六百七話 後は迷ってくれるのを祈る
アラッドが糸を使用してソルヴァイパーの探索を始めたその日は……結局捕縛から戦闘を行うことは出来なかったが、街に戻って来た二人の顔に落胆などの負の色は全くなかった。
「多分だけど、俺の糸は地中の石ころに触れたぐらいの感覚だった筈だ」
「それなら、まだまだ探索としてその方法が使えるってことだね」
「あぁ、それはそうなんだが…………あの蛇、本当に逃げ足が速かったな」
アラッドはクロに追うなと指示を出し、その場でどうこうしようとはしなかった。
クロが本気で追えば……追えたかもしれないが、それでもソルヴァイパーの移動速度は、数秒後にはアラッドが気配感知で感知出来る範囲から出てしまった。
「……クロが追っていたとしても、地中深くに逃げられてしまった可能性が高かった?」
「そうだな。クロに弱点なんて殆どないように思えるが、相手が地中戦が得意という場合だと……数少ない弱点に当て嵌まってしまうな」
「クゥ~~~」
「よしよし、そんな落ち込むな」
地中深くに潜られると、アラッドたちでもなんとかして戦いに持ち込むのが難しい。
クロだけではなく、アラッドやスティーム、ファルであっても本当に手段が殆どない。
「まぁ、そんな訳だから発見したとしても、今日みたいに固まって追うのは良くないだろうな」
「四方向から囲って、徐々に追い詰めていくってこと?」
「大体そんな感じだな。理想としては、ソルヴァイパーが俺たちの気配に気づいた時、数秒で良いからどっちに逃げるか戸惑って欲しい」
数秒の停止。
囲って追いつめ始めてからその時間があれば、アラッドの秘策が炸裂する。
「その戸惑いが生まれたら、後はなんとか出来ると思う」
「……やっぱりアラッドは頼もしいね」
「俺がと言うよりは、糸がだけどな」
その糸も、結局は操る人物の力量次第である。
出会った当初からではあるが、スティームの中でアラッドの評価はずっと上がり続けていた。
「こちらが買取金額になります」
「ありがとうございます」
ギルドの素材、魔石を売却。
二人は特にギルド嬢が提示した金額に不満はなく、買取金額を受け取ってその場を離れる。
今日は希望が見いだせたこともあり、普段より少しランクが上の店で美味い飯でも食べようか……なんて考えていた二人に、五人ほどの冒険者たちが現れた。
(……敵意は、それほどない。ということは、勧誘か?)
素通りしても良さそうだが、絶対に声を掛けてくるという予感があった。
「やぁ、少し良いかな。アラッド君、スティーム君」
「……俺たち、これから飯なんですが、夕食でも奢ってくれるんでしょうか?」
話すぐらいは構わない。
だが、これまでの経験から、大体自分が面倒だと思う流れになる。
であれば……夕食を奢って貰うぐらいしてもらわなければ、アラッドとしては割に合わなかった。
「あぁ、勿論だよ。どうせなら一緒に食事を食べたいと思っていたからね」
ひとまず、彼らが何をアラッドたちと話したいのかはさておき、一緒に夕食を食べることは決まった。
自分と話すなら、当然飯は奢ってくれるんですよね、という態度に……アラッドに声を掛けた男を慕う者たちは多少の怒りを抱くも……その怒りは今ここで零すことではないと考えられるぐらいの頭は持っていたため、初っ端から口戦が始まることはなかった。
「好きなだけ食べてくれ」
「「ご馳走になります」」
男が案内した店は丁度アラッドが向かおうかと思っていたレベルの料理店。
気遣える人なんだなと思いながら、お言葉に甘えて遠慮なく料理を注文する。
男を慕うメンバーの表情がピクリと動くも、アラッドは関係無しに上手そうだと思ったメニューは容赦なく頼む。
(……僕もお言葉に甘えようかな)
こういった場面では言葉通りに受け取らず、それなりの量しか注文しないスティームだが……これから行われる会話自体が、基本的に無駄であると予想出来る為、それならと思って遠慮なく頼み始めた。
「それで、俺たちに何の御用なんですか?」
「……君たちみたいなタイプに、あまり遠回しに伝えるのはあれだね。簡単に言うと、ソルヴァイパーの討伐と心臓の確保。これに関して、僕たちに協力してほしい」
「…………そちらが主導で進めると」
「いや、そうだね。少し言い方が良くなかった。もちろん僕たちと君たちの合同で行う、と言った方が良いかな」
男が何を言いたいのか……一応解る。
「おっと、そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はレスト・アルバラス。クラン、獅子の鬣に所属しているBランク冒険者だ」
(アルバラス、アルバラス………………確か、細剣技の名家の一つ、だったか?)
各貴族の得意分野など、そういった部分に関してあまり詳しくはないアラッドだが、武器に関する名家などに関しては、多少頭に知識が残っていた。
「そうでしたか……それで、アルバラスさんたちと俺たちが組んだ場合、どういったメリットが俺たちにありますか?」
アラッドのこの言葉に、レストを特に慕う二人の表情に青筋が浮かぶ。
それほどはなかった敵意が、明確な色へと変化したが……それを向けられている本人の表情は、至って平常時と変わらないままだった。
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