九百六十九話 防御カウンター
バキっ!!!!! ……と、嫌な音が、訓練場に鳴り響いた。
戦闘者として活動していれば、否が応でもそれが何の音か……解ってしまう。
(マジ、か)
その音とは、骨が折れた音である。
アラッドは再度、ディーナの右拳を捌き、膝が……左拳が飛来する前に、右拳をアッパー気味に腹に叩きこんだ。
普段であれば、仮に相手が腹筋に力を入れるのが間に合っていたとしても、試合終了後にはゲ○吐きコースになっていた。
だが、今回腹にアッパー気味に叩き込まれた拳は……確かに、ディーナにダメージを与えた。
それは間違いない。
間違いなくディーナにダメージを与えたのだが、総合的なダメージでは……アラッドの方が、甚大であった。
(あの黄金色……もしかして、金剛!?)
離れた場所からアラッドの右拳と接触しているディーナの腹の変化を見て、ガルーレは嫌な音が訓練場に鳴り響いた要因に気付いた。
スキル、金剛。
防御系のスキルであり、発動すれば肉体を金剛の様に固くすることが出来る。
主にタンク系の役割を担う者たちが会得するスキルではあるが、ディーナはアタッカーであるにもかかわらず会得していた。
金剛は発動すれば、基本的に動けない。
即解除したとしても、コンマ何秒……動けない時間がある。
故に、完全防御や防御カウンターとして使われる。
今回ディーナが取った選択は、防御カウンター。
アラッドの打撃力から、使ったとしてもダメージを負ってしまうと理解しつつも、右拳を破壊する……そのメリットを選んだ。
結果……その選択肢は、見事成功を掴み取った。
金剛に右拳を叩き込んだアラッドの手は、人差し指から小指までの基節骨を主に負傷。
その他の骨にもヒビが入り、まず……この試合中は使うことが出来ない。
「ッ!!!!!!!」
アラッドは右拳の骨折により、ほんの数瞬の間だけではあるが、フリーズ。
ただ、ディーナはディーナで先程の縦拳と同じく、体内に残るダメージが入ったため、数瞬だけフリーズしてしまったが……アラッドよりもほんのワンテンポ速く、動き出した。
鬼火を纏った貫手。
アラッドと言えど、受け方を損なえば……体に穴が空く。
「ぬ、ぅおらッ!!!!!!!!!!!」
「っ!!!!????」
しかし、アラッドは砕けた右拳の痛みに悶えることはなく、放たれた貫手を躱し、引かれる前に掴み……そのまま肩で背負い、左腕と肩を利用して投げた。
(あんたなら、そうしてくるだろうと思ったよ)
勘付いていたのは、ハイキックを食らう要因となった、鬼火を纏った手刀。
その手刀を躱す瞬間、アラッドは本物の刃の圧を感じ取った。
手刀という攻撃方法を知っているから何となく攻撃手段に選んだのではなく、日頃から訓練を行い、実戦でも使用しているからこそ、あの圧を出せた。
あれだけの手刀を出せるなら、同じく貫手も槍やレイピアなどの突きから放たれる圧を感じるのではないか。
そういった結論に至り、自身の右拳が砕けた瞬間、アラッドはディーナの右手から手刀か貫手……どちらかが放たれると読んだ。
結果、読みは見事に的中し、右手が使えない変わりに肩を代用。
空中で回転するように勢い良く背負い投げを決めた。
「かはっ!!!!!?????」
視界が急転直下するなか、自分が投げられたことを察し、ディーナは再び金剛を発動。
少しでも受けるダメージを和らげようとするが、思っていた以上のダメージが全身に響き渡った。
「フンッ!!!!!」
「ッ………………優しいんだな」
ディーナを変則背負い投げで叩きつけた後、アラッドはすかさず頭の横を思いっきり踏みつけた。
「あんたは、これで解らない程……納得しない程、面倒な人ではないだろう」
「…………」
「まぁ、やっぱり納得できないって言うなら、まだ相手になるよ。ただし、それなら武器を使わせてもらうがな」
アラッドは機転を利かせて勝利を掴み取ったが、現状……背負い投げによって腹部だけではなく全身にダメージが入ったディーナではあるが、アラッドの右拳は相変わらず現状では使い物にならない。
右腕自体は動くものの、拳が使えなければ基本的に意味がない。
そのため、アラッドとしてもこのまま試合を続行するのであれば、武器を使わなければ危うい。
「……………………いや。私の、負けだ」
長い沈黙を破り、改めて……ディーナは自身の負けを口にした。
そこで、ようやく決着が着いたと捉えた野次馬たちの熱が、一気に弾けた。
アラッドの勝利に賭けていた者たちは大喜びし、ディーナの勝利に賭けていた者は両膝から崩れ落ちる。
ただ、どちらの者たちも、目の前で行われた試合に対し、あれこれ話し合い始め……結果観戦中と同じく盛り上がっていた。
下馬評ではアラッドが有利だと思われていたが、それでもディーナは途中で強烈なハイキックをかまし、アラッドを回避一辺倒に追い込んだ。
そして金剛を防御カウンターに利用し、右拳を粉砕。
だが、アラッドもアラッドで防御カウンターに動じず、貫手を読んで背負い投げを決めて試合を終わらせた。
多少の差はあれど、良い戦いを観れた。
それが、野次馬たち全員が思った感想だった。
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