七百六十五話 腰は下ろさない
「アラッド兄ちゃんはさ~~、いつお嫁さんを貰うの?」
孤児院の子供たちは、アラッドに関しては自分たちの生活を非常に豊かにしてくれた恩人ということもあり、男女問わずモテないと思う者は一人もいなかった。
「さぁ、いつになるだろうな」
「告白されたりしないんですか?」
「ないぞ」
まさかの答えに、孤児院のシスターたちまでもが驚いた。
「なんでなんで!!??」
「なんでと言われてもな」
「冒険者たちにとってね、アラッドはとてもと~~~っても凄い存在なのよ」
子供たちの疑問に、女性冒険者であるガルーレが答える。
「うん、知ってる!!!」
「勿論知ってます。だからこそ、何故アラッドさんが告白されたりしないのか不思議で」
「アラッドはねぇ……超超超超超凄くて、ビックリし過ぎて腰を抜かしちゃうぐらい強いの」
「びっくりし過ぎちゃうの?」
「そう、びっくりし過ぎちゃうの。アラッドの事を気になってる冒険者は多いと思うわ。でもね、皆が皆、アラッドと同じぐらい凄い存在じゃないの」
この説明の時点で、理解力がある子供たちは何故アラッドが告白されないのか……なんとなく把握し始めた。
「凄過ぎて……自分が告白しても、って思うっちゃうのよ」
「確かに、そもそもアラッドさんは彼女や婚約者をつくるつもりがない……だからこそ、告白しても無駄だという考えが強いのでしょうか」
「おっ、賢いわね。そう考える人が多いのよ。まっ、アラッドの凄さを考えれば、女性冒険者だけじゃなくても、貴族の令嬢だって同じ考えに至るでしょうね」
よっぽどなバカ、自尊心が高い令嬢であったとしても、アラッドは侯爵家の令息であり、一年生にしてトーナメントを征した。
貴族という立場の人間ということもあり、ほんとに彼と私では釣り合いが取れているのかと考える。
その場合、愚かという言葉ですら生温い自信過剰な令嬢でなければ、自信満々に告白することなど不可能。
「そういう訳だから、アラッドはモテモテであっても、告白されることがないのよ。っていうか、アラッドは同業者たちからすれば異性的な意味で好意を持たれるっていうよりも、憧れや尊敬の念を持たれるタイプでしょうね」
「……自分で肯定するのあれだが、そういったタイプなのかもしれないな」
苦笑いをしながら答えるアラッド。
(アラッド様に対してそういった感情を優先的に持つのは解らなくもないが……仮に異性的な好意を持つ奴が現れた場合、そいつらが気にするのはアラッドの立場や強さ云々よりも、あの二人の強さだろうな)
子供たちに戦闘面の教育を行っている奴隷の男は、アラッドに恋愛的な意味で好意を持つ者がまず越えなければならない壁を見抜いていた。
(スティーム様の強さは知ってる。あっちのアマゾネスの姉ちゃんの全力は見てないが、玉石混交の玉側なのは解る。あの二人を越えるってだけでも、相当大変だろうな)
男は奴隷教師。
パーシブル家に仕えるメイドたちの様に、令息……令嬢たちの御子息を抱っこして世話するのが目標、夢ではない。
ただ……戦闘面に関して、少しでも教えられたらという思いは、僅かに心の片隅にあった。
「そういえばさ、アラッドってこの街で冒険者活動をしようとは思わないの?」
後日、三人は朝食を食べ終えてから冒険者ギルドへと向かっていた。
「……それは、この街に腰を下ろしてという意味か?」
「そうね」
「元々俺が旅をしながら活動したいタイプというのもあるが……領主の息子が活動してるとなると、他の冒険者たちが気を遣うだろ」
「そう?」
アラッドが貴族の令息とは思えないフランクさ持っているのを知っているガルーレとしては、簡単に受け入れられているイメージが容易に想像出来る。
「私は割とそんなことないように思えるけど」
「全員が全員、俺を肯定的に捉えてくれるわけではないからな」
「あぁ~~~~……なるほどね~~~。それはそうだ」
「だろ」
ガルーレは決して男性の冒険者だけと仲良くなりたいのではなく、勿論同性の冒険者たちとも仲良くなりたい。
ただ、本人も自覚してる通り……アマゾネスらしく、性に奔放。恋人がいる冒険者には手を出そうとはしないが、良い雄味を感じれば気軽にアタックする。
当然ながら、それを良く思わない女性冒険者もおり、そこで衝突するケースは少なくない。
「色々と落ち着いても良いと思える時期になったら、半分引退した状態で活動するかもしれないが、それまではこれまで通り転々としながら活動するつもりだ」
近くでアラッドの戦いぶりを見ている二人としては、いつまで経ってもアラッドが落ち着くとは思えなかった。
(ここに来るのも久しぶりだな)
冒険者ギルドに到着した三人。
まだ冒険者登録はしておらず、素材を売却しに来てた過去を思い出し、過去を懐かしむ。
「うぉい!! アラッドじゃねぇか!!!!」
すると、元々隠れるつもりはなかったものの、あっさりと顔見知りの冒険者に見つかる。
「どうも、お久しぶりです」
アラッドも声を掛けてきた冒険者の事は覚えており、直ぐにまずは一杯という流れになった。
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