九百七十四話 勘弁してほしい

「ん~~~~……中々虎竜は見つからないし、それらしい跡もないし、良い感じのモンスターも見つからないね~~~」


アラッドたちがディラーズフォレストの中で昼食を食べ終えてから、既に三時間が経過していた。

後数時間も探索すれば、今日の探索は終了。


アラッドたちとしては、目的のモンスターである虎竜がそう簡単に見つからないことは、重々承知している。

先日、闇竜デネブを探していた時も、そう簡単に見つけることは出来なかった。

とはいえ、その時は闇竜デネブが自身の力を利害関係が一致したモンスターに与えていたため、時折ガルーレの戦闘欲を満たせるほどのモンスターと遭遇していた。


「確かに、Cランク以上のモンスターとは遭遇しないな」


Cランクモンスターも世間一般的には十分強敵の部類に入るものの、本日遭遇したCランクモンスターでは、ガルーレの戦闘欲を満たせなかった。


「はぁ~~~~。どうせなら、虎竜も闇竜みたいに自身の力を他のモンスターに与えられる感じの力を持ってたら良かったのに」


「それはさすがに勘弁してほしいな」


今回、虎竜と戦うのはアラッドの従魔であるクロと決定している。


ガルーレとしては非常に戦ってみたいモンスターではあるが、先日の闇竜戦ではクロ以外は強敵と戦ったものの、クロだけは万が一に備えて戦闘に参加していなかった。


「そうだね。アラッドの言う通り、勘弁してほしい力かな。どういった力を与えるのか分からないけど、明らかに同業者たちが冒険中に死ぬ可能性が高まってしまうよ」


自己責任という言葉をよく使われる冒険者。

だが、ギルドとしてはなるべく使える人材は減って欲しくなく、冒険者として活動している者たちも、知人友人が減るのはこのましくない。


「解ってるって……でもさ、仮に虎竜がそんな力を持ってたら、どんな力を与えるのかな」


「……まだ情報があまりないが、主な付与能力は…………身体能力の強化、じゃないか」


ドラゴンという種は、基本的に身体能力が高い。

そこに虎という、これまた獣の中では身体能力が高い種の能力が混ざれば、まず目を引くのはそこだと思われる。


「身体能力の強化か……でも、それって闇竜から闇の力を授かったモンスターも、同じく身体能力は強化されてたよね」


「だな。ただ、あの男から聞いた話だと、虎竜は属性らしい属性が付与された攻撃を使っていない」


「あぁ~~~……ってなると、強靭な肉体を手に入れられる、ってこと?」


「もしかしたらの話だけどな。力を付与されれば、付与された瞬間から……直ぐに二割から三割増しの身体能力を手に入れれば、もうそれだけで面倒な存在になるだろう」


アラッドたちからすれば、逆にどうぞウェルカムな存在。


スティームはまだ常識人よりだが、アラッドとガルーレは身体能力を真正面からぶつけ合って戦うのが好きなため、本当にそういった身体能力増し増しになった個体がいるのであれば、喜んで戦う。


「狩人以外の後衛の人たちからすれば、最悪の相手になりそうね」


「そういう事だ。それに、虎竜は群れるのを嫌いそうだと思う。個人的な意見だけどな」


「まぁ、それは簡単に想像出来るね~。でもさ、群れるのは嫌いそうでも、なんか他のモンスターから憧れられそうな感じしない」


「憧れられる、か…………また姿を見たことがないからなんとも言えないが、モンスターにもそういう感情があるなら、あり得なくはない話かもな」


モンスターにも感情はある。

しかし、人間ほど複雑な感情を持つ個体は殆どいない。


(同種以外の存在から憧れられるモンスターか……闇竜は、多少そういった感情はあれど、基本的には利害の一致のはず………………個人的には、強者に憧れを持つモンスターの方が、恐ろしいな)


純粋な戦闘力だけみれば、闇竜から力を授かった個体たちの方が強いと思われる。


だが、アラッドは人間だからこそ、想いや感情からくる力をバカに出来ない。


「ん?」


もしもの話に会話を楽しんでいると、側面から一つの斬撃波が飛来。


気付いたアラッドは即座に渦雷を抜き、斬撃波放って相殺。


(……切断面が、中々に綺麗だな)


飛来した斬撃波は何本もの木々を切断しており、その切断面は主にロングソードを使うアラッドから見ても、綺麗だと感じるものだった。


「どうやら、あのモンスターが飛ばしてきたみたいだね」


倒れる木々の奥にいるのは……大型のカマキリ。

名前はグレーターマンティス、Cランクのモンスターであり、鎌から放たれる斬撃はそこら辺の剣を使った斬撃よりもよっぽど鋭い。


「シャアアアアアア!!!!」


一発で仕留められないなら何発でも……そう言わんばかりに連続で鎌から斬撃波を放つ。


「二刀流だからこその、斬撃波の数だな」


放たれる斬撃波の数に感心しながらも、冷静に対処していくアラッド。


「ねぇアラッド、あのカマキリの相手は、私が戦っても良いよね!」


「あぁ、構わないが……油断はするなよ」


「勿論っ!!!!!」


ランクはCと基本的にアラッドたちであればソロで討伐出来る。


しかし、アラッドは放たれた斬撃波の質から、油断すれば斬り裂かれる可能性を感じた。

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