九百八十四話 未だ造られず

「あっ」


「むっ」


午前八時頃……朝食を食べ終え、冒険者ギルドには向かわずに街を出て虎竜を討伐しに行こうとしたアラッドたちとディーナ。


しかし、彼らは街を出る途中にバッタリ出会ってしまった。


「……探索は、上手くいってますか」


何も喋らないのも空気が痛いと感じ、それとなく尋ねるディーナ。


「いや、全くだ。そう簡単に見つかる奴ではないが、それでも……少し珍しいと思っている。アラッドたちはどうだ」


「俺たちも、それらしい影や気配すら感じません」


「そうか…………」


アラッドたちから情報を得よう!! とは思っていないが、それでも自分より探索人数が多いアラッドたちでも、その影すら見つかっていないとなると……かなり心配に思ってしまう。


「それじゃあ、ディーナさん。俺たちは…………左の方面をメインに探しますね」


「……あぁ、ありがとう。では、私は右の方をメインに探索する」


それぞれ探索エリアが被らないようにし、アラッドたちは探索を開始。





「あれだよね~~。もうちょい情報が手軽に入ったら良いのに~~」


「……別の街付近に移ったのなら、直ぐにその情報が手に入れば良いのに、ということか?」


「そうそう、そういう事」


三日目の探索を始めてから約一時間が経過。


遭遇したのはDランクモンスターのみであり、ガルーレが全てロングソードで斬り伏せた。


「だったら、私たちもディーナも時間を無駄にせず過ごせるじゃん」


「そうだな…………ただ、今は定期的にいなくなる機会はあれど、時間が経てば戻ってくる。その情報を信じて探索するしかない」


「……だよね~~~~~……でもさ、ほら……アラッドってさ、錬金術を使えるでしょ」


「ん? あぁ、そうだな」


未だにキャバリオンの制作依頼が届いているため、仕事が終わった日や休息日に制作を行っている。


「錬金術で、そこら辺をなんとかするマジックアイテムを造れたりしないの?」


「あまり無茶を言うなよ、ガルーレ。俺は……確かにキャバリオンというマジックアイテムを造りはしたけど、いいとこ腕前は中堅止まりだ」


「そうなの? あんなにヤバい感じのマジックアイテムを造れるのに???」


「ヤバい感じなマジックアイテムを造ったのは、キャバリオンだけだ。そうだな……俺がアッシュみたいなタイプなら、今頃錬金術の腕前は上級レベル……ただ、戦闘能力は中堅よりも少し上、といったところか」


「あぁ~~、なるほどねぇ~~~。それは…………アラッドのこれまでの人生? を振り返ると、良くない感じか~~」


「そうだな。良くない感じだ」


元々母親の職業、冒険者に憧れていることもあり、錬金術に対する興味の方が強かったとしても、一応冒険者になっていただろうと自分で思うアラッド。


だが……戦闘技術、経験よりも錬金術の技術向上に多くの時間を費やしていれば……救えなかった命があり、更にアラッド自身が死んでいてもおかしくなかった。


錬金術の技術向上に時間を多く費やしていれば、また違った戦い方をするアラッドが誕生し、それはそれで危機を脱していたかもしれないが……それはあくまで可能性の話である。


「そういうのは……ダンジョンの宝箱から手に入るマジックアイテムに、期待するしかないだろうな」


「つまり、手に入るか否かは超運次第ってことね」


「そうなるな」


手紙の運送、もしくは飼いならした鳥獣を利用した手紙のやり取り以外では、圧倒的な速さで伝えたい事を伝え、尚且つそのまま会話することが出来るマジックアイテムは、確かに存在する。


だが、その手に入らなさ……錬金術師たちの中には、その制作に力を入れている者たちもいるが、未だ成功作品は出来上がっておらず、まずどういった素材から造れば良いのかすら明確に定まっていない。


故に、ダンジョンからそういったタイプのマジックアイテムが手に入れば、超高値で取引される。


「……アラッドならさ、割と買えるんじゃないの?」


「さぁ、どうだろうな。どれぐらいの値段で取引されてるのかは知らないが………………おそらく、買えるだろうな」


本人の言う通り、アラッドが買おうと思えば買えてしまう。

しかし、アラッドは今のところそれを必要とはしておらず、せっかく冒険者として活動していることもあり、それなら冒険者として活動し……ダンジョン探索をして手に入れたい。


「ひゅ~~~、さっすがお金持ち~~、大富豪~~~~~」


「褒めても何も出ないぞ」


「……………………ねぇ、アラッド。アラッドなら、どう造るかは置いといて、それらしい素材は解ってるんじゃないの」


スティームも、本人が言う通りアラッドの錬金術の腕は素人ではないが、それでも中堅の域を出ないという考えは否定しない。


しかし、発想力などといった点に関しては、そこら辺の錬金術師よりも圧倒的に上だと思っている。


「スティーム、俺はアッシュみたいに戦闘者として戦える錬金術師じゃないんだ……出来るとしても、それは予想の範疇を出ないぞ」


そう言いながらも……アラッドの中では、もしかしたらこれかなという素材がいくつか浮かんでいた。

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