七百二十話 とりあえず、勝ち決定?

(僕の見間違いじゃなかったら……最後の一撃を放つ際、アラッドの額に……角が生えていた)


アラッド本人が気付いていないのであれば、見間違いなのかもしれない。

しかし、それでもアラッドの額に一本の角が生えていた光景が……記憶に残っている。


(狂化を極めると、あぁいった現象が起こるのかな? それとも、気迫が増した影響でそういった幻覚が見えてしまっただけ? ……何はともあれ、おそらくアラッドはこれまでと比べて、更に一歩前に進んだ。それは……間違いない筈)


本人が気付いていない以上、今その話を続けるのは意味がないと思い、スティームは話題を変えた。


「ところで、アラッドがあの精霊剣使いの女性に勝ったことで、アルバース王国側が三戦ある内、二連勝したわけだけど……なんと言うか、アルバース王国の勝ち? 的なのは確定したってことなのかな」


「ん、ん~~~…………そもそもな話、今回は何かを賭けて戦ってる訳ではないからな」


今回の三試合、代表戦という名目ではあるものの、実際のところは両国王の自慢大会。


自国の若手たちの方が凄い!! 強い!!! といううちの子の方が凄いんだという、本当にただの自慢が白熱した結果、代表戦という体で本当にどちらの方が凄いのか、実際に決着を付けることになった。


「裏で本当は何かを賭けてるのか、そもそもそんな事が裏で行われてるのかとか、そういったところまでは知らない。ただ、俺とアッシュが勝ったからといって、フローレンスが勝ち負けを意識せずとも戦って良いという訳ではないだろうな」


「それもそう、か……あっ、向こうの代表選手が出て来たね」


「うっは~~~~~。良い筋肉してるじゃん」


「そうだな。岩男って感じの若手騎士だな」


ナルターク王国の若手騎士代表は……学生代表、若手冒険者代表とは違い、性別は男。

身長は二メートルを超えており、ガルーレの言う通り……良い筋肉を身に付けている。


(……練り上げられた筋肉、だな)


力はあるが、傲慢な若手騎士。

そんな嫌味を一切感じさせない雰囲気を持っている。


「……やはり、フローレンスさんの勝利でしょうか」


「まだ戦闘が始まってすらいないぞ。さすがに少し判断が早過ぎるんじゃないか、アッシュ」


「かもしれませんね。研究者、製作者として今の発言は良くありませんでした。先程アラッド兄さんと戦っていた女性の様に、何かしらのイレギュラーを起こす可能性がゼロではありませしね」


反省はしているものの、言葉にフローレンスが勝つだろうという確信は消えていなかった。


「勝負とは、実際に行ってみなければどうなるか、解らないものだ」


「一応解ってるつもりではあります。錬金術でも、自信を持って造れた物が、全て良作とは限りませんから。ただ……今回の場合は、決勝戦でアラッド兄さんと戦った時の光景が染みついてるので」


「そ、そうか。そうか…………」


なら仕方ないか、とは言わず、ギリギリのところで飲みむことに成功。


その時の戦いはアラッドも覚えており、クロがまだ戦えるのに戻しところはあるが、それでも限界ギリギリの状態まで戦い……最後は気迫の差で勝った戦い。


これからフローレンスと戦う若手騎士を嘗めてはいけないと偉そうに語っておきながらも、その理由に納得してしまった兄。


「でも、あれだね。どんな人が相手なんだろうと予想してた中にあった人だね」


「一撃必殺で形勢を逆転させる。それが戦略の肝ではありそうだな」


岩尾な男の獲物は大剣。

細剣を扱うフローレンスと比べると、タイプ相性はややフローレンスの方が有利。


(というか、フローレンスの場合切り札の一つに聖光雄化があるからな……まっ、簡単に終わりはしないだろ)


リングにフローレンスも現れ、アラッドたちは無駄話を止めて、これからリングで行われる試合に意識を集中させた。



「よろしくお願いしますわ」


「あぁ、良い試合をしよう」


フローレンスと相対する男の名はライホルト・ギュレリック。

赤い短髪という部分はややチャラさを感じるが、顔はやはり岩男。

それでもイケてる面という部類に入るため、信用出来るイケ岩としてそれなりに異性から人気がある騎士。


「……ところで、試合前に一つ尋ねても良いだろうか」


「えぇ。答えられる内容であればお答えいたします」


「ありがたい。貴女は……先程若手代表枠として戦ったアラッドという名の青年に負けたことがあるというのは、事実なのか」


「そうですわね。一年と少し前に大観衆の前で敗北しました」


どれだけ隠したところで、ぼかしたところで負けたという事実に変わりはない。


加えて、最後の最後……気迫の差で負けた。

それが解っているフローレンス。


本人とっては、気迫の差だけで負けてしまった……ではない。

そんな軽々しく捉えられる差ではなく、今でもその時の光景を夢に見ることがある。


「なるほど……試合前に、失礼した」


「いえ。それでは」


「あぁ」


確認したい事を確認し終え、両者ともに得物を抜剣。


代表戦……最後の戦いが始まる。

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