六百六話 実験
「思ってた以上に見つからないな」
「そうだね。僕たちの気配に気付いて逃げてるなら、逃げ足が速いレベルじゃないね」
夕食を食べながら軽く愚痴を零す二人。
ソルヴァイパーの探している間、他のモンスターとは遭遇するものの、中々お目当てのソルヴァイパーとは遭遇しない。
(とはいえ、まだこの辺りから移動してるとは限らないんだよな……)
偶にそれらしい穴は見つかる。
加えて、偶に立体感知で地面を調べると、複数の穴道がある。
「調べたら、前はなかった場所に移動したであろう穴はある。まだ別の場所に移動したとは限らないが、それでも本当に難しいな」
「ソルヴァイパーと遭遇して戦ったって報告してる人はちらほらいるんだけどね……そこは運がないと思って飲み込むしかないかな」
目立ちたいだけのルーキーや年数だけのベテランが報告してるだけではなく、侯爵の依頼を達成して縁をつくってあれこれを考えてるガチな者たちも遭遇しており……この十日間の間に重傷者数名、死者が一人出ている。
Bランクのモンスターと遭遇して死者が一名と考えれば、まだ被害は少ないと言えるが……どちらにしろ、まだ誰も討伐達成しておらず、痛恨の一撃すら入れられていないのが現状。
(俺やスティーム、クロやファルもなるべく強さという存在感を抑えて探索してるが、それを見破って俺たちを避けてるのか? いや、そういえば蛇は熱で相手の気配を感知してるんだったか?)
アラッドの考えは間違っておらず、この世界の蛇も熱で相手の気配を感知している。
ただ……その蛇たちは普通の生物ではなく、モンスター。
熱感知以外に生物の存在を捕える術は持っており、敵の存在感などで位置を捉えることも可能。
「……クロとファルは別で探してもらうか?」
「悪くないアイデアだね。それはそれで僕たちの強味だと思うけど……それだと、うっかりクロが倒しちゃったりしないかな」
「…………そうだな。クロが持ってる手札を考えると……俺たち二人が到着するまで足止めしようと頑張るあまり、逆に倒してしまうかもしれないな」
実際に遭遇した戦った冒険者たちの話を聞くかぎり、やはりソルヴァイパーはあまり積極的に冒険者たちと戦おうとはしない。
そのお陰で死者数が少ないという恩恵もあるが……逃走思考が強く、逃げ足が速い相手をその場に留めさせようとすれば……それなりの攻撃を仕掛けて絶対に逃げられないぞと思わせる必要がある。
ただ、クロが絶対に足止めするために張り切って攻撃してしまった場合……最悪、その一撃で討伐してしまう可能性がある。
ソルヴァイパーの鱗は決して脆い濡れ紙ではない。
高品質な刃であっても、正しく振らなければ斬り裂けない。
対峙すれば、クロであれば直ぐにその堅さを見極められる。
だからこそ……つい、過剰な攻撃を行ってしまうかもしれない。
「それは避けたい。うっかり脳や心臓、魔石に当たったら多分逝ってしまいそうだ」
「だよね~…………マジックアイテムの中に、使用者が欲しい物の場所を示してくれる効果を持つ物があるらしいけど、売ってたりするかな」
「金ならあるから購入したいところだが、そんなマジックアイテムが売ってるなら、既に誰かが購入してるだろう」
完全に手詰まりな状態。
一応、第二の目的で侯爵家の令嬢の病を治す為にソルヴァイパーの心臓を届けるまでの期間には、まだ猶予がある。
しかし……今回の探索は、とことん運がない。
これまでの十日間、二人は道中でそれほど強いモンスターと遭遇して戦っていないこともあってか、一晩も寝れば疲れは全て回復。
そのため、十日の間……毎日探索を行っていた。
だからこそ、まだソルヴァイパーが周辺の森から移動してないと解るのだが、実際に発見して戦えなければ意味がない。
(……何をどこまで危険だと判断してるのか解らないが…………そうして探すのもあり、か)
強いくせにモンスターにしては珍しく敵対者と戦う欲が少ない。
殆どないと言って良い。
だが、その臆病な性格が……どこまで判断するのか解れば、まだアラッドには探す術があった。
「…………アラッド、何をしてるんだい?」
「実験だ」
地面に両手を置いたアラッドは……手の平から多数の糸を、なるべく規則正しく放出していた。
魔力は纏っていないが、地中に転がっている程度の石であれば、貫通してそのまま進める。
「………………………………………………っ。スティーム、向こうに行くぞ」
「もしかして、糸が何かに触れたのかい?」
「そんなところだ」
触れた個体がソルヴァイパーかどうかまでは解らないが、モンスターであることだけは解る。
(そろそろだな)
声に出さず指示を出し、ゆっくり……ゆっくりと、触れた感触がある場所へと近づく。
「ッ!!」
「負わなくて良いぞ、クロ」
「っ……ワゥ」
何かが高速で移動する気配を感じ取ったクロは直ぐに追おうとするが、それをアラッドが制止。
「…………多分だが、今ソルヴァイパーが居たと思う」
まだ距離は離れているが、地中に糸を伸ばして先程まで何かが居た気配を探り……その大きさから、モンスターの中でも大蛇と言えるほどの幅があるのを把握。
「本当かい!?」
「多分だけどな」
希望はまだ潰えていないと解り、二人の顔には薄っすらと笑みが浮かんだ。
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