六百九話 利用されるのは嫌なんで

「それと、これは個人的な思いなんですが……俺たちは、そこまで名誉に興味がありません」


戦闘職に就いている多くの者たちに喧嘩を売りそうな言葉である。


これまでアラッドが達成してきた功績を考えれば、そんなの嘘だ!!! と言われるかもしれないが……アラッドの目的は仲間であるクロ、今はそこにスティームとファルも加わり、刺激的な冒険をしたい。

これが大きな目的である。


そして刺激的な冒険の中に、強敵と戦うという目標が入っている。


そんな自分の思い通りに活動し続けてきた結果、これまで得てきた功績は後から付いてきただけだった。


「ただ、他人の名誉の為に使われるのは……さすがに遠慮したいです」


「っ……随分、ストレートに言うんだね」


「確かにアルバレスさんと同じ貴族出身ではありますが、俺の気質はあまりクールで冷静沈着といった貴族のイメージには程遠い。学生時代、自分から吹っ掛けてはいないとはいえ、教室内で喧嘩? もしましたね」


アラッドにとっては本当に笑い話だが、それは立派な不良行為である。


アルバレスとしては、色々と理解出来ない部分がある。

ただ、その中でも……目の前の青年は、完全に自分の事を……戦闘者として、下に見ている。

それだけでは頭も、彼の本能も理解していた。


「だから、あまりあれこれ本音を隠して考えを伝えるのは得意じゃないんです。そういう訳で、一緒に戦ってほしいという提案は断らせてもらいます。あっ、料理が来たみたいですね」


「食べましょうか。冷めてしまうのは勿体ないですからね」


とても……とても楽しく料理を雰囲気ではない。


だが、二人にとってはそんなの関係無い。

テーブルの上に置かれた料理にフォークを伸ばす……そんな二人に、憎たらしい感情を向ける者たちがいる。


それでも二人は気にせず食べる手を止めない。


「……ハッキリと言った方が良いですか? 俺たちは……とりあえず戦うだけなら、誰かの手助けは必要ない。木竜の時の様に圧倒的な強さを持つ強敵ならともかく……今回は、万が一という恐怖は感じられません」


「傲慢……とは言えないね。確か、君はつい先日Aランクの轟炎竜を倒したんだったね」


「従魔のクロと二人でですが、なんとか倒すことが出来ました。色々と予想外の出来事でしたが、幸運でもありました」


「強い敵と戦えたから、かな」


「えぇ、その通りです」


レストも職員が持ってきた料理に手を付け始める。


(この青年は……そういったタイプだったか。しかも、理性を持つ珍しいタイプ……そして、その傲慢とも言える言葉には、これまでに積み重ねてきた功績という説得力がある)


アラッドは、人によっては戦闘狂に思われてもおかしくない。


ただ、刺激的な冒険や轟炎竜のバトルの様に、強敵との熱い戦いを求めるが……だからといって、誰彼構わず乱暴な態度を取ることはない。


言葉選びはストレートであったとしても、完全にレストたち側をボロカスに見下す言葉は口にしていない。


「……君は、強いね」


「それはお互い様でしょう、アルバレスさん」


そちらの提案には乗らない。

戦うという事だけを考えれば、確実にあなた達の助けは必要ない。

そちらの戦力がなくとも、俺たちだけでもなんとか出来る。


そう言いはしたものの……アラッドはレストの実力は認めていた。


現在はBランクだが、まだこれから伸びるであろう可能性を考慮すれば、将来的にAランクという頂きに到達してもおかしくない。


(ぶっちゃけ、実際に一緒に組んでソルヴァイパーと戦うにしても……クソイケメン優男先輩の時と同じなんだよな)


スティームの要望は関係無く、ただソルヴァイパーを倒すだけであれば、自分たちだけでも十分ではあるが、レストだけが参戦するのであれば……とりあえず邪魔になるとは思えない。


「君にそう言ってもらえると、自信になるよ」


「それは…………俺を過大評価し過ぎではないですか?」


「僕はね、王都の学園出身なんだ」


「……現在冒険者として活動してることを考えると、珍しい進路に進みましたね」


「ふふ、そうだね。まぁ……だからこそ、一年生にしてあのトーナメントの頂点に立つことが、どれだけ困難なのかを知ってる。それに、君の二つ上の世代にあのフローレンス・カルロストがいたんだろう」


一回りは歳が離れていないということもあり、彼女の噂は耳にしていた。


同世代の男子では相手にならず、一つ二つ上の者が相手でも本気を出せるかどうか……そして体も出来上がってきた頃、既に騎士として活動している者たちであっても、本気の彼女の相手は出来ないという話が広まった。


「身体能力を大幅に向上させるスキルを持ち、更には上位精霊を召喚し……最後は身に纏ったんだってね」


「あれは、自分が負けてもおかしくなかったですよ」


「それなら、一つ訊いても良いかな」


「答えられることなら」


「何故、アラッド君は自分が負けてもおかしくないと感じた戦いに勝てたのか」


後学の為に……今傍に居る自分を慕ってくれている者たちの為に、得られる知識や考えは引き出しておきたい。


そんな思惑が含まれていたレストの問いに、アラッドはノータイムで答えた。


「俺がフローレンス・カルロストよりその勝負に勝ちたいと思っていた。それだけですよ」


「…………なるほど。答えてくれてありがとう」


精神論。

そんな言葉では片付けられない何かが、彼の言葉には含まれていた。

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