八百八話 更に向こうへ
SIDE ギーラス
「ギーラス、お前に手紙が届いてるぞ」
「手紙ですか?」
上司の騎士から送られて来た手紙を渡されたギーラス。
「おいおいお~~~い。また婚約申し込みの手紙か~~、ギーラス~~~~」
「……ノーコメント」
以前までなら「そんな訳ないだろ、からかわないでくれよ」と返していたギーラスだが、本当にそういった申し込みの手紙が何通も届くようになったため……そんな訳ないだろとは言えなくなってしまった。
「それに、これは父さんからの手紙だ」
「この家のこの娘さんと婚約したらどうだっていう内容か?」
「俺の父さんは無理強いするような人じゃないよ」
そう言いながら封を開け、手紙を取り出す。
ギーラスの同僚たちもその辺りの常識は解っているため、手紙に何が書かれているか覗こうとはしない。
「………………………………ふぅ~~~~~~~~~~~…………」
「お、おいおいギーラス、どうしたんだよ」
友人の表情から、明らかに悩みと呼べる問題が書かれていることは明白。
心配な顔になっているディックスに、ギーラスはほんの少し無理して笑顔を浮かべる。
「大丈夫だよ、ディックス、皆。ただ……僕の弟は、相変わらずデンジャラスな冒険者人生を送っているなと思ってね」
ギーラスの弟と言えば、複数人いる。
次男のガルア、三男のアラッド、四男のドラング、末っ子のアッシュ。
合計四人もの弟がいるが……デンジャラスという単語が似合うのは、どう考えても三男であるアラッドしかいなかった。
「アラッド君、いや、アラッドさんか~~~~……納得は出来る。ただ、お前が渋い表情を浮かべるってことは、結構ヤバい問題に絡まれたとかそんな感じか?」
渋い表情ではあるものの、絶望してはいない。
アラッドが後遺症などが残るような怪我を負ってしまった、といった報告の類ではないのは解る。
しかし、ただ強敵と言えるモンスターを倒しただけではない事も解る。
「そうだね……ディックスはサンディラの樹海に生息している木竜が消えた一件を覚えてる?」
「おぅ、勿論覚えてるぜ。討伐されたんじゃなくて、消えたんだろ。話を聞いた時、本気で意味が分からんって思ったぜ」
「その一件に、面倒な者たちが関わっていたんだ」
「……つまり、その面倒な者たちが、アラッドたちを狙ったって訳か」
「簡単に言うと、その通りだ。勿論、アラッドやスティーム君は連中を撃退したようだ。今一緒に活動してるメンバーも無事らしいけど……どうやら、問題はそれだけじゃないみたいなんだ」
自分が狙われるかもしれない。
であれば、その自分を狙う為に敵はどう動くのか……ギーラスは直ぐに手紙に書かれていた内容を上司に伝え、対策を考え始めた。
SIDE ガルア
「そこまでっ!!!!!!」
年配騎士の声が訓練場に響き渡り、騎士たちは一斉に模擬戦の手を止めた
「ふぅーーーー」
「ったく、また強くなったんじゃないか?」
「あざっす。でも、まだまだっすよ」
先輩騎士を相手に終始優勢だった男は……ギーラスの弟であるガルア。
既に学園を卒業しており、騎士団に入団して活動中。
「目指すは、長男のギーラスを越えることか?」
「そうっすね……既に、Bランクのドラゴンをソロで討伐したってのを聞くと、俺も更に頑張らねぇとなって」
「今でも十分頑張ってると思うけどな」
「本当にまだまだっすよ。それに、弟は更に頑張ってるみたいなんで」
「あぁ~~~~……例の弟君か」
ガルアが現在在籍している騎士団でも、アラッドの名前は広まっていた。
一年生にして高等部のトーナメント決勝戦であのフローレンス・カルロストを倒し、優勝。
その後、騎士の爵位を受け取るも……騎士団に入団することはなく、冒険者としての活動を始めた。
「偶に活躍話は聞くけど、こう…………派手にやってるよな」
「昔から危険を好む、っていうのは語弊がありそうっすけど、動じることなく進んで挑んでましたかね」
ガルアはドラングと完全に血の繋がった兄ではあるが、ドラングの様に思いっきりアラッドの事を嫌っていた訳ではなかったこともあり、基本的に悪くない関係を築けていた。
「ガルア、お前に手紙だ!!」
「? ありがとうございます!」
手紙を貰う予定など基本的にないため、思わず首を傾げながら受け取る。
特に深く考えることなく封を開け、手紙を読み始めた。
「……………………ぉ、ま……マジ、か」
「どうした。もしや…………婚約相手が決まったとかか?」
あがり症ではないものの、ガルアがナンパなタイプではないことを知っている先輩騎士はからかうも……手紙に記されていた内容は全く関係のないものだった。
「そういうんじゃ……ないっす。ただ…………ふふ、やっぱり更に頑張らねぇとっていう話っす」
「???」
まだギーラスよりも新米騎士であるガルアは、本来であれば騎士団の上司たちに守ってもらう立場ではあるが……ガルアには一切そのつもりはない。
自分の身は自分で守る。それが出来なければ話にならない。
そういった立派な精神、向上心を持っているが……事が事であることは理解している為、とりあえず上司の中で理知的タイプ上司の元へと向かった。
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