白1:面白いのを見つけたわ。

「…きゃー、見て~あの佇まい!」

「今日も素敵よねえ」

「……、…」にこ。

「きゃー!今微笑んでくれたわ!」


…お昼休み後の五限を受けながら、白い少女シロは窓際でぼんやりとしていた。

お昼の後、眠くなるのは誰でも同じである。

いつもきゃいのきゃいの言う周りの雑音は無視。

適当に微笑んでれば勝手に心が光るじょうきげんになるのだから安上がりなものだ。


(…しかしまあ、面白いのを見つけたわ…)


ぼんやりと頭に浮かぶのは黒尽くめで、背高で、辛いものが苦手な子。

子と言うには歳が上な気はするが、何処と無く幼めの印象が受けるので問題ない。


「…ふふ」


全体にしゅっ、とした印象。すらりとした感覚。

女性にしては背が高く、胸は余りない。

黙っていれば男の人にも見えるくらい。

だけどもなんだか表情が柔らかく、ふにゃっとしてしまう。


黒のコートと、これまた黒い手袋。寒がりらしい。

はたはた、と風に裾がはためいているのを気に入っているようだ。

今は冬だから良いが、夏はどうするのだろう?


腰辺りまで伸ばした黒髪。

服装と相まって闇が立っているよう。

そのくせあまり手入れはしていないらしく、結構枝毛が見てとれた。ずぼらなのかしら。


瞳も、宵闇を煮詰めたような黒。

星の輝きも飲み込んでしまいそうに深く、重い。

本人のコロコロ変わる表情かおとは正反対。


「えー、つまり3x+2=x-4と言うことはー…」

「…」


ーーそしてやっぱり、一番はーーあの宝石こころ


私が一番に眼を引かれたのは、その形状かたち

…圧力、研磨、鍛造、精錬。

"玉磨かざれば器を成さず(光を成さず)"と言う言葉ことわざもあるが、正しくその通り。


人の心ーーつまり私が視る鉱石いしーーは、始めから宝石ああな訳ではない。

始めは石ころごみに等しくても、終わりまでそうとは限らない。

しかと磨き、研ぎ、削り、圧を加え、溶かし、融かし、掘り出し、精錬し、鍛造し、磨きあげる。


…勿論比喩だ。

どれがその石ころひとに合うかも全て違う。

だか、そうしたモノを心に加えれば、石ころこころは変わっていく。

…どう変わるかは兎も角として。


「で、あるからしてー…この答えはー…」

「………」


そうした視点から視ても、彼女クロ形状かたちは相当に"おかしい"と言えるモノだった。

そもそもが、一生涯宝石になど成らぬ屑鉄モノも沢山居る。

宝石にああ成ってる時点でおかしいと言えばおかしいのだが、彼女は飛び切りである。


なにせ、圧倒的なまで丸みを帯びた真球形だ。

…確かに傾向として、年月としを経れば鉱石いしは丸くなる。沢山の経験により"角がとれる"

から。

だからと言って、高々20年前後の経験で到達するようなモノではない。

長く、永く生き。

ぽろぽろと削れ、それでやっと石ころふつうの丸い石が出来上がるのだ。


彼女クロは仙人か何かなのだろうか?

それとも飛び切り感受性が高かったり?

気になる。


「はい、右のxを左に持ってきて、マイナスになってーー」

「……………」


気になると言えば、当然あの色彩いろもだ。

形状かたちに関しては外界そとからの要因が大きい。

つまりある程度「ああすればこうなる」と言った経験則で研磨出来なくもない。


だが、色彩いろについては話が別だ。

きっとあれこそが人の"魂の色"とでも言うべきモノだから。


虚飾は通用しない。

練り上げ変わるような事もない。基本的に。

誰にも理解できない。人類の最後の謎。

本人ですらわからないような、そんなことでしか変わらない。変わりようが無い。

本人の資質・生来持っているべきモノ。

どうしてもそうしてしまう宿痾。

自らの業・逃げることの出来ない自分自身。

そうしたものが、宝石こころ色彩いろ


ーーそれが、あのような?

そらを束ねて地上に持ってきてしまったかのように深く、そして澄んだ黒?


「…ふふ、ふふふ…」


(ねえ、笑ってるわよ)

(一体何をお考えなのかしら…)


宝石こころが躍る。

自然と笑みが浮かぶ。

きっとそのうちまた会うのだろう。

そんな気がしてなら無い。


ーー次は何を話そうか。

そんなことを思いながら。

ぴかり、ぴかりと彼女の宝石こころは純白に、無邪気に、いっそ暴力的なまでに瞬いていた。

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