五百七十二話 答えよ、青年
木竜は……混乱はしていなかった。
いきなり異空間に飛ばされた当初は久しぶりに混乱という感情を味わっていたが、元々ドラゴンの中でも落ち着いた性格の持ち主という事もあり、数十分も経てば落ち着きを取り戻した。
それなりにマジックアイテムに対する知識もあり、自身が永遠に異空間に閉じ込められることはないと解っていた。
とはいえ……木竜もドラゴンである。
いきなり自分にこの様なことをしてきた者は……とりあえず殺したい。
落ち着きは取り戻したが、自分をいきなり異空間に飛ばした相手に対し、怒りが湧かないわけがなかった。
そんな中、戻れる時は突然やって来た。
しかし……自身が飛ばされた場所から戻ってくると、直ぐに二人の人間がそれぞれモンスターに乗りながら現れた。
「木竜……殿。是非、こちらの話を、聞いて欲しい」
一人の人間が、確かにその様に言った。
知能が高い個体であるため、人間の言葉が正確に理解出来る。
(ふむ……話を聞いてほしい、か。だが、何ゆえそこまで事を構える体勢を取っている?)
人の言葉が理解出来ることに加え、この木竜……土竜、オーアルドラゴンと同じく人の言葉を喋ることも出来る。
(この青年…………この歳で、私と同等の個体を葬っているな。狂化を使っているにもかかわらず、冷静に話す事が出来ているところを見ると、並みの狂戦士ではない。それに……もう一人の青年も気になるな)
圧倒的な凶器を身に纏う青年に強い興味を持ちつつも、その隣で同じく戦意を漲らせる青年にも興味を惹かれる。
(久しく……久しく、色の付いた雷は見ていなかったな)
黒炎や赤雷といった特殊な属性魔力は、たとえ高位のドラゴンであっても会得出来る代物ではない。
人間の青年二人……これだけで、十分自信の命に刃が迫るイメージが浮かぶ。
しかし……もっと気になるのは凶器を身に纏う青年に従う一匹の巨狼。
(……見たことがない狼だな。ランクは……私と同じか。いや、しかし…………あやつの影、いったい何を隠している?)
全てを把握することは出来ない。
しかし、木竜的には凶器と二振りの逸品を構える青年より、色の付いた雷を逸品に纏って構える青年よりも、その背後で構える見たことがない巨狼が……一番脅威に感じた。
(ふむ、ぞくぞくと集まってきたな)
二人と同行していた緑焔の幹部以外にも、ぞくぞくとサンディラの樹海を巡回していた強者たちが木竜の元に集まり……アラッドたちと同じく、武器を構え……戦意を漲らせる。
だが、二人と同じく……誰一人として、木竜に襲い掛かることはなかった。
(……そうだな。まず、話を聞くとしよう)
青年の言葉通り、対話を始めた。
「よかろう。そちらの話を聞こうか」
「「「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」」」
大なり小なり差はある。
オーアルドラゴンが人の言葉を話す為、アラッドは小なりな反応ではあったが、それでも事前情報として聞いていなかったこともあり、木竜が人の言葉を喋ったことに驚きを隠せなかった。
「……どうした? 話があるのだろう。そこの狂気を操る青年よ、話してみよ」
「は、はい!!」
木竜に名指しをされては、自分が語るしかない。
(た、助けてくれよハリスさ~~~~~ん)
現場に集結した猛者たちの戦闘力や立場を考えれば、緑焔のクランマスターであるハリスが諸々の事情を説明するのに相応しいのだが……木竜自身がアラッドを指名した。
となれば、なるべくアラッドと仲良くしたいハリスであっても、助けられる術はない。
「そうか……お主たちの国に恨みがある国の者の仕業、か」
人の言葉を喋れるだけの知性を持っているとはいえ、ドラゴンが人間の説明に対して冷静に受け入れ、考え始めた。
この光景に多くの猛者たちが決して小さくない衝撃を受けた。
(そういえば幾年か前、そんな争いをしていた気がするな)
長寿なドラゴンにとっては、本当に少し前にそんな事があったな~~、といった感覚だった。
「…………あり得ない、とは言えんな。して……お主ら、何故そこまで戦意を漲らせて私の前に集まった?」
「その、大変申し訳ないのですが、急に異次元へと飛ばされ……更に住処を荒らされたとなれば、逆鱗状態になるかと思い、まずは自分たちの戦意で注意を逸らそうと思い至った結果でございます」
人の言葉を理解するだけではなく、喋る事ができ……人間から伝えられた情報を鼻で笑うことなく、しっかり考える知性を持つ相手に失礼な事を言っている自覚はある。
しかし……言い訳ではなく、ここでハッキリと事実を、自分たちの考えを伝えなければという思いがあった。
「ふむ……………理に適ってはいるな。実際、私を異空間に飛ばした輩は必ず殺すと決めている」
「「「「「「「「「「ッ!!!」」」」」」」」」」
木竜……見た目も相まって、非常に温厚そうに見えるが……それでもドラゴン。
殺す。
その一言に込められた圧が、他者に与える恐怖が段違いであり、多くの猛者たちが自身の心臓を何かに締め付けられる錯覚を感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます