六百八十五話 噴射
(偶に聞かれるので、アラッドの事に関して話していたのですが……やはりこうなってしまいましたね)
二人に慕われるようになってから、フローレンスは度々アラッドのことに関して尋ねられることがあった。
その際……フローレンスはなるべく熱く語り過ぎないようにしようと思っていた。
ファン、信者というのは一転してアンチになる可能性が高い。
自分の人気など気にしてないフローレンスだが、面倒に発展しては困ると考えられる頭は持っていた。
しかし、本人が気を付けようと思っても、気付けば忘れてしまっているということは多々ある。
フローレンスは確かに熱く語り過ぎてはいないが、淡々とアラッドの長所を述べていき、褒めて褒めて褒めまくる。
褒める人物が同性……女性であれば、単純にライバル心を燃やすだけだったかもしれないが……アラッドは当たり前だが、男である。
人は想像力豊かであるため、勝手に妄想して勝手に怒りを増幅させてしまう。
(とはいえ、良い機会でしょう。彼女たちは私の実力をよく称賛してくれますが、世の中には私以上の猛者がいると)
入団からまだ二年も経っていないが、徐々に人を纏める立場になりつつあるフローレンス。
同世代、歳の近い者たちが自分を慕ってくれることは嬉しく思うが、やはりどこかで現実というのは教えなければならない。
アラッドたちは王都の騎士団に頼み込み、訓練場を借りた。
王都の騎士団としても、あのアラッドの戦いを観れるのは有難いため、断る理由がなかった。
加えて対戦相手が黒狼騎士団のソルとルーナであれば尚更。
「前言「あんた達のどうでも良い言い訳、戦い前のそれらしい言葉を聞くつもりはない。早く戦ろう」ッ、上等ッ!!!!!!」
前言撤回するなら今のうち、と言おうとしたがアラッドに思いっきり被せられ、そういうのは必要ないと吐き捨てられたソル。
彼女が扱う得物は大剣。
リーチ、重さ共に武器の中ではトップクラスであり、使用者のスピードに影響する得物ではあるが、彼女のスタートダッシュはそのマイナス要素を一切感じさせない速さだった。
(得物を抜かないとか、嘗め過ぎだ!!!!!!!!)
ソルは素の状態ではなく、しっかりと強化系のスキルを発動していた。
フローレンスがトーナメントの決勝戦でアラッドと戦ったところは観ていない。
ただ、試合の結果として……公式記録として、フローレンスがアラッドに負けたという事実は残っている。
故に……嘗め腐ってはいなかった。
しかし肝心のアラッドはソルとルーナを前にして、ロングソードを抜いていないどころか……素手の状態で構えてすらいない。
「はぁああああああっ!!?? あぶぁっ!!!!????」
大剣のクロスレンジにアラッドが入ろうとした瞬間、視界が急転。
ソルは勢い良く顔面から地面に激突した。
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
この場にはアラッドの戦いを観ようと、わざわざ自分たちの訓練を切り上げて観に来た騎士たちが大勢おり……彼らたちは、目の前の光景に対してどう反応すれば良いのか解らなかった。
「……おい、終わりか? それじゃ、後そっちの後衛だけだな」
魔法使いであるルーナは先程まで攻撃魔法の準備をしていたが、予想外過ぎる相方の転倒に呆然し、動きが止まっていた。
「終わってないに、決まってんでしょッ!!!!!!!!!」
「そうか………けど、鼻血凄いぞ」
乙女にあるまじき鼻血の噴射。
顔面から地面に激突したとなれば、そうなってしまうのも当然と言えるが……放っておいて良いのかと尋ねたくなる出血。
だが、ソルからすれば鼻血程度で自分から申し込んだ戦いをリタイアする訳にはいかない。
再度大剣を振り下ろす……と見せかけて、斬撃刃を近距離から放った。
しかし結果はアラッドに着弾することなく弾けた。
(いったい、どういうことなんだ!?)
放った斬撃刃は当然ながら、ソルの決め手ではなく、本人もそれで終わるとは全く思っていない。
それでも……アラッドはロングソードを抜いたわけではなく、魔力を纏った拳を突き出した訳でもない。
「油断するなんて、随分と余裕だな」
「っ!? なっ!!!!????」
急に体が浮かび上がったと思ったら、後方に投げ飛ばされたソル。
(な、何を……何をしたんだあいつは)
頭の上からはてなマークが消えない。
しかし猪突猛進気味なソルと違い、ルーナは一旦攻撃魔法の発動を注視して観察していた。
「ソル、多分あいつは糸を使ってる、と思う」
「糸って……確かあいつの、スキルだったか」
糸と言えば、二人の中ではフローレンスの体を操った能力として記憶している。
その攻撃を食らった時、フローレンスは自分の油断が大きな原因だっと伝えていたこともあり……二人はよっぽど油断していなければ食らわないと思っていた。
「……って、糸で私の斬撃刃を防いだっていうの?」
「多分、糸を強化して防いだんだと思うけど……まだ、情報が足りない」
「分かった。全力で引き出す。だから、援護をお願い」
「うん、任せて」
頭を冷やした二人は再度アラッドに攻撃を仕掛けるが……今回の戦い、アラッドはアラッドでテーマを持って戦っており……まず攻撃を与えることすら容易ではなかった。
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