3.八人目の婚約者 ※ルーファス視点

「いよいよだな。待ってろよセレスティア。今日こそお前を俺様のモノにしてやる」

俺はまだ陽の上りきらない薄暗い中、部屋で小瓶を手に握りしめた。


俺には八人の婚約者がいて、その内七人は既に喰った。

どいつもこいつも従順で、ちょっと雰囲気を作ってやれば、ホイホイ股を開きやがった。

まあ、喰った以上責任持って娶ってやるが、全く面白みがない。


だがセレスティアは違う。

あいつは最初から俺に対して口答えして、いつも歯向かってくる。

きっと俺の気を自分だけに向けて欲しくてやっているのだろうが、そろそろどちらが上か分からせてやる必要がある。


今日は俺の18歳の誕生日。

あいつもきっと今年こそは素直になろうと、俺の誕生日プレゼントを用意しているに違いない。

優しい俺様は、自分からプレゼントを貰いに出向いてやって、俺の記念すべきこの一日の大半をあいつの為に使ってやろうと思っている。


あいつが起きる前に部屋へ入って、この媚薬を口移しで飲ましてやって、その後は…ムフフ。




俺は既に準備させていた馬車に乗り込み、マディライト家へ向かった。

玄関は開いていなかったので、勝手口へ回り、既に朝の準備を始めている使用人を呼びつけ、セレスティアの部屋へ案内しろと言うが、頑なに拒否しやがる。


仕方がないので、勝手に部屋を見て回ろうと、手近な扉を開けようとすれば、俺を止めようとついてきていた使用人が「そちらは旦那様のお部屋で」「そちらは第一夫人のお部屋で」と煩い。

