六百二話 見た目の割に

「やぁ、朝食中だったかな」


「そう、ですね。今メニューを頼んだところです」


宴会の翌日。

これでもかとエールを呑みまくったこともあって、アラッドとスティームは少し遅めの朝食を食べることになった。


そこに、既に朝食を済ませた水蓮のメンバー、アリファが訪れてきた。


「えっと……勧誘、ですか?」


「ふふ、確かに君たちを勧誘出来たら嬉しいかな。ただ、既に君たちがどこにも属さないことは知っている」


噂……程度の話ではあるが、水蓮はアラッドとスティームが緑焔の勧誘を蹴ったという情報を手に入れている。


アリファはタイミング的にその情報が耳に入ることはなかったが、なんとなく……アラッドやスティームは誰かの下に付くタイプではないと感じていた。


「ただ、改めてお礼を言いたくてね。私たちが倒し切れずに進化させてしまった轟炎竜を倒してくれて、本当にありがとう」


本当は再度、今回の討伐に派遣されたメンバー全員で謝罪に来るつもりだったが、先日の宴会中も含めて、アラッドは何度も感謝と謝罪の言葉を伝えられた。


なのでアラッドとしては、もうお礼は十分なのだが……アリファけじめとして、最後にもう一度礼の言葉を伝えに来た。


「……正直な話、俺たちは二体の火竜を倒すことが目的だったんで、ラッキーって感じの流れだったんです。まぁ、俺の我儘で轟炎竜とは俺とクロだけで戦うことになりましたけど」


「…………君は、あれだね。その失礼だとは思うが、見た目の割に優しいんだね」


「そう言ってくれると嬉しいですね」


気にしてはいない。

寧ろ前世と比べて顔面偏差値はグンっと上がったことを考えれば、本当に嬉しい限り。


ただ……アリファの言う通り、少々見た目は……あれである。


見知らぬ子供が見ただけで泣き出すことはあり得ないが、それでも……うっかり思いっきりぶつかり、上から見下ろされた場合……瞳を潤わせる可能性は高い。


「……もしかしたら、君のその優しさに付け込む輩が現れるかもしれないな」


「それは……どうでしょうか。一応俺の実家は侯爵家で、スティームの実家は他国ですが伯爵家です。自国の侯爵家に喧嘩を売るか、他国の伯爵家に喧嘩を売って国際問題に発展させるか……よっぽどなバカではない限り、越えてはいけない線は越えないかと」


「それもそうだな……二人は、これからどうするのか決まっているのか?」


「俺の我儘で轟炎竜と戦う機会を独占したので、次はスティームとストームファルコンのファルが戦うのに丁度良いモンスターを探そうと思っています」


アラッドの今後の予定を聞き、一瞬固まるも……直ぐに納得したような笑みを浮かべた。


(二体の火竜と戦う為に、ウグリールまでやって来た。それを考えれば、当然の思考か)


決して先程の言葉は優しさから出たものではなく、本心から出た言葉なのだと納得。


「そうか……そういえば、チラッとこんな依頼内容を耳にした」


アリファが二人に教えた依頼内容とは、とある侯爵家が娘の病を治す為の治療薬として必要な素材を探しているというもの。


その素材とは……ソルヴァイパーの心臓。


「ソルヴァイパー…………聞いたことがない、モンスターですね」


「確かに珍しいモンスターではあるな。種類としては白蛇だが、地面に潜伏していることが多い」


「見つけにくい、ということですか?」


「その通りだ。そこまで地中深くに生息しているという訳ではないが……そもそものランクがB。仮に発見したとしても、倒せるか怪しい」


(主な戦場が土中となると……討伐難易度は通常のBランクよりも上、か)


これまでに蛇系のモンスターとの戦闘経験はあるが、Bランクの蛇系猛者とは戦ったことがない。


「とはいえ、目撃情報はあるみたいなんだ。まぁ…………その、もしかしたらうちのクランからメンバーを送ってるかもしれないけど」


「普通に考えれば、美味しい依頼ではありますしね」


「もし二人がそこに向かうなら、私の方から手紙を出しておくよ」


「…………どうする、スティーム」


手紙を送ってもらうか否かは一旦置いておき、行く行かないかはスティーム次第。


アラッドとしては悪くはないとは思うが、どちらでも良いというのが本音。


「そう、だね……うん、大蛇が相手、というのも悪くないね」


「決まりみたいだね。それじゃ、私の方から既に到着してるであろうメンバーにバカな事はするなって感じで手紙を送っておくよ」


「えっと……あまり闘争心を刺激しない感じで、お願いします」


「分かった。あ、後……これは噂だけど、ソルヴァイパーは個体によっては、白雷を使う場合もあるらしいよ」


「「っ!?」」


「それじゃ、健闘を祈るよ」


最後の最後に……爆弾? を落してアリファは去って行った。


「……あれかな、燃えてきたって感情が一番合う感じか?」


「うん、そうだね。良く解ったね」


「それは……なぁ。そんな燃え滾る様な熱い笑みを浮かべてたら、鈍感なバカでも察せられると思うぞ」


元々そうだったか、それともアラッドと共に行動し始めてから……更に磨きかかったのか、何はともあれ……次の行き先は確定した。

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