六百九十三話 絶対モテ散らかす
(殺す技術、か…………いや、やっぱり十三歳なのに本当に考えていると、俺が言っても良いだろ)
モンスター、人を殺す為には……わざわざ大袈裟なダメージを与える必要はない。
中には常識を無視した個体、生命力が尋常ではないモンスターや……回復に特化したマジックアイテムを装備している人間などもいるが、重要な部分を傷付ければ……わざわざ首を切断したり心臓や脳を潰す必要はない。
(動脈を斬る、脚の一部を切断、もしくは指を切断。そういった一瞬で勝負を終わらせる攻撃じゃなくても、一気に勝負を有利に進められる……動脈とか、そういう人体の細かい部分まで知ってるのか知らないけど、時間を掛ければ殺すのに大技が必要ないのは解ってるっぽい、よな)
アラッドは改めて弟は弟で普通ではないと認識。
そして……アッシュが本気で戦闘に興味を持たず、自分たちと同じ道に進まないのは……それはそれで良かったのかもしれないと思った。
「それで、アラッド兄さん。他にはどういった事を気を付ければ良いですか」
「……アッシュは、これからもトーナメントに出ないんだよな」
「はい、そうですね」
もしかしたら今回の様に、希少、高価な錬金術の素材に釣られる可能性はあるかもしれない。
それでもアッシュは、今のところトーナメントに参加する気はゼロであった。
「だとしたら、学園内では騒がれても、冒険者界隈に話が漏れることは……あまりない、か」
「アラッドと同じ苗字だってバレた時点で、アウトなんじゃないかな」
「そこは基本的に隠せば良いだろ。いつまで隠し通せるかは分からないが」
ギルドに登録する際、ギルドに嘘を付くのはグレーだが、この場で下の名前を呼ばないでほしい……そういったジェスチャーを送れば、よっぽど馬鹿でなければ事情を理解してくれる。
「問題は……他の冒険者たちとのコミュニケーションか」
錬金術に興味絶大なアッシュだが、決して社交性に問題がある訳ではない。
コミュ障ではないが……他人のつまらない話に多少の興味が持てるか、非常に怪しい。
(というか、アッシュはアッシュで父さんとエリア母さんの良いところ受け継いでるか……本人は外見に無頓着でも、整ってるからなぁ…………女性の細かい気持ちは解らんが、アッシュみたいな生活力がなさそうなタイプは、逆に母性? がそそられるのか???)
外見に無頓着であっても、まずモテることに変わりはない。
「…………なぁ、アッシュ。お前、学園に入学してから何回ぐらい告白された?」
「? それは、コミュニケーションに関係あるんですか??」
「関係してくるな」
「……それは、デートというやつに誘われた回数で合ってますか?」
「いや、それは……でも、そうか。フローレンス、貴族の令嬢的には、デートを誘うイコール、好意があるということに繋がるのか?」
いきなり話を振られたフローレンスは特に驚くことはなく、アラッドの質問に対して真剣に考え込む。
「……………………そうですね。おそらく、その気があるかと」
誘った経験がないフローレンスだが、日頃から話していた同じ令嬢からそういった話を聞いていたため、ある程度間違ってはいない予想は考えられた。
「よし。アッシュ、その回数だ」
「…………十、何回? だと思います」
(アッシュのやつ、絶対に途中から数えてないか記憶にないんだろうな。おそらくニ十回以上ってところか)
血の繋がった兄として、嫉妬することはない。
ただ、単純に凄いという感情はあった。
「どう考えても、モテ散らかしそうだな」
「そうなんですか? 確かに現時点ではシルフィーより強いんで、そこは評価される点かもしれませんけど」
(……現役の騎士を倒したこと、忘れてないか?)
様々な事に無頓着だからこそ、アッシュは恋愛などにおいて、かなり質の悪い鈍感野郎になっていた。
「ガルーレ、女性冒険者であるお前から見て、どうだ」
「そうだねぇ………………同性の冒険者と恋バナすることは結構あるけど、アッシュ君はアラッドの言う通り、モテ散らかしそうだね」
「やっぱりか」
物理的な強さがあるというのは、立派なモテるステータスではある。
しかし、アッシュにはその他にもモテる要素が非常に多い。
「最初からパーティーを組んで活動するメンバーがいるなら大丈夫かもしれないが…………」
弟が自分が進んだ道の跡を付いてきてくれるのは、個人的に嬉しい。
ただ冒険者ギルドという組織に属する以上、どうしても他者と関わることになる。
「色々と難しいんですね。そういえば、アラッド兄さんも度々同業者とぶつかってたと話してましたね」
「初っ端からな」
弟のコミュニケーション力を心配する兄だが、アラッド自身もコミュニケーション力に問題がなくとも、がっつり同業者たちとぶつかっていた。
「……僕としては、冒険者として活動しながら錬金術の腕を磨くのは一つの選択肢ですし……これからじっくりと考えていきます」
「そうだな。なにも今決めることじゃない……じっくり悩んでくれ」
卒業するまでまだ五年近くである。
考える時間はまだまだあるが……長い長い猶予があったとしても、考え過ぎていると……あっという間に感じる。
進む道を早く決めるのに越したことがないのも、また事実であった。
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