八百十話 単騎での強さ

SIDE パロスト学園


「学園長…………どうします?」


「どうするも何も……私たちが責任をもって、守らなければならない。としか言えないな」


現在、パロスト学園では学園長と短期間ではあるがアラッドの担任を務めていたアレク・ランディードが学園に送られてきた、一つの手紙を見つめていた。


「というか、度々話は聞いていましたが、本当にこう……自分から話題に首を突っ込むのが好きですよね」


「そうだな。ただ、そこがあの子の良いところなのは間違いない…………問題に巻き込まれるか否かはさておき」


学園に手紙を送って来た主は、フール。

学園長も、アレクも良く知る人物である。


今でも現役騎士や、学生から高い人気を持つ人物から、先日アラッドが絡まれてしまった問題についての情報が記された手紙が送られてきた。


普通に考えれば、そういった情報を提供してくれるのは、学園側にとって事前に対策を立てられるため、非常に有難い。


「短期間とはいえ、担任を務めていた身としては、一先ず無事であることは素直に嬉しいです。しかし、これ……ドラングの奴に伝える訳にはいきませんよね」


「育成中であることを考えれば、守っていることを悟られる訳にもいかぬな」


同年代の兄と比べれればやや影が薄いものの、それでも全学年を含めた上でトップクラスの実力を持っている。


そんなドラングはアラッドのことを強く……強過ぎるほどライバル視していることは、教師たちには周知の事実。


「そもそも素直に守られる様なタイプじゃない。加えて、そうなった経緯を知れば…………ダメだ、どうなるか予想出来ません」


「良い方向にいかないのは確かだろう。さて……妹と弟たちの方にはどうする? 一応話を通しておくか?」


「そうですね……アッシュに関しては、特に問題はないでしょう。錬金術に集中したいので、是非守ってくださいと返すでしょう」


「……それはそれで、あの子らしいな」


跳び抜けた実力を持つ兄や姉たちに対し、全くと言って良いほど劣等感を持っていない、異例過ぎる鬼才、アッシュ。


一年生でありながら高等部のトーナメントを征したアラッドが、自分よりも才やセンスを持っていると断言した才児。

だが、その才児は戦闘に関して殆ど興味を持っておらず、アラッドの影響を受けて錬金術にとっぷりハマっている。


「とはいえ、私たちにとっては非常に有難い。して、妹の方はどうだ? 面倒な性格はしてないようだが、それなりにしっかりとしたプライドを持っているタイプだろう」


「それはそうですが……シルフィーは、ドラングと違ってアラッドのことを慕っているため、これを知って今後にどうこう影響することはないと思います」


「…………アッシュ君が素直に守られる事を受け入れているのであれば、自分もと素直に受け入れてくれるか」


「かもしれませんね。とりあえず、王都に滞在している騎士たちとも連携を取って、警備を強化していきましょう」


「だな。しかし…………木竜の一件だけで終わらなかったとなれば……本当に、起こる可能性が増してきたな」


「ですね……」


学園長とアレクは目頭を抑え、大きなため息を吐く。


「ふぅーーーーーーー……やはり、あの二人か?」


「可能性があるのは、あの二人かと」


戦争が起きた際、基本的に学生が出動することはまずない。


しかし、その強さが学生レベルを越えていると言えなくもない者には……国側から声がかかる場合がある。


少し前なら、フローレンスやアラッドには確実に声が掛かっていた。

そして現在……パロスト学園の高等部に目を向けると、イグリシアス侯爵家のレイ、グスタフ公爵家のヴェーラに声がかかる可能性がある。


彼女たちと共に行動しているマリア・シュテイン、エリザ・ミューラー、ベル・サンドレア、リオ・ワード、ルーフ・フィールドも一学年上の三年生と互角以上に渡り合える戦闘力を持っている。


しかし、彼ら彼女たちの真価が発揮するのは、二人で……もしくは三人、四人共に戦う時。


対して……レイとヴェーラは単騎であっても強い。


「二人の性格を考えるに、まず断らないでしょうね」


「アラッドが参加すると知れば、どれだけ私たちが戦場の危険性を伝えても、断固として参加する意志を曲げぬだろう」


アレクと学園長も、二人の実力は認めている。


ただ、それでも二人はまだ騎士に、魔術師になっていない卵なのだ。

育てる者として……教育者としては、巣立つまでは絶対に危険が待ち構えていると断言出来る場所へ向かわせたくない。


「…………良い経験、と思うしかないでしょうか」


「確定した時に、私たちが伝えられる全てを伝えよう。彼女たちが無事、学園に帰ってこられるように」


学園長の言葉に、アレクはゆっくり、深く……覚悟を決めて頷いた。

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