九百七十話 決闘、だとしても

「俺らの奢りだ、じゃんじゃん呑んでくれ!!!!!」


現在、ポーションを飲んで傷を癒したアラッドたちの周りには、大勢の同業者たちがいた。


場所はギルドに併設されている酒場であり、アラッドとディーナの試合が終わると、一斉に戻ってきた。

そして一部の冒険者たちがギルドから出て行こうとするアラッドたち三人とディーナを引き止め、晩飯を奢ると言い出した。


そんな同業者たちの提案に……アラッドたちはお言葉に甘えることにした。


「すいません、これで外にいる従魔たちに払えるだけ飯を作ってやってください」


「っ!? わ、分かりました」


元々ギルドに併設されている酒場で夕食を食べるつもりはなかったため、アラッドは酒場の店員に金貨を二十枚ほ渡し、それで食べられるだけクロたちに料理を食べさせてやってほしいと頼んだ。


「いやぁ~~~、マジで痺れたぜ。あんた、普段はあれだろ。ロングソードがメイン武器なんだろ!」


「まぁ、そうですね。一応ロングソードがメイン武器です」


「だよな。にもかかわらず、あんだけ徒手格闘で戦えるなんて、マジでヤベぇよ。なっ!」


語彙力が死んでいるものの、純粋に褒めてくれているというのは解るため、アラッドも悪い気はしない。


「でも、あれだな。ディーナも良いのぶち込んでたよな」


「……あれが、完全に決まっていれば、もう少し私にも勝機があっただろうな」


ディーナは解っていた。

ただ両腕受け止められたから折るに至らなかったのではなく、瞬時に腕に纏う魔力量が膨れ上がったからこそ、骨を砕くには至らなかった。


「そういえば、あのハイキックが決まった時、纏う魔力の量が一気に増えてたわね」


「恐ろしい一撃がくると感じたので、本能が反応したのでしょう」


一部の冒険者たちもその咄嗟の反応を見ており、何名かはあれで一気に戦況がディーナ有利に傾くだろうと思っていたからこそ、その反応に驚いていた。


「本能が反応したから、か……そういう事にしておこう」


「いや、どういう事も何も、本当のことなんだが」


「私もそうだと思うよ~~。あの時、アラッドは結構驚いた顔をしてたし」


「そうか…………アラッドの仲間がそう言うのなら、そうかもしれないな……ガルーレだったか」


「そうだよ~~。いやぁ~~、最初は私がディーナと戦おうと思ってたんだけど、アラッドに止められちゃったんだよね~~」


アマゾネスのガルーレ。


アラッドとスティームと共に行動する前から、一人で行動することが多く、偶にパーティーを組むも、転々と行動するパーティーを変えていたため、ガルーレの名前も知る人ぞ知る冒険者として広まり始めていた。


それもあって、あの戦いを観た後でも、ガルーレの言葉を聞いて彼女の発言を表立ってバカにする者は一人もいなかった。


「へぇ~~、そうだったのか。ん? って事は、アラッドがそれを止めて、自分が戦うって言ったのか」


「そうですね」


「やっぱあれか。戦士の血が騒いだって感じか?」


事情を知ってることもあり、今更ディーナの実力を疑う者はいない。

あのアラッドが、そう感じてもおかしくないというのが総意だった。


「……似た様な感じですね。ガルーレが自分が戦うと言い出した時、嫌な意味でそういう血が騒いだんですよ」


「嫌な意味で?」


「はい。もし、ガルーレが戦っていれば、試合じゃなくて殺し合いになってただろうなって」


殺し合い。


その単語を聞いて、ほんの一瞬だけ空気が固まった。


「良い戦いをすればするほど、終われなくなる。試合を行うに至った事情が事情だからこそ、決着は着けないといけない。であれば、最悪の場合……その可能性が高いと思って」


「そうなんだよね~~。って言っても、マジで強かったからぶっちゃけ私が負けてた可能性の方が高いよね」


「お前が普通の状態のまま戦ってたらな。という訳で、俺が戦うことになったんです」


「な、なるほど。そういうことやったんやな。まぁ……確かに、偶にそういう事はあるもんな」


基本的に、訓練場で行う戦いで殺しは御法度。


これは模擬戦や試合ではなく決闘なのだと……死んでも相手を咎めないと、戦う冒険者たちが、冒険者の親族たちが納得しているかが非常に重要。


そして、冒険者ギルドとしては出来れば殺すのではなく、脚か腕の一本程度で終わらせてほしいというのが本音。


「にしても、最後のあれえぐかったな。最後、拳砕けてただろ」


「えぇ、砕けてましたね」


隠しても無駄なため、アラッドは金剛を発動したディーナの腹を殴った結果、右拳が砕けたことを隠さなかった。


「だよな。なのに、よくディーナの貫手に反応したな」


「手刀か貫手、どちらかの攻撃が飛んでくると思ってたんで」


「はぁ~~~~。あの一瞬で、そこまで読んでたのかよ。やっぱあれだな、経験値が違ぇな」


男の言葉に、同じテーブルで夕食を食べている冒険者たちは、それぞれ表情に差はあれど、全員頷いた。


手刀か貫手、それらが攻撃に選択肢としてあると予想出来た者はいたが、その二つだけに予想を絞れた者はいなかった。


「てか、それならよ、明日からは……アラッドたちが、あれを探すんか」


男は内容が内容であるため、その名前を出さなかった。

対してアラッドは……男やディーナたちが予想していた答えとは、少し違った内容を口にした。

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