五百三十二話 ダメ堕ちはしてない
「「「「「「ッ!!??」」」」」」
アラッドの表情を見ていた女性陣は色々と察し……各々別々の色が顔に浮かぶ。
「おっ……マジなんすか」
「いや、まぁ……その、何と言うか……割と波長が合う人? がいたんだよ」
「へぇ~~~、それはまた……はは! 超気になるな」
「……夜あたりに、野郎たちだけの場で良いなら教えるよ」
「マジっすか!?」
まさかの返答に奴隷の男はテンション爆上がりだった。
アラッドがそういう事を行った相手というだけでも気になるのだが、そこに加えて波長が合う相手……となれば、気にならない訳がない。
子供たちは二人が何の話をしてるのかまだ理解出来ていないが、孤児院で働く女性陣たちは当然、どういった会話内容なのか解っており、一番年上のマザーは何故か嬉しそうな表情を浮かべていた。
そして夕食を食べ終え、風呂に入り終えた時間帯に……ガルシアやその他の奴隷を含めた男性陣たちが即席の会場に集まり、酒を呑みながらつまみを摘まんでいた。
「それで、いったいマスターの初相手はどんな女性だったんですか」
初っ端から主人に話させる訳にはいかないと思い、奴隷たちが先に自分たちの体験談を話し、アラッドが話しやすい空気をつくった。
「……まぁ、あれだ。大前提として、強い人だよ」
「強い人ってなると、同業者っすか?」
「いや、元同業者だ。今はギルド職員として働いてる」
相手が元冒険者と分かったところで、ガルシアが挙手しながら質問をする。
「その女性は、どれほど強いのですか」
「……本気の勝負なら、まだスティームは敵わないだろうな。初っ端から赤雷を使えば勝てるかもしれないが、そこを凌がれたら終わる。現役を退いてる筈なのに、その事実を疑う強さを持ってるのは間違いない」
「なるほど。それはアラッド様が気に入る訳ですね」
赤雷を使ったスティームと実際に戦ったガルシアだからこそ解る。
あの状態のスティームの猛攻を凌ぐことは容易ではない。
しかし、アラッドの口ぶりからはそれが出来る可能性を感じさせる。
「まぁ、そこだけじゃないんだけどな」
名前は言わないが、初の相手が……マジットの見た目について話し始める。
「青髪のベリーショートに、マスターと肉弾戦で筋肉質な肉体……に反してふくよかな胸……こうして詳細を聞くと、結構マスターの好み通り? のタイプだったんですね」
「にしても、二十半ばか後半なんすよね。やっぱり付き合ったり結婚するなら、そういう人が……姉さん女房が良いんすか?」
「別にそういうわけではないぞ。一応歳上の人の方が話してて楽しいというか、悪くないって感覚はあるが……あの時はあんまりそういう事を考えてなかったな」
決してヤリチンの思考になってしまった訳ではない。
どうせワンナイトだから、もしくは数回寝るだけの関係なんだから、そこら辺を気にする必要はない、なんて思考がダメ堕ちしてはいなかった。
「いやぁ~~~~、なんか甘酸っぱいっすね!!」
「恋して付き合うってのをすっ飛ばして、いきなりやるってのもおかしいけどな」
常識的に考えておかしいという事は自覚している。
だが、軽く茶化されている通り、振り返ってみれば……確かに甘酸っぱさを感じなくもない。
「んで、その街を出るまでもう何回か重ねて……ギーラス兄さんに手紙で呼ばれたって事情もあって別れたんだ」
「……アラッド様としては、そのまま関係を持ちたいと思わなかったんですか」
「いやぁ~~、どうだろうなぁ……何と言うか……ッ……ダメだ、良い言葉が出てこないな」
本当の意味で丁度良い関係、と言おうとしたが……どういう関係かを知ってる人物からすれば、中々の屑野郎と思われても仕方ない。
「とにかく、お互いにそういう関係になるのが正解じゃないって解ってたんだよ。だから、俺も……あの人も離れることに対して、特に深く話す事はなかったんだ」
「……その女性は、本当にアラッド様の事を理解しているのですね」
「そう、なのかもしれないな」
初めての女性であるマジットのことを思い出し……薄っすらと口端を上げるアラッド。
そんな今まで見たことがない主人の表情を見て、ガルシアたちは本当に一人の大人に……男になったのだと確信し、感慨深い気持ちになった。
それなりにアラッドが幼いころから知っており、女性に興味がないわけではない事は知っていた。
しかし、普通に話す兵士や騎士、魔法使いたちに話を聞いても、浮ついた話は一つも耳にしない。
そういった事があってか、アラッドは色んな意味で仙人を目指すのかと、少なからず不安な気持ちがあった。
「変な言い方かもしれないが、別に異性として惚れた訳じゃないんだ……いや、一応惚れてはいるのか」
「ん~~~……あれじゃないっすか。その人の芯に、人間性に惚れたって事じゃないっすか?」
「そうだな。そういう考え方が一番しっくり来るな」
「マスターを狙ってる女性からすれば、初めての相手になったその女性は多くの意味で羨ましがられるでしょうね」
この後も男子特有の会話は続き、何名かは呑み過ぎて二日酔いになった。
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