五百二十六話 考えて動け
SIDE ドミトル、エレム
「よぅ、エレム」
「ドミトルさん……」
恥を忍んで超後輩であるアラッドにアドバイスを貰った翌日、ドミトルは早速エレムが泊っている宿へと向かった。
「……ったくよ、ちゃんと飯食ってんのか?」
「すいません。なんか、その……ご飯が、喉を通らなくて」
飯が喉を通らなくて何日も立っているわけではない。
まだたった一日なのだが……それでも以前と比べて細っている様に見える。
「体は冒険者の資本だぞ」
「勿論覚えてますよ。ただ……なんか、駄目なんですよ」
先日、敵対……してこそいないが、意見が合わない分かり合えない冒険者たちに美味しいところを持っていかれたと思ったら、実は更に強い同一モンスターが居たことを知り、あまりにも受けた衝撃が大きかった。
加えて、先輩から受けたアドバイスを忘れて自身の感情を爆発させるも、正論パンチを何発も食らってしまい、意気消沈。
何はともあれ街の脅威が去ったことを考えれば、その日の夜は呑んで食って騒ぐべきだったのだが、そんな気分にはならなかった。
ちなみに、討伐に参加した他の冒険者たちもエレムと同じ様に騒ぐ気分にはなれなかった。
根本的な問題として、お前たちが弱かったから最後まで倒し切れなかった。
アラッドから返された言葉に打ちのめされたのはエレムだけではない。
「エレム……良く聞け」
ドミトルは先日の夜、アラッドから受けたアドバイスを少々アレンジしながら悩める後輩に伝えた。
「って言うのを、昨日の夜アラッド君からなにか良いアドバイスないかなって相談して、教えてくれたんだよな~」
「っ!!!???」
先輩から有難いアドバイス内容に感心していると、最後の最後でとんでもない情報をぶっ込まれ、感情がぐちゃぐちゃになる。
「……なぁ、エレム。冒険者歴的にはお前の後輩になるアラッド君が、酒を奢ったからといって、本気でお前の為に考えながら、今後どういった思いで冒険者を続ければ良いのか……真剣に考えてくれたんだぜ」
理由はどうであれば、アラッドが真剣に考えたのは間違いなかった。
「エレム……お前はそのまま腐ったままで良いのか?」
「…………」
「世の中には圧倒的な強さを持ちながらも、謙虚な心構えまで持っているビックリ人間もいる……それを知れただけ大きな収穫だろ。まだまだお前が知らないだけで、また今回世界の広さを知れたんだ」
「考え方が、合うことは絶対にない……まず、それを受け入れて認める。否定しない……それが出来ないと、ですね」
まだモヤモヤが全て消えてはいない。
納得出来ない感情も残っているが、まず自分が何をしなければいけないのかは理解出来た。
「そういうこった。がっつり言われたんだろ、お前の力が足りなかったから雷獣を倒せなかったんだって」
「はい。もう……こう、思いっきり顔面に拳を叩きつけられた気分でした」
「はっはっは!!! だろうな。でもよ……それでハッキリしただろ。理想云々……自分の考えやプライドを貫き通す為には、まず強くねぇと駄目なんだ」
「そう、ですね」
「んで……強くなるにはどうしたら良い?」
「…………ぐだぐだうじうじ悩まず、とにかく考えながら動く」
「っし!!! ちゃんと覚えてんじゃねぇか。そうだ、とにかく考えて動け。死なねぇ程度にな」
強くなりたいなら、とにかく考えながら動く。
まだエレムが今よりも若い頃にドミトルから教えられた教訓だった。
「他の沈んでる若手たちにはお前から上手く伝えとけ。あっ、アラッド君からのアドバイスだってのは隠しとけよ。皆お前みたいにメンタルが強いわけじゃないからな」
「ドミトルさんから伝えた方が良いんじゃないですか?」
「今の若い連中は、お前の方を慕ってるだろ。んじゃ、しっかり先輩の役目を果たしてくれよ」
言いたい事を言い終えたドミトルはそのまま部屋から出て行った。
(……とにかく、考えて動かないとね)
その日の内に仲間たちと話し合い、どう強くなるか……その為にどう動くかを決めていく。
そして翌日、討伐隊に参加した若手たちを集め、ドミトルに言われた通りアラッドからのアドバイスということは伏せ、少々アレンジを加えて彼らの闘争心に少しでも火を付けようと熱弁。
先日に一件があったとしても、彼らにとってエレムは憧れの先輩冒険者であることには変わらず、空元気である者もいるが、全員の眼に生きる……前に進む炎が宿った。
(あっ、そういえば……)
その日の夜、既にアラッドたちがイスバーダンから旅立ったタイミングで、先日の行為に対する謝罪を行っていなかったことを思い出し、今後の目標は目的の中にアラッドとスティームへの謝罪を追加した。
SIDE アラッド、スティーム
「そろそろ見えてくると思うぞ」
「……あれ、かな?」
スティームの眼にこれまで訪れてきた街と比べてもトