七百六十六話 世界は広い

「活躍は聞いてるぜ、アラッド!!!」


「どうも……まぁ、我ながら無茶を、冒険をしてるとは思ってます」


「だっはっはっは!!!!! そうだろうな! 普通、一年目からAランクのモンスターとぶつかる奴なんていねぇぜ!!!」


当然の事ながら、アラッドの活躍は地元に届いていた。


普通なら信じられない話ばかりだが、アラッドは幼い頃から自分が討伐したモンスターの素材をギルドで売却していた。

それを知っている者たちからすれば、あのアラッドならと納得してしまう。


「兄ちゃんと嬢ちゃんは大丈夫か? こいつの無茶に振り回されてねぇか?」


「はは、そうですね……確かに無茶だと思う時はありますけど、でも……アラッドと出会えたからこそ、ここまで強くなれたので、振り回されてこそ本当に冒険をしてるのだと実感出来ます」


「私も似た様な感じですね~。アラッドと一緒に行動してると、本当に退屈しないし」


まだガルーレはアラッドと出会って半年も経っていないが、その間に半ダンジョン化しているリバディス鉱山へと向かい、かつての英雄が使っていた得物、剛柔を探し……その間にディーマンバと遭遇。


結果として剛柔を手に入れ、その後は他国へ渡り…………僅かな証人しかいない激闘を観ることが出来、アラッドと共に行動しなければ戦えないような猛者たちと戦うことが出来た。


闘争を求める女戦士、アマゾネスの彼女にとって、これ以上ない出会いとだと断言出来る。


「はっはっは!!! 良いな仲間に恵まれたな、アラッド」


「えぇ、本当に。正直、冒険者として活動を始める時は、固定でパーティーを組むことはないと思ってたんですけどね」


「そういえば、あの……クロだったか? あの巨狼が従魔だもんな。けど、そんなお前が固定のパーティーを組むって事は、二人がそれだけ強ぇってことだろ」


「勿論。二人とも頼れて、背中を預けられる仲間ですよ」


背中を預けられる。


本当の意味でその言葉通りの活躍が出来るには、まだ足りないと解ってはいるものの、そんな言葉を聞いて……二人は思わず笑みを零してしまった。


「そうか…………俺なんかが心配するのもあれなのは解かってっけど、なんつ~か……お前は良いも悪いも関係無く、孤高の存在って奴になるのかと思ってんだよ」


横に並べる者がいない。


同業者たちと上手くコミュニケーションが取れないといった話ではない。


結果として……横を見れば、隣で一緒に戦っている存在がいないのではないか。

最高の仲間と、喜びを分かち合うこともないのではないか。


そんな、冒険者という職業に就いているからこそ得られるような喜びを味わえないのではないかと、心配していた。


「けど、どうやらそんな心配は必要なかったみてぇだな」


「……心配してくれてたのは、素直に嬉しいです。ただ、冒険者として活動を始めて思いましたよ。世界は広いって」


本音を言うと、学園に入学した時に広さを感じ取った。


元々アラッドが殆ど社交界に参加していなかったことが原因ではあるが、学園に入学して学生最強を決めるトーナメントに参加しなければ、フローレンス・カルロストに出会うことはなかった。


国王陛下からの頼みを受け、若い冒険者代表として他国へ向かわなければ、ラディア・クレスターという強者を斬り結ぶこともなかった。


「信じられないかもしれないですけど、俺と同じぐらい強い奴は割といますよ」


「おいおい、冗談じゃなくてか?」


「冗談じゃなくて、ですよ。あれは……本人は納得しないかもしれませんけど、何度も急所に刃が迫る恐怖を感じた。っと、相手は俺達と同じ冒険者ですよ」


「は、はっはっは……なるほど、な。確かに世界は広いってやつだな」


昼間から一緒にエールを呑んでいるこの男は、決して世界を知らない男ではない。


これまで自分よりも実力がある同業者、才能がある同業者を何人も見てきた。

そんな男から見ても、アラッドの力、存在感は抜きんでていた。


(ったく…………もう三十過ぎてるってのに、久しぶりにがっつり冒険したくなるじゃねぇか)


年甲斐もなく冒険者としての心が騒ぐのを感じる。


「ボンボンが偉そうに。昼間から酒呑みながら何を語ってんだが。あぁ~~~、恥ずかしいったらありゃしねぇぜ」


明らかに、アラッドたちに……アラッドに対して喧嘩を売る声が、ある意味丁度良い声量でギルド内に響き渡った。


「……もしかして、最近ここに来た冒険者ですか?」


「そうだな。ここ一年ぐらい……アラッドが一回帰って来た時と被ってなくもないが、丁度依頼で別の街に行ってたか?」


アラッドをバカにする様な発言をした男と、アラッドに注目が集まる中、挑発されたアラッドは特に態度を変えることなく、男に冷静に挑発してきた男は誰なのかと尋ねた。


「なるほど。それなら、仕方ないのか? まぁ、俺も色々と偉そうに語れる立場の人間じゃないんだが…………この昼間から呑むエールの美味さを知らないとは、可哀想な奴ですね」


冒険者としての実力や功績、侯爵家の令息や騎士の爵位などでマウントを取るのではなく、全く予想外の部分でマウントを取ったアラッドに……一緒に呑んでいた男ではなく、他のアラッドと顔見知りの冒険者たちが笑いながら拍手を送った。

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