五百六十八話 戦いやすい

「チッ!! 遅かったか」


「そうね。ちょっと遅かったみたいね」


詳しい部分までは解らない。

しかし、感じた違和感に……本能に従って二人は突風を放ったが、一歩遅かった。


「おいおい、クリムゾンビートルじゃねぇか!!!」


「もう一体はシザーススタッグか……どちらも、興奮状態みたいだな」


アラッドが幼い頃に遭遇したレッドビートルの上位種、クリムゾンビートル。

加えて、Bランクのクリムゾンビートルと同じランクのクワガタ、シザーススタッグ。


どちらもBランクモンスターの中では俊敏で……高い防御力を持つ。


「アラッド!!! 迅速にクリムゾンビートルの方を、倒してくれ!!!!」


「了解。スティーム、そっちは頼む」


「任せて!!!!」


緑焔幹部の指示に従い、クリムゾンビートルの真正面に立ち、自分に意識を集中させる。


(渦雷を抜いておくか)


Bランクモンスター……当然、強敵であり……興奮状態を越えて暴走状態に近い。

手加減する訳もない。


「ッ!!!!!!」


「ッ!? 全く、なんで……こんなところに、いるんだか」


「同感ね。私も、それに関して考えてるわ」


女性魔術師はアラッドの言葉に同意しながら水系の攻撃魔法を連射。


クリムゾンビートルは……火を使う。


現在の戦闘場所はサンディラの樹海。

そう……樹海なのだ。

火系の魔法が木に当たってしまい、その後しっかりと対処しなければ……最悪の火事へと発展する。


(というか、そもそも……なんでクリムゾンビートルが、こんな場所にいるんだ!!!???)


後方から飛んでくる一応気にしながら攻撃を仕掛ける。

しかし、その間も一度生まれた疑問は残り続ける。


クリムゾンビートルは火山、火山地帯などに生息する珍しい昆虫系のモンスター。

レッドビートルまでであれば、森林や樹海に生息していてもおかしくない。


シザーススタッグもサンディラの樹海では何度も目撃情報があるモンスター。

だが、クリムゾンビートルに関しては緑焔の幹部たちであってもサンディラの樹海で目撃したことはなく、過去のデータにもない。


(というか……無茶苦茶、戦いやすいな!!!!)


いくら考えても頭から消えない疑問……しかし、それと同時に圧倒的な戦いやすさを感じていた。


最初こそ後方からどういった攻撃が飛んでくるかを考えながらクリムゾンビートルの相手をしていたが、気付いた時には敵を攻撃することだけに集中出来ていた。


(そうそう、前衛は前の敵だけに集中してなさい)


彼女はアラッドの初速……そして上がり続けるスピード、短期間の間に二度も驚かされたが、即座に修正。


改めてアラッドのスピードや攻撃力を把握し、クリムゾンビートルの動きを阻害する。

それだけに集中して後方から支援を行っていた。


(そういえば、彼はうちのバカエルフたちを弓? で倒したらしいわね。いったいどれだけの手札を持ってるのかしら……緑焔に勧誘できないのが、本当に惜しいわね)


アラッドも彼女の技術や正確さ感心させられていたが、それは後方でアラッドを支援しているか女性魔術師も同じだった。


冷静にクリムゾンビートルの攻撃を捌き、回避する技術。

上がり続ける速さに適応する対応力……加えて、真正面からでもクリムゾンビートルの攻撃に負けないパワー。


どれを見ても、全てが将来有望……どころの話ではなかった。


「ふぅ~~~~、終わりました」


「そうみたいね。アラッド君、本当に強いわね」


「先輩の支援があったので、とても戦いやすかったです。別に、俺が特段強かった訳ではありませんよ」


「謙遜ね。まぁ、並外れたルーキーが皆あなたほど謙虚さを持っていたら嬉しいのだけどね……どうやら、向こうも終わったみたいね」


スティームも含めた三人によって、シザーススタッグも撃沈された。


「おぅ、お疲れ。そっちの方が早く終わったみたいだな」


「優秀な前衛がいたからよ。さて……この二体について、少し話し合った方が良さそうね」


「だな」


まず……クリムゾンビートルが何故サンディラの樹海にいるか。

そこも大きな疑問点ではあるが、クリムゾンビートルと初めて戦ったことがあるアラッドも入れて、全員が思った。


ただ敵意や殺気が強過ぎただけではないと。


「お前らがいきなり突風を発動させたってことは、あの二体を引き寄せる為か?」


「おそらくそういった類の何かね」


「……加えて、こいつら二体は暴走していた……いや、暴走させられていたって言った方が正しいか」


過去に暴走しながら自分たちを狙ってきたレッドビートルと対峙した経験があるアラッドは深く頷いた。


「俺たちを襲わせるように仕向けたってことは、俺たちを消したい連中がいるってことだよな……」


ジバルには緑焔以外のクランも一応存在はするが、決して緑焔クラスの規模に後数歩で届くといったクランは存在しない。

それぞれがそれぞれの分を弁えており、下手に緑焔を越えようと意気込みはしない。


(ってことは、別の街のクラン……もしくは、国外の連中が張り込んでるのか?)


徐々に自分たちが考えていた内容が現実味を帯びてきた。

そんな中、アラッドとスティームはある事に気付く。

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