七百三十九話 ある意味決めつけれる

(こ、ここまで感情が顔に出るアッシュも、珍しいな)


アラッドの記憶にあるアッシュは、ここまで感情が顔に出ていたことは殆どなかった。


(というか、そんなにあの……リエラ・カルバトラだったか。あの人と婚約するのは嫌か)


一応、アラッドから見て歳上の女性ではある。

そもそもアッシュの好みなタイプに外見が入っていないため、外見がどれほど高いレベルだから云々は関係無いにしても……まず、リエラの様な令嬢から婚約を求められて、嫌な気持ちになる者はいない。


(別に初対面の時からアッシュの事を思いっきり見下したりはしてなかった筈だから…………とりあえず悪い人ではないと思うんだが、そんなに嫌がるものか?)


フローレンスやレイ、フィリアスといった綺麗どころから好意を持たれているくせに、それらの気持ちに気付けてない……もしくはただただ避けてるアラッドにとってはブーメランなのだが、本人が気付くことはない。


「アッシュ君、その……リエラさんが嫌なの? それとも、婚約自体が嫌なのかな」


「…………多分、婚約ですね。とりあえず、あの人は悪い人ではないと思います」


「そうか……こう、婚約者という相手がいる。そういった相手に縛られることが嫌なの?」


「僕は…………ただ錬金術に没頭したいだけなんで、それを考えると縛られる未来が見えそうなので、スティームさんの言う通りな部分はあるかと」


当然だが、アッシュは婚約者ができたら女遊びが出来なくなるから~、といった理由で婚約者ができることを嫌っているわけではない。


ただ、なんとなく拘束されてる感じがするだけ。


「それに、僕みたいな男と婚約したところで、結局後悔するだけですよ」


「あら、アッシュ。それはちょっと決めつけが過ぎるんじゃないの?」


それはそれで、実際にしてみないことには解らないのではないかとツッコむガルーレだが、そこはアッシュ。


アッシュなりの反論を既に用意していた。


「婚約者になるということは、最終的に夫婦に、家族になるということじゃないですか」


「うん、そうね」


「知り合い、友人とはまた感覚が異なると思うんですよ。じゃなきゃ、浮気と離婚とか不倫って絶対に起きないかと」


「「「「「「…………」」」」」」


アラッドやガルーレだけではなく、ソルやルーナまでガチガチに固まってしまい、反論できる言葉が一切出てこない。


「貴族は政略結婚などがあると思うので、裏であれこれというのがあってもおかしくないとは思いますけど、平民の方々は基本的に恋愛から発展して結婚しますよね」


「そう……だろうな」


「けど、恋愛の時点で浮気。結婚して家族になってからも不倫、離婚があるじゃないですか。なので、僕の考えは決して間違ってないと思うんですよ」


僕みたいな男と婚約したところで、結局後悔するだけ。


それを説明するために、ここまで力説されると……反応に困るの一言。


まず、アッシュは不倫や離婚をするタイプではないだろう、とツッコミたいところだが、世の中の摂理的に……関係が発展してみないことには、ある意味解らない。

だからこそ自分との婚約がリエラにとって正しいとは思えないという本人の説明を……上手く否定する言葉が見つからなかった。


「そりゃあ、僕は男なので、女性の…………乙女心、ですか? そういった部分は確かに解りません。でも、俺にそういう存在として何かを期待するのは、本当に無意味かと。あの人には……リエラさんでしたか。彼女にはもっと良い人がいるかと」


兄であるアラッドも……良く知り合った人物から、お前幾つだよとツッコまれることがあった。


だが、この時ばかりは……そんなツッコまれる側のアラッドも含め、お前は幾つだよ! と心の中でツッコんでしまった。


「……これ以上勧めるって訳じゃないけど、あの人は多分アッシュ以上に良い人はいない、って宣言すると思うぞ」


「世の中、男は星の数ほどいます。多分……まだ、出会った星の数が少ないだけでしょう。視野を広げれば、僕より良い男なんてごまんといる筈です」


(すぅーーーーーー…………えっとぉ…………アッシュは、まだ……十三、だよな?)


がっつり弟の年齢を疑う兄。


もしや、アッシュも自分と同じく転生者なのでは? とも疑ってしまう。


「あの場で、僕に婚約を申し込めたという事は、おそらくリエラさんは自由に自分の結婚相手を選べる立場なはず。であれば、この先の人生で良い人と出会えるかと」


浮気、不倫、離婚云々の話よりも更に説得力のある考えに、一同撃沈。


(父さんとエリア母さんは今のアッシュを見て、考えを聞いて……どう思うんだろうな)


二人の第一子はギーラス。

本人に結婚願望がないことはないので、孫は期待出来る。


しかし、エリアとしては長男の孫を見れればそれで構わない……というわけではない。


「なんて言うか……思った以上に達観してるね~~~~」


「……自分で言うのもあれですけど、錬金術に興味が全振りしてますからね」


本人の言う通り、錬金術に興味を持ち過ぎた故か……本当に思春期の野郎とは思えない、びっくりするほど異性に対してそういった興味がなかった。

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