七百八十一話 その場合はどうする?
「でもさ、アラッド。そのドラング君が絶対にフールさんに勝てるとは限らないよね」
「あぁ、そうだな。父さんはいつまで怪物クラスの実力を維持してるだろうな」
「じゃあさ、本気でフールさんに挑んで負けたら、ドラング君はどうするんだろうね」
目標である父、フールに挑んだ結果……負けたらどうするのか。
(……そういえば、それに関しては全く考えたことがなかった)
自分で語ったように、フールはいつまでも怪物クラスの実力を維持し続ける。
年齢的に、既に肉体の全盛期は過ぎているが、それでも身に付け……維持している筋力はそう簡単に衰えることはなく、レベルアップによって上がった身体能力の向上が消えることもない。
「アラッドはさ、本気でドラング君がフールさんに勝てると思ってる?」
「また答え辛いことを聞くな……」
「いや、だってさ、さっき実際にフールさんと模擬戦をしてみたけど年季の違い、経験値の差ってやつを思い知らされたって感じだった。スティームも似た様な感じでしょ」
「そうだね。身体能力や戦いに対する姿勢とかよりも、まず経験値から来る技術の差に驚かされたよ。確かに肉体的には全盛期を過ぎてるのかもしれないけど……例えるなら、イメージが斬るのも叩くことも出来る大剣から研ぎ澄まされた刀に変わっただけって感じ……かな」
(技術力は衰えるどころか、寧ろ増しているところを考えると……そう、だな。確かにスティームの言う通り、結果として強さの部類が多少変わっただけで、強いってこと自体は昔から変わってない)
パーティーメンバーである二人との戦闘を観て、改めて父親の凄さを確認した。
(父さんの経験からくる技術の会得……っというのもあると思うが、父さんは良い意味で歳を取ってる筈。対して、ドラングの奴が父さんに挑む時の年齢は…………とりあえず、二十代前半ぐらいだろうな……若さ、青さが糧となるか?)
歳を取ることによって失うものがあれど、得られるものもある。
歴代の強者たちの中には、二十代後半……三十代前半の頃よりも、五十代半ばの頃が一番強かった時期だと断言する者もいた。
「それ、超解る。って言うか、あれだけ打撃戦が出来るなら、絶対に刀だけのイメージに収まらないわ」
「ガルーレの言う通りだね。それで……アラッドは、どういった流れでドラング君がフールさんに勝つと思うんだい」
「………………とりあえずレベルが揃わないことには、話しにならない、か」
正確にフールのレベルを聞いたことがなかった。
そもそもアラッド自身、聞こうと思ったことがなかった。
何故なら……聞かずとも、絶対的な強さを持っていると解っていたから。
「フールさんがどういったスキルを持ってるのか知らないけど、アラッドみたいな狂化とか、スティームの赤雷みたいな超強い切り札を持ってないと、レベルを揃えても難しい気がするな~~」
「俺の狂化や、スティームの赤雷の様な切り札か」
確かにガルーレの言う通り、その様な切り札を持っていなければ、技術の差を埋めるのは厳しい……と思ったところで、アラッドが歪み……大きなため息を吐きながら頭を掻きむしった。
「ど、どうしたんだい、アラッド」
「いや…………今、というか今更思ったんだが、ドラングの奴はどの程度の条件下で父さんと戦おうとしてるのか気になってな」
「ちゃんと試合の範疇で治めるべきなんじゃないの? 別にドラング君はフールさんの強さに敬意を抱いてるだけで、殺したいほど憎んでるわけじゃないんでしょ」
「あぁ、そうだ。それは間違いない。ただな、ガルーレ……俺が狂化や赤雷を使ったレベルの試合を行った場合、ちゃんと試合の範疇で終わると思うか?」
「………………あっ」
そこまでアラッドに言われ、何故彼が苦々しい表情を浮かべたのか理解した。
「試合が試合で終われば良いが、最悪の場合……死合いにまで発展する可能性もある」
まだ小さな子供たちは意味が解ら首を傾げるが、それなりに頭が回る子供たちは……多少時間が掛かるも、アラッドが何を言ってるのか理解し、ごくりと唾を飲み込み、顔に緊張が走る。
「とはいえ、そこまでドラングが強くなればの話、か………………そこに関しては、どうなるか解らない」
アラッドが自力で狂化を会得した。
ギーラスが自力で黒炎を会得した。
血統を考えれば、ドラングも何かしらの強化術を会得する可能性はある。
だが……絶対会得出来るとは、誰も断言出来ない。
「最悪、スキルブックを購入して解決することも出来る……いくら掛かるかは知らないがな」
「アラッドみたいに稼いでる訳じゃないから、一つの方法かもしれないけど、無理そうね」
「……本人の努力次第としか言えないな。それで、仮にあいつが父さんとの勝負で負けたらどうするのかという話だったな……ぶっちゃけた話、数か月から一年ぐらいの間は立ち止まるかもしれないな」
「目標を見失って、どう進めば良いのか解らなくなる、と」
「もしかしたら、越えられるまで挑むのかもしれないが、一度折れる可能性は十分ある……とはいえ、その時に俺が出来ることは何もない。というより、特にすることもないって言った方が正しいな」
「どうして?」
「どうしてって、よく考えてみろ、スティーム。二十代前半にもなれば、もう立派な大人だぞ。向こうから相談してきたならまだしも、基本的に自分でなんとかしなきゃならない歳だろ」
アラッドの言葉を聞いて、シスターを含めた十五歳以上の面々は思った……確かにそれはそうだ、と。
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