六百一話 死ねと同じ
「…………」
「渋い顔をしてるね。ちゃんと代金を貰って教えた訳だし、何も問題無いように思えるけど」
「……俺が、そんなに教えたかったように見えるか?」
「………………未来の強者を求めて、割とノリノリでアドバイスしたのかと」
「そう言われると、強くは否定出来ないな」
自身の日頃の態度や考えを知らないとは言えず、スティームの見解をあり得ないと一蹴は出来なかった。
「俺が伝えた方法は、限りなくリスクがデカい…………死ねと言ってる様なもんだ」
アラッドがホルダに伝えた内容は、ゲームで言う周回方法。
効率の良い狩場で狩りを行い、危なくなれば危険なんて要素が一ミリもない街に戻り、体力と魔力を回復して必要なアイテムを購入し、再び狩場へと向かう。
強くなる為には理想的な狩りだが、ここはゲームとは違う。
一定の魔法を一定のスキルれるまで上げれば蘇生する事なんて出来ず、死にたてほやほやの死体を蘇生させる都合の良いアイテムなど……まず手に入らない。
強ければソロでも周回出来る?
ホルダにとってある程度経験値となり得るモンスターが出現する階層では……ソロでの周回など、全くノーリスクではない。
「死んでほしくて死ねっと言うと思うか?」
「それはないね」
そこまでしっかり説明されれば、スティームもノーと答える。
(改めて振り返ってみると、それはアラッドとクロ……このセットがあるからこそ、低リスクで実行出来る内容だね)
その日に帰る様に戦ったとしても、ダンジョンという魔境はその日に災厄が起きる場合もある。
何日も探索しているからリスクが膨れ上がるのではない。
ダンジョンという魔境に足を踏み入れる。
ただそれだけでリスクを背負うことになる。
「……十中八九とは言わないが、死ぬ可能性は……半分より上だ」
「…………もっと、安全な階層で戦い続けたら?」
「あの人と同等のモンスターがごろごろいる階層が鍛えるのに適正階層とは思わない。ただ、出現するモンスターがEやFの階層なら……三年という月日があっても、アリファの様な才ある強者に追い付くのは……難しいだろう」
ある程度強い敵と戦わなければ意味がなく、強い敵と戦っていなければ……強敵との戦闘勘が薄れていってしまう。
加えて、理由はまだある。
「それに、低ランクのモンスターしか出ない階層で、Cランクのモンスターであれば一人で倒せそうな冒険者がモンスターの討伐を独り占めてしてたら……どうなる」
「……とりあえず、水蓮の評判が下がる、かな」
「そうだろ。水蓮のクランマスターがホルダの頼みを了承したとしても、そこは最初に注意する筈だ」
その結果、ホルダが周回の相手として戦うモンスターは……一体や二体であれば問題無いが、十近い数に囲まれてしまうと、命の危機を背負うことになる。
「でもさ……ホルダがそれで死んでも、決してアラッドのせいではないよ。確かにアラッドが提案した方法には大きなリスクがあるけど、それは十分……彼の意志を組んだ答えだったよ」
改めて突き付けなければならない現実と、死のリスク。
それを解っているからこそ、自分を大切に行動するんだという上限まで付けた。
アラッドは……ホルダが生き残れるよう、適切な助言をした。
「スティーム、解ってるだろ。俺も……彼が、そのリスクを解っていて、到達する途中で息絶えても……恨むことは無いだろう。それでも、俺は……無視することは出来ない」
では、何故業を背負うかもしれない方向へ彼を導いた?
そんなの……答えは一つしかなった。
「…………けど、彼の姿勢に、態度に……なにより、既に覚悟を決めた眼を見て、教えないという選択肢はなかったんでしょ」
「……良く解ってるじゃないか」
「僕も、多分知ってる経験だからね」
一人の人間として、同じ男だからこそ……漢だからこそ惚れる、背中を押したくなる瞬間というものがある。
「それに、アラッドはそういうのに弱そうなところがあるしね」
「そうか? 別に……半端な奴の背中を押す気はないぞ」
「覚悟が決まってる人の背中なら、推して上げるんでしょ」
「……最低限、その人に素質と実行出来る力が備わってるならな」
誰彼構わず背中を押す訳ではない……と言いながらも、スティームは本人が隠してるであろう本心が解っていた。
「そうだね……ところで少し話は変るけど、もし君の妹を彼女に……婚約者として欲しいとお願いしてくる人がいるなら、どうする? 勿論、半端ではない覚悟を持ってるよ」
「ふむ………………相思相愛というのが最低条件だが、武器を扱う者であれば…………ロングソード、体技がメインではない者であれば、その武器を使った一対一の勝負で俺に勝ってもらわないとな」
「な、なるほど……そ、それって、アラッド的には譲歩してるん、だよね?」
「あぁ、そうだな。ロングソードや体技以外は、俺のメイン武器ではないからな」
確かに……確かにその通りではある。
ただ、正直な話、スティームから見てアラッドが短剣双剣、槍を使おうとも総合的な戦闘力が並以下に下がるとは思えなかった。
「ちなみに、その男が魔法をメインに戦う後衛職だったら」
「……全力で魔法を使う俺に勝利する」
(…………絶対勝たせる気ないじゃん)
非常にスムーズに動きながら魔法を発動出来るアラッド。
魔力操作技術まで加味すれば……一流であっても、同等の技術力がなければ、あまりにも厚い壁であることに変わりはなかった。
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