五百六十九話 何故今更?

「なぁ、スティーム。クロとファルは……どこ行ったんだ?」


「あれ……そういえば、居ないね」


二人は自分たちがクリムゾンビートル、シザーススタッグとの戦闘に集中する為、クロとファルには戦闘中に乱入してくるかもしれない敵に対応してほしかった。


そのため、戦闘には参加しない……というのは要望通りだが、何故か戦闘が終わって周囲を見渡すと、その姿が消えていた。


(なんで……もしかして、クロとファルも俺たちが気付かない間に消された?)


あり得ない、と思いながらも一応その可能性について考える。

考えるが……二体の強さを知っていることもあり、下手に取り乱しはせずに、冷静にどんな可能性があるか考え続けるが……一分も経たないうちに二体ともアラッドたちの元へ戻って来た。


「お前ら、いったい何処にい、てたんだ…………クロ、ファル。もしかしてこいつが、クリムゾンビートルとシザーススタッグを俺たちに差し向けた奴、なのか?」


「ワゥ!」


「クルルル!!」


「すいません、俺たちが解体を変わるんで、こっちの死体の方を確認してもらっても良いですか!!」


「おぅ! 任せてくれ!!!」


アラッドとスティームは緑焔の幹部たちと解体を代わり、二体が自分たちが戦闘中に狩っていたであろう死体を調べてもらった。


(俺やスティームだけではなく、緑焔の幹部の人たちも消したかったって事だよな…………そうなってくると、木竜を殺した痕跡から自分たちの正体がバレるのを防ぐよりも、別の目的があると考えて良さそうだな)


二人がクリムゾンビートルとシザーススタッグの解体を行っている間に、死体の詳細が判明。

二体の解体を終えてから幹部たちは二人に死体の詳細を伝えた。


「おそらくだが、こいつはゴリディア帝国の人間だ」


「ゴリディア帝国……ゴリディア帝国って、確か何百年も前にアルバース王国と争った、あのゴリディア帝国、ですか?」


「おそらくだけどな。ったく……ぶっちゃけ、なんで今更って感じだ」


過去にアルバース王国とゴリディア帝国は確かに争っていた。

戦争の結果は……一応アルバース王国が勝利したものの、本当にギリギリの勝利だったということもあり、ゴリディア帝国を支配下に置くということもなかった。


そして、もう何百年も前の話ということもあり、仲は良好……とまではいかないが、上手く一定の距離を保っていた。


言ってしまえば、今更互いにどうこうするあれはない。


「……俺たちにBランクモンスターをけし掛けたのは、多分ただ俺たちという存在を潰しておきたいだけではないですよね」


「その可能性は高いな。自分の手を汚したくない、捕まるリスクを避けたいってのは解るが、それでもかなり手が込んでると言える」


「やっぱり、ハリスやアラッド君が考えてる通り……暴れ回る木竜をなんとか出来る戦力を、今の内に削っておきたいというところかしら」


解決の糸口とまではいかずとも、手掛かりになる輩の死体は手に入った。


しかし、サンディラの樹海に潜むゴリディア帝国の輩が一人だけとは限らない。

今すぐにでもクランマスターのハリスや冒険者ギルドの上層部、ジバルの領主に伝えたいと思いつつも……戦力を分散させた場合、万が一が起こりうる可能性を考慮し、日が暮れるまで五人と二体は共に行動し続けた。



「そうか……報告、ありがとう」


「いえいえ、ぶっちゃけ俺らにクリムゾンビートルとシザーススタッグをけし掛けた奴はアラッドとスティームの従魔が捕えてくれたんで、あんま働いた気しなかったっすよ」


「だな。いなくなったと思ったら、まさかの大手柄を取りに行ってくれてたとはな」


街に戻って冒険者としての残業? を終えた後、幹部たちはクランハウスに戻り、マスターであるハリスに本日にあれこれを報告。


「……従魔や、二人はどうだった?」


「スティームの方はまだ俺らには及ばないっすけど、瞬間的な力とスピードは匹敵しますね」


「同感だ。現状、自分が出来る事をしっかり把握してるから、こっちも仕事を頼みやすい」


まだスティームの総合的な実力はトップクラスには及ばないものの、赤雷を使用した際の戦闘力は凄まじく、シザーススタッグとの戦いでも下手に隠すことなく使用し、活躍。


「アラッド君に関しては、既に私たちと同じレベルね。狂化も入れると……単純な攻撃力だけなら、私たち以上じゃないかしら。そういう部分以外にも、最初は私を気遣う余裕も持っていたから、下手な一流よりも戦力になるわ」


「つまり、勧誘できないのが悔しいと」


マスターの言葉に、三人は苦笑いを浮かべながら頷いた。


ただ若くして高い戦闘力を有しているだけではなく、コミュニケーション能力も悪くない。

バカに絡まれた際も、まず話し合いでなんとかしようとする考えを持っている。


組織の上層部として働く人間からすれば、喉から手が出るほど欲しい人材なのは間違いなかった。


(まっ、そこは完全に諦めるしかないんだけどねぇ……とりあえず、これからと五日ぐらいは、僕もサンディラの樹海に向かった方が良さそうだね)

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