使用人を無視してて片っ端から当たって、漸く二階の真ん中辺りの部屋で、使用人から「お止めください。お嬢様はまだお休みです」という言葉を引き出した。


俺の腕を取って止めようとする使用人を「無礼者!」と振り払い、俺は意気揚々とセレスティアの部屋へ踏み込んだ。

部屋はカーテンが引かれ、隙間から漏れる光以外なく、かなり暗い。

ついてきていた使用人は諦めたのか、もう姿はなくなっていた。


俺は扉を閉めると、邪魔されないように内側から鍵をかける。

鍵のかかるカチャリという音に、この先を思ってゴクリと喉を鳴らす。


足音を忍ばせベッドの脇に立ち、あいつの寝姿を確かめようと目を凝らした。


しかし、幾ら目を凝らしても、何故かベッドの上に人らしき膨らみが見えない。

あの艶やかなプラチナブロンドも、艶めかしい胸の膨らみも、俺を誘う尻の膨らみも見当たらない。


俺は勢いよく上掛けを引き剥がした。

しかしやはりそこには何もなく、俺は「どういうことだ…」と茫然と零した。


そこへ何やら部屋の外が騒がしくなり、ガチャガチャと扉を開けようとする音が響く。

暫くして外から鍵が開けられ、灯りを持った使用人と、あいつの両親と兄が部屋へと雪崩れ込んできた。


「どういうことですかルーファス様!就寝中の淑女の部屋へ勝手に押し入るなど。幾ら伯爵家ご子息で娘の婚約者であっても、非常識過ぎます!」

父親の怒鳴り声が聞こえるが、今はそんなことはどうでもいい。

俺はまだ何か怒鳴ろうとして、俺に手を伸ばしている父親に向かって怒鳴り返した。


「これはどういうことだ!俺様直々にセレスティアを抱きに来てやったのに、何故あいつはいない?!あいつはどこだ?!」

「──────は?」


俺の怒鳴り声に、たっぷりと数舜の間を置いて、父親の間抜けな声が返ってくる。

それと同時に灯りを持った使用人がベッドの横へと走り寄ってくる。


蝋燭の灯りがベッドを照らすが、やはりそこにあいつの姿はなく。

使用人に続いてベッドへ走り寄った兄が、ふとサイドテーブルへ視線を向ける。

そこに何かがあったようで、兄はそれを手に取っている。


どうやら封筒のようだ。

兄、ロベルトは急いで封筒から中身を取りだし、使用人に照らさせる。


「──────っ」


ロベルトが息を呑む様子に、両親もその手紙を覗き込む。

直後、母親はその場に崩れ落ち、父親は手を目に当て天を仰いだ。


「何が書いてあるんだ?寄越せ」


俺は三人の様子を見て、何が書いてあるのか気になり、手紙を取ろうとした。

ロベルトが渡すまいと強い力で握っていたが、力一杯引っ張ると、ロベルトの握っていた端部分が破れた。

俺はお構いなしにに手紙を取り上げ、目を通す。


『お父さん、お母さん、ロベルト兄さんごめんなさい。

 無理矢理婚約させられてから、ずっと我慢してきましたが、私ももう15歳。

 そろそろあの下衆なルーファスが私を手籠にしようと動き出すでしょう。

 私はあんな下衆に手籠にされるのも、娶られるのも我慢なりません。

 あんな下衆に手籠にされるくらいなら、死んだ方がマシです。

 私は今から家を出ます。家を出てどこか死体の見つからない場所で死ぬことにします。

 あの下衆には私は死んだと伝えて下さい。

 迷惑をかけてごめんなさい。さようなら』


読み始めてすぐに俺の手は怒りで小刻みに震え出す。


下衆だと?!

この俺様を下衆だと?!ふざけやがって!

しかも、この俺様に手籠にされるなら死んだ方がマシだと?!

幾ら俺様の気を引きたいからといって、流石にこれは許さんぞセレスティア。

死ぬとか言って気を引いて、探して欲しいだけだろう?

そんなに俺の愛を確かめたいのか。

なら、望み通り探し出して、俺様のモノをぶち込んでやろう!

手足を縛って自由を奪い、毎日、朝から晩まで俺の子種を注ぎ込んでやる!

それがお前の望みなんだろう?!セレスティア!


俺は持っていた手紙をグシャリと握り潰した。

どうやら、心の中で呟いたつもりの言葉が全て声に出ていたようで、ロベルトが横から俺に意見してくる。


「妹は本当に貴方のことが死ぬほど嫌いなんです。今頃もうどこかで命を絶っています。最期くらい自由にさせてやって下さい」

父親も母親も、俺のことをさげすんだ様な目で見ている。


「ルーファス様、セレスティアは死んだのです。マディライト家はあの子の死亡届を出します。そうすればこの婚約は無効とされます。ルーファス様もどうぞあの子のことはお忘れ下さい」

「…こんな…こんな国のせいであの子を……」


父親が冷えた目を向け俺に言い放つ。

その横で崩れ落ちたまま母親が何かぶつぶつと呟いている。

その様はまるで心の壊れた人間のようで、なんとも不気味だった。


「レックス、ルーファス様をお送りしてくれ」

ロベルトが有無を言わさず俺を追い出しにかかる。

レックスと呼ばれたのはどうやら灯りを持ってきた使用人のようで、灯りをサイドテーブルに置くと、おもむろに俺の方へと向かってくる。


「ルーファス様、玄関までお送り致します。どうぞ」

部屋まで案内した使用人とは違い、怯えた様子もなく有無を言わさぬ様子で俺へ促す。

俺の前へ促すように差し出された手を叩き払い、俺は父親とロベルトに怒鳴りつけた。


「ふざけるな!俺はセレスティアが死んだなどと認めない!婚約が無効などさせるか!」

しかし、それに対して奴等は誰一人として反応を示さず、冷えた目でじっと俺を睨みつける。

セレスティアがいない以上、ここにこれ以上留まったところで何にもならない。

俺は腹立ちを表すように、大股で扉へと向かった。


部屋を出る寸前に、苛立ち紛れに媚薬入りの小瓶をロベルトに向けて投げつけた。


許さん!許さん!許さん!

俺はドスドスと音を響かせて玄関へと向かう。


幾ら気を引きたいからといって、俺様を下衆呼ばわりしたセレスティアも。

俺様を馬鹿にしたロベルトも。

婚約無効を申し出ると言った…マディライト家も全て。

絶対に許さん!


絶対にセレスティアを見つけ出して、許しを乞うまで犯し続けてやる!

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