七百六話 無関係、とは言えない
(……この店に置いてある武器も、それなりに質が高い者が多いな)
多くの工房から品を取り寄せているため、非常に色とりどりの光景。
アラッドたち戦闘職からすれば、見ていて全く飽きない光景である。
(鍛冶は専門外だが……どの武器も、良いな)
一つ一つに、製作者の魂が込められている。
そういった品を見ていると……自然と頬が緩むアラッド。
そんなアラッドをガルーレたちがからかうことはない。
何故なら、それは彼女たちも似たり寄ったりなところがあるからであった。
「私は素手がメインだけど、やっぱり良い武器を見てるとワクワクするね~」
「どうせなら、何か武器を使い始めてみたらどうだ?」
「今から? そりゃ爪系の装備だったら比較的馴染みやすいかもしれないけど」
「この先、打撃が効き辛いモンスターと戦うかもしれないだろ。そういう時に、刃物が使えるだけでも変わってくると思うぞ」
「それを言われると……迷うね」
ガルーレは全く刃物が使えないという訳ではないが、それでもサブとして徐々に極めて以降とは考えていなかった。
理想としては、そういった打撃が効き辛い相手であっても、己の拳や蹴りで砕きたいところなのだが、世の中そう簡単にはいかず、イレギュラーにはいつ遭遇するか解らない。
「つっても、どうするかはガルーレの自由だけど、な………………」
「? アラッド、どうしたの?」
急に足を止めたアラッド。
視線の先には……防犯用に強化されたショーケースの中にある一本の刀。
(………………刀、だからか? いや、でもこの店に置いてある刀は、これだけじゃない。なのに……眼が離せない)
「アラッド、その刀が気に入ったのですか?」
「気に入ったと言うか、気になると言うか…………何なん、だろうな」
とにかく、目が離せない。
(とはいえ、俺には渦雷と迅罰……それにまで付いてきてくれている鋼鉄の剛剣・改がある。これ以上、武器を増やしても……)
強く、高品質の武器は……当たり前のことだが、欲しいという気持ちが芽生えてしまう。
それでも、アラッドは自身のメイン武器は一応ロングソードだと思っている。
故にこれ以上強い武器を欲しても……そう思うのに、何故か目の前の刀から眼が離せない。
「なっ!!!!!?????」
「「「「「「「「「「っ!!!!!?????」」」」」」」」」
次の瞬間……アラッドは何もしていない。
ただ、その眼で一つの刀を見つめていただけで、ショーケースに手を振れていない。
魔力を零した訳でもない。
にもかかわらず……いきなりショーケースの一部が破壊され、アラッドが眼を離せなかった刀が宙を浮かび……アラッドの前に降り立った。
「お、お客様。いったい、何を」
直ぐに従業員が駆け付け、アラッドに厳しい眼を向けるも、本人からすれば自分も困惑してるので状況を説明してほしかった。
「悪いが、俺は何もしてない。いや、確かにこの刀から眼が離せなくなったが、それだけだ。なぁ、お前ら」
「うん、そうだね。アラッドはショーケースに手すら伸ばしていなかった」
「魔力も放出してなかったね~」
「戦意、殺気、闘志……そういった感情も零していませんでした」
スティームたちの説明に、そういったものが解る客たちが頷き同意する。
本当にアラッド自身は何もしていなかった。
ただ、従業員としても「そうだったんですね。それは仕方ありませんね」だけで済ませる話ではない。
しかし……二十後半の従業員は、これまで多くの客たちを見てきた。
(どうする、どうする!? 全く知らない顔、情報がない客だが……絶対に強い! 加えて、間違いなくほぼ全員貴族だ)
鑑定など使わずとも、これまでの経験から養われた観察眼により、一目で四人が実力者であり、しかも貴族出身の人間だと見抜いた従業員。
非常に優秀な観察眼を備えているが……だからといって、ごり押しで目の前の状況を解決出来る術は、彼にはない。
「三人とも、ありがとう。とはいえ…………良く解らないが、この刀は俺を……選んだ? と言って良いのか。なんとなく、渦雷の時と似てるか? とにかく、目の前の状況に関して、俺が関わってしまっているのは間違いない」
アラッドは亜空間に……財布に手を伸ばした。
「迷惑を掛けて申し訳ない。この刀の代金と、ショーケースの修理代だ。足りるか?」
「っ!!??」
従業員は手渡された代金に……驚きを隠せなかった。
手には白金貨が数枚。
それなりに見てきたことはあるものの、いきなり飛び出てきた刀と、ショーケースの修理費を合算してもお釣りが出る。
「足りる、ってことで良いのかな?」
「あ、はい。勿論です!!!!」
「そうか、それは良かった。っと、申し訳ないがまだ見終わっていないから、もう少し店内の商品を見て回っても良いだろうか」
アラッドの頼みに、従業員が断ることはなく……少し遅れてやって来た本日の責任者も、刀の代金を含めて白金貨数枚を払ってくれたアラッドの滞在を断ることはなく、寧ろ話を聞き終えた時、少し表情がホクホクしていた。
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