五百七十一話 どんな策がある?

ジバルの領主とほんの少しだけお話してから数日間……アラッドたちや緑焔のメンバーたちだけではなく、ジバルの騎士団……国から派遣された騎士団がサンディラの樹海で探索を続けた結果……多数のCランク以上のモンスターに襲われた。


正確にはCランクの最上位クラスやBランクのモンスターたちが暴れ回り始めただけで、明確に人間を襲おうと躍起になっている訳ではなく、先日の様にゴリディア帝国の人間が更に一手間加えてアラッドたちを殺そうとはしていなかった。


「……発情期とか、そういうのじゃないですよね」


「残念ながら、そういうのじゃないな」


「何かしらの植物とかが原因で、数年に一度……もしくは数十年に一度、こういう事態になる訳でもないんですよね」


「そうだな。それはそれで困るって話だが…………今回の件の内容を考えると、寧ろそういう内容の方が有難いな」


お騒がせな植物というのは確かに存在するが、サンディラの樹海ではまだ確認されていない。


偶に高ランクのモンスターが暴れることはあれど、本当に偶にといった頻度で。

それもずっと暴れ回り続けるわけではないが……大抵の場合は騎士団や緑焔のメンバーが討伐してしまう。


「つ~~かさ、クロとファルが捕えてくれた人間だけじゃ、多分決定的な証拠にはなれねぇんだよな?」


「そうね……というか、逆に認めればそれはそれで、即戦争に発展しかねないわ」


「うげ。どちらにしろクソったれって事か。けどよ、ゴリディア帝国って、そんなにここ最近国力が上がったりしてるのか? こういうクソみたいな嫌がらせしてくるってことは、開戦になっても勝てる自信がそれなりにあるってことだよな」


緑焔の幹部の男は、今ここでは口に出さないが……アラッドや、そのアラッドと互角に渡り合った貴族令嬢、フローレンス・カルロスト……加えて、ソロでBランクのドラゴンを討伐したアラッドの兄であるギーラスなど、有望な若手がそこそこ多いアルバース王国に対して、そこまで自信を持てる根拠が想像出来ない。


(去年、王都のトーナメント戦を観に行った奴の話だと、決勝でバチバチに戦ったアラッドと公爵家のレイ嬢以外の面子も結構優秀だったんだろ? いつ開戦するのか……そもそも本当にゴリディア帝国と本気でぶつかり合うのかは解らねぇけど、若手って面子に限れば全く負けてねぇよな)


当然、開戦すれば己も戦う気満々であり、冒険者の質も負けているとは思えない。


「偶には鋭いこと言うじゃない」


「偶には余計だっつーの」


「そうね……因みに、アラッド君はゴリディア帝国と開戦になったら、参加するの?」


「勿論、参加します。どういった役割を頼まれるかはその時になってみないと分かりませんが、強敵の殲滅……もしくは雑兵の殲滅であってもやり遂げてみせます」


「……ふふふ。本当に、十六歳とは思えない頼もしさね」


強敵の殲滅であれば、狂化と雷渦と迅罰。

雑兵の殲滅であれば……圧倒的狂気の糸が日の目を浴びる。


「アラッドがいれば、次世代の心配はいらねぇな。つっても……アラッド程活躍してる冒険者なら、向こうの耳に入ってない訳がないよな」


「それもそうね。でも、向こうだって全部の脅威に対抗できるわけではない筈よ」


「心配し過ぎか」


戦争が起きるかもしれないというだけで心配し過ぎて損はない。


(そういえば、もし他国と戦争になった時、高品質のキャバリオン軍団で一気に敵の本拠地まで行って叩き潰すか、みたいな話ししてたな…………マジで、そうなるかもな)


頭の中に、何人か超高品質と言えるキャバリオンを販売した人物の顔を思い浮かべる。


(……当然っちゃ当然だけど、赤龍帝を持ってる父さんと天魔を持ってるギーラス兄さんは参加だよな………………国王陛下は、却下だな)


武闘派である部分を知っている為、ちょっと無茶を言いそうな光景が目に浮かぶ……そこまでバカではないと信じたい。


(全員が全員、ハイレベルな戦闘力を持ってる訳じゃないから……ほ、本当にこんな案を採用してもらえるとなると、ちょっと人が足りない……か?)


フローレンスという戦力を入れたとしても、まだ安全面に不安が残る。

加えて、そもそもフローレンスのキャバリオンは構成すら考えていない。


「ッ!!!!! おい、向こう!!!!」


「「はい!!!!!!」」


「あちょ、お前ら!!!!!」


強大な存在が現れた。

幹部の言葉で直ぐにそれを察したアラッドとスティームは……それぞれの従魔に乗り、先輩たちと一緒ではなく二人と二体だけで現場に急直行。


(解る……解る!!!! Aランクのドラゴンゾンビと戦ったからか、体が覚えてる!!!!)


徐々に……徐々にその姿が見えてくる。


(ッ、震えるな。猛ろ!!!! その為にここに来たんだろうが!!!!!!)


最後の最後に、己を鼓舞し……万が一が起こっても大丈夫なよう、そしてそれを防ぐために狂化を発動。

加えて雷渦と迅罰を抜剣し、異空間から姿を現した木竜へと対面。


「木竜……殿。是非、こちらの話を、聞いて欲しい」

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