の喋り方が今のこの世界に広がって俺のようなったんや」


「へえ、俺たち以外にもこの世界に来ている人がいるんだ」


「そうや。アンタ等の世界の建造物や道具が昔から伝えられてきてなこの世界にもアンタ等の見たことあるモンあるかもしれへんで」


(面白そうだな。今度、街を探索してみようかな)


「で、そっちの二人は?」


「はい、僕はフレデリックです」


 もう一人の男も騎士服に似合わず、眼鏡をしており、首にマフラーを巻いている。開いた窓からの風でマフラーが少し揺らいでいる。


「最後が俺か、俺はハンネス。彼女持ちだ」


「おい、何だそのいきなりの、自分は彼女いますがあなたたちはいないのですか? のような言い方は! 地味にあんたいい顔だからムカつくんだよ!」


「ユウヤさん!? 色々と脚色し過ぎだ。怒らないでくれ、こうでも言わねぇとみんな、俺を彼女無しだと勘違いするからよ」


 何か腑に落ちないがとりあえず良しとしておいた。腑に落ちない点が多過ぎたが。


「何か俺、第一印象から最悪だな」


 ハンネスが落ち込んでいると横からさらなる毒が塗られたナイフが刺し込まれた。


「ハンネスはいつも一言多いのです。最近それが原因で彼女とあまり仲がうまくいっていないみたいですし」


「おいちょっと待てぇ!? 誰から聞いたその話!!」


 後から続いて他の三人からもハンネスへ向かって毒の矢が飛んできた。

 何だかこの光景、既視感を感じる。


「あ、私も確かサリバンさんから聞きました」


「私はエルダさんから聞いたわよ」


「俺も国王から聞いたで、ハンネスには今度いい相手を見つけてやらんとなってな」


「国王までもかよ!! 誰だその話流した根源、殴ってやる!!」


「そういえばこの前、ライドがハンネスがまた彼女と仲良くいっていないみたいなんだ。だから彼が落ち込んでいるのを見かけたら、いつも通りに接してあげて欲しい。と言われました」


「ライドぉ!! 二人だけの秘密だって言ったじゃねぇかよ!! クソ、あいつは殴れねぇ! あいつの強さは異次元すぎる!」


 目の前でハンネスが泣き崩れるのを見て騎士の人達の面白い一面と同時にライドの新たな性格の悪さを知った。

 そして、ライドの強さが世界常識だったのを確認できた。


(てか、ライドが流す噂、尋常じゃない程広がるんだな。今度からライドに話す言葉には気をつけておこう)


 そう思っているとドアがまた開いた。そこには噂のライドがいた。

 国王との話が早めに終わったようだった。


「君たち、来ていたのか。久しぶりだな。ユウヤの妹さんたちもようやく来たようだな。僕はライド・ラバン・レーヴァンテインよろしく頼む」


 ライドの明るい挨拶に返事をしなかったのはハンネスだけだった。ハンネスの様子がおかしいことに気が付いたのかライドは側に歩み寄った。


「ハンネス、どうしたんだ? どこか具合が悪いのか?」


 ライドの呼びかけに反応したハンネスはゆっくりと立ち上がり、鈍い緑の眼が赤くなったように見えるとハンネスは素人の俺でも分かるほど殺気をだだ漏れにし、ライドに近づいたと思ったらライドがハンネスの首に素早く、手刀を入れるとハンネスは意識を失い、倒れた。

 ライドはハンネスの腕を肩に回し、俺たちの方を見た。


「なぜかかなりの量の殺気をハンネスから感じたからとりあえず気絶させたのだが、何があったんだ?」


 ライドに今あったことをあらかた説明すると不思議そうな顔をしていた。


「確かに、その噂を流したのは僕だ。だが、僕はフレデリックと口が緩いことで有名な果物屋のホルドさんにしか話していない筈なんだがな。どうしてそんなに広まってしまったんだろうな?」


 ライドがおかしいなという風に笑っていたが話を聞いたときのライドの顔は明らかに計算通りという顔をしていた。

 ライドはやはりかなり性格が悪い。

 国王もそうだったがライドも王子だというのは信じられない。

 こんなアホな国王と性悪王子でこの国は大丈夫なのだろうかと俺は心の中で静かに思った。

 そんなこんなで今夜は心に重傷を負った者が二名という結果で明日を迎えることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る