七百九十九話 返ってくるかも
「…………ガルーレ。戦意があるのは勿論良い事とは思う。だが、もう少し危機感を持ってくれ」
ガルーレがどの様にして二人のアサシンを倒したのかを聞いたアラッド。
襲撃者を倒せたことは勿論嬉しく思うが、クロの力を借りずに戦ったという点に関しては……正直なところ、もう少し自分を大切にしてくれと思った。
「あはは~~~、ごめんごめんって~~。なんかさぁ、こう……凄いいけそうな感じがしたんだよね」
「いけそうな感じ、か…………はぁ~~~~。解らなくもないだけに、これ以上あまり強く言えないな」
凄くいけそうな感じという、物凄く曖昧な言葉ではあるものの、アラッドはガルーレが何を言いたいのか直ぐに解った。
ついでにスティームも解ってしまったため、同じくあまり強く注意出来なかった。
「とはいえ、ヘイルタイガーの時とは訳が違うんだ。頼れる力は頼ってくれ」
「そうだね~。次からはそうするわ。でも……アラッドだって、ドラゴンゾンビを討伐するのにあと一歩で手遅れになるってところまで無茶したらしいじゃん」
「うぐっ!! そ、それは……あれだ、仕方なかったんだ」
適当過ぎる言い訳に聞こえるかもしれないが、その件に関してはちゃんとした理由があった。
「あそこは、俺がドラゴンゾンビの相手をしなければ多くの同業者たちが殺されたかもしれなかった」
「ふ~~ん~~~……でもさ、私が戦ってた相手も、放っておけば他の優秀な冒険者たちを殺害してたかもしれないでしょ」
「っ、それはそうかもしれないが……いや待て、それとこれとはまた話は別だ」
ゴリディア帝国がアラッドを潰すことではなく、アルバース王国を攻め……勝利を掴み取ることを目的にしているのであれば、アラッド以外の優秀な若手冒険者が狙われる可能性は十分にあり得る。
だが、アラッドの言う通り、それとこれとはまた別の話だった。
「ま、まぁまぁアラッド。ちゃんとガルーレは無事っていうか無傷だったんだし、良かったじゃん」
「いやぁ~~~、本当にこう……万能感? 無敵感? って感覚がヤバかったね!!!」
「万能感に、無敵感、か……」
ガルーレからアサシン二人との戦闘内容を聞き終えた時、よくペイル・サーベルスを使わずに勝てたなと思ってしまった。
(立体感知を会得出来たとしても、ペイル・サーベルスを使わずに勝てる相手ではない……よな?)
結果としてアラッドは襲い掛かって来たアサシンたちを瞬殺してしまったが、それでも並の暗殺者ではない事だけは解っていた。
一人だけであればまだしも、二人同時に戦った場合、ガルーレはペイル・サーベルスを使わなければと考えてしまうのはアラッドだけではなく、スティームも同じ事を考えていた。
(万能感、無敵感………………もしかしなくても、いわゆるゾーンに入った……のか? それなら、納得は出来るか)
極限の集中状態は、望んで入れる領域ではない。
だが、ヘイルタイガーと戦っていた時の集中力が継続されていれば……と考えると、無理ではないと納得出来た。
「確かに、解らなくはない。ただ、もう少し自分を大切にしてくれ。それだけは、もう一度言わせてほしい」
「……ふふ。アラッドは本当に心配性ね~~~。分かった分かった、もう少し自分を大切にするわ。でも……そう
遠くない内に、同じ言葉をアラッドに返しそうね」
「…………ノーコメント」
アラッドの反応に、ガルーレとスティームは笑いを堪えられなかった。
その後、三人はクロとファルの背中に乗って街へと戻り、直ぐに冒険者ギルドへ向かった。
「解体場を使わせてほしい」
「か、かしこまりました!」
ただ解体場を使わせてほしいと頼んだだけなのだが、既に受付嬢たちの間ではバカたちがアラッドたちを嘲笑したという話が広まっており、やや恐ろしさを感じているものの……そこはやはりプロ。
丁寧な態度で対応。
「申し訳ないが、上の立場の人を読んでおいてほしい」
「っ!!!! そ、その……ルーキーたちが粗相をしたのでしょうか」
「????? いや、別にそういう訳じゃないから安心してほしい。ただ、ちょっと厄介な事があって」
「分かりました」
受付嬢はアラッドたちを解体場へ案内した後、ダッシュで今現在手が空いている上司を確保しに向かった。
「お、お待たせしました!!!」
「どうも」
「アラッドさん、スティームさん、ガルーレさん。初めまして、ヘルナと申します」
受付嬢が確保した上司は、元冒険者であり……現在受付嬢たちを統括する立場である受付嬢たちのリーダー、エルフのヘルナ。
「本日はどういったご用件でしょうか。雰囲気から察するに、モンスターの解体がご要望のようではないようですが」
「察しが良くて助かります。実は、雪原で探索中にある者たちに襲われて」
アラッドは亜空間から計、六つの死体を取り出した。
統括であるヘルナは驚かなかったものの、人の死体に関しては見慣れていない受付嬢は小さく悲鳴を上げた。
「っ……かしこまりました。ここからは私のみで対応させていただきます」
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