九百七十五話 一本や二本落されても

「キシャアアアアアアッ!!!」


「あはっ!! 良いじゃん良いじゃん、本当に鋭いね!!」


グレーターマンティスの斬撃を躱しながら、ガルーレは笑みを浮かべながら蹴撃を叩き込んだ。


「…………普通に楽しんでるね」


「そうだな。普通に楽しんでるな」


「あのグレーターマンティス……それなりに強いよね」


離れた場所で観戦しているアラッドたち。


ただのCランクモンスターとの戦闘であれば、スティームもそこまで心配することはない。

しかし、スティームもアラッドと同じく斬撃系の武器を扱う戦闘者であるため、グレーターマンティスが放った斬撃がかなり質が高いことに気付いていた。


(グレーターマンティスとは以前、戦ったことがあるけど……ここまで切れ味にある斬撃波を放つことはなかった)


本当に見た目通り、ただのグレーターマンティスなのか。

そう疑いたくなるスティームに対し、アラッドは問題無いと声を掛ける。


「そんなに心配しなくても良いと思うぞ、スティーム。ガルーレは俺と同じで戦闘を好んでいるが、戦闘に関しては決してバカではない」


褒めている……ように見えて、最後の方に少しバカにしてないかとツッコむべきかと悩んだが、そっと飲み込んだスティーム。


「いつも通り笑ってはいるが、グレーターマンティスの斬撃が普通じゃないことには気づいてる筈だ」


「……まぁ、気付いてるなら良いんだけどさ。でも、油断してたら本当に危ないよね」


「そうだな……最悪、指か腕か……切断されるかもな」


指や腕の切断。

普通であれば、悶絶失神ものの大ダメージであり、動きが鈍ってしまう。

モンスターからすれば、大きな大きな隙へと繋がり、絶好のチャンス到来である。


「だよね…………でも、そっか。それぐらいなら、確かに大丈夫か」


普通は大丈夫ではないものの、スティームはガルーレの切り札であるスキル、ペイズ・サーベルスの詳細を知っているからこそ、それぐらいのダメージであればと思っていた。


発動した瞬間から痛覚が麻痺し、身体能力が爆増。


グレーターマンティスはアラッドたち全員が感じ取っている通り、斬撃の質が非常に高い。

斬撃の鋭さ……攻撃力に関しては、Bランクに届いていると言っても過言ではない。


加えて……グレーターマンティスは飛ぶ。

飛行が得意な虫系モンスターよりも飛行性能は落ちるが、それでも宙に跳ぶことが出来る。

不意に空中戦を仕掛けられるのは、対峙した者にとって厄介。


だが、全体的な身体能力を見ると、その域を出てない。


(もし……本当に片腕を落されちゃっても、ペイズ・サーベルスを発動したガルーレの身体能力なら、グレーターマンティスが反応出来る前に倒せる、か…………っ、いや。どう、なんだろう)


当たり前の事に気付いたスティームは、再び表情に心配の色が浮かぶ。


「ふふ、次は何を心配してるんだ、スティーム」


「当たり前のことなんだけどさ、グレーターマンティスって、二つの鎌を持ってるでしょ」


「ん? あぁ……そうだな…………あ~~、それを心配してるのか」


「ちょっと、心配し過ぎかな」


「そうだな。腕を同時に二本も斬り落とすのはな…………とはいえ、それをガルーレ相手に出来たら、本当に凄いな」


脚を二本斬り落とされてしまうと、完全にゲームオーバーである。

なので、腕ではなく脚を斬り落とされる方がアウトではあるが、主な攻撃手段……武器を握る手がなくなるというのは、非常に状況が悪い。


片腕でも多いのだが、両腕を斬り落とされたとなると、更に出血量が多くなる。


直ぐに……大量失血で倒れてもおかしくない。


「でも、ガルーレなら直ぐに頭を蹴り飛ばして終わらせるだろ。その後に、俺たちが直ぐになんとかすれば良い」


「……そうだね。ここでそういう可能性があるからって手助けしようものなら、絶対に怒って不貞腐れるよね」


「違いないな」


顔を見合わせて笑いながらも、二人は片手にポーションを持ち、ガルーレとグレーターマンティスとの戦闘に視線を戻す。


「へぇ~~~、そういう風に戦うのか」


「本格的に興味を持った、ていうことなのかな」


「かもしれないな」


アラッドたちから見ても、素手の状態で戦い続けてもガルーレが勝つ。


だが、当のグレーターマンティスと戦っているガルーレは素手で戦うのを止め、アイテムバッグからロングソードを取り出した。





(ん~~~、こいつ……割と細めなのに、結構堅いね)


グレーターマンティスと戦闘を始めてから、それなりに良い打撃を叩き込んでいた。


しかし、表情がない虫系のモンスターということもあり、ガルーレから見て自分の攻撃が効いているのか、あまり解らなかった。


(っていうか、今更だけど、この鎌……意外と厄介ね)


グレーターマンティスの武器である鎌は双剣やロングソードなどと違い、斬撃武器としてだけではなく、突くための刺突武器としても使える。

加えて腕をたたんで攻撃出来るため、時折意識の外から攻撃を仕掛けてくる。


(っていうか、折角斬撃が得意なモンスターと、戦ってるんだし……私も、使ってみようかな!!!)


打撃じゃ勝てそうにないからという理由ではなく、相手が斬撃が得意なモンスターだから自分もロングソードを使ってみようという……常人にはあまり理解されにくい理由だった。

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