五百九十八話 始まったら止まらない

「なっ!!!! ご、轟炎竜が……いたの、ですか」


「ここからは自分たちの推測になります」


街に戻ったアラッドはアリファたちと共に休む前に冒険者ギルドに直行。


まず、二体の火竜は無事に討伐されたと報告。

その後直ぐにアリファが上の人間にアラッドたちも交えて報告があると伝え、何があったのかを正確に話し始めた。


「食らい合って………………前例が、ないわけではありませんが……実際にそういった話を聞いたのは、初めてですね」


「本当に、ただの推測ですので」


「ですが、アラッド君たちが現場に到着した時には一体の轟炎竜しか居なかったのでしょう」


「そうですね」


「……その強さや姿勢を聞く限り、二体とも敵から逃げるという選択を取る様なタイプではないでしょう。それがドラゴンが持つプライド故かは分かりませんが……とにかく、ギルドマスターとして感謝しかありません」


Bランクの属性ドラゴンが二体も暴れ回っている。

それだけでも十分やバイのだが、Aランクの属性ドラゴンが生まれたとなれば、更に応援が必要になる。


「水蓮の方たちも、災難でしたね」


「いえ、私たちが未熟だっただけです」


一度ブレスを食らい、自身の力に変えて炎刃を放ち……大ダメージを与えた。

その時、アリファも含めて確実にあと一歩で倒せるという……ある意味、気が緩んだ。


その瞬間に死に物狂いで挑み、倒すといった執念が途切れたと言っても過言ではない。

最後の最後まで確実に仕留めるという闘志も最炎状態にしていれば……轟炎竜が誕生することなく、アリファたちが二体の火竜を無事に仕留めていたかもしれない。


だが、それは当然たらればの話。

今どれだけその緩みを悔やんでも仕方ない。


アリファはたちは既に前へと意識を向けていた。


「……何はともあれ、皆さんのお陰で脅威は過ぎ去りました!!!!」


アリファたちにはアリファたちに……結末が結末なので本来よりは低くなるが、報酬を渡した。

そしてギルドマスターはギルドの金庫……に入っている金を使い過ぎると不味いので、自身の貯金から泣く泣く取り出し、アラッドに報酬金を渡した。


加えて、従魔と一緒とはいえ正式にAランクのモンスターを倒したという評価を追加。


「っ……本当に、これは轟炎竜、ですね」


現役時代に一度遭遇したことがあるギルドマスターは鑑定を使わずとも、解体場に取り出された死体が轟炎竜のものだと一目で把握。


その日、冒険者ギルドに所属している解体士たちはフル稼働で轟炎竜を丁寧に、素早く解体。


そして…………解体士たちが無事に解体を終え、アラッドが素材を受け取った後……冒険者ギルド内で宴会が開かれた。


「いやぁ~~~、マジで助かったぜ兄ちゃん!!!!!」


「なぁ、なぁ! 轟炎竜のブレスって、どんな感じだったんだ!!!!」


「まだ二十にもなってないんでしょう。それなのにAランクのドラゴンを倒しちゃうなんて……本当に凄いわね」


本日の主役は水蓮のメンバーとアラッドたち。


既に二体の火竜が互いに殺し合い、食らい合った結果、生き残った片方が轟炎竜に進化したという話は広まっている。


そこまで二体の火竜を追い込んだ水蓮のメンバー。

そして進化した轟炎竜を従魔と共に討伐したアラッド……どちらも凄い!!! というのが大体の感想だった。


水蓮のメンバーたちがウグリールにやって来てから、自分たちが火竜を討伐してやるのだからと、やたらデカい顔をしてなかったこともあって……結局二体の火竜を倒し切れなかったアリファたちをバカにする声は小さなものだった。


「ブレスは、とても凄かったですよ。一応旋風を纏って戦ってたんですが、避けてもブレスの余波で肌が焼けましたからね」


「おいおい、マジかよ。まともに盾で受けられねぇな!」


「ぱ、パワーは、Aランクのドラゴンのパワーはどうだったんだ!!」


「相手が相手なのでフルで強化した状態で戦ってたんですけど、受けないで済むなら受けたくない。全部回避して戦いたいというのが本音ですね」


実際に轟炎竜と戦ったアラッドは、当然ながら同業者たちからの質問が絶えない。


だが、自分は大丈夫だろう……と思って油断していたスティームもがっちり確保され、いったいアラッドと従魔のクロと轟炎竜はどの様な戦いを繰り広げていたのか、質問攻めを食らい続けていた。


「元々は二体の火竜を、僕達で分担して戦おうとしてたんですよ。ただ、色々あって轟炎竜一体になってしまって……本当は私も戦ってみたいという気持ちはありましたが、実際にあの戦いを観て……譲って良かったなと思ってしまいますね」


最初こそ面倒だな~と思ってはいたが、いざ語り始めれば……アラッドの事を尊敬しているため、褒めに褒めまくる。


どう凄かったのかを語る言葉も上手いため、その説明を聞いた者たちの脳内にはその光景が鮮明に浮かぶ。



「どう、美味しい?」


「ワゥ!」


「ほら、どうだ。美味いか」


「グルルル!」


因みにこの時、さすがにギルドの中に入れないクロとファルは……安全にAランクやBランクのモンスターに触れる、食事を与えられるといった普段では絶対に体験できない内容に惹かれた冒険者やギルド職員たちによってちやほやされていた。

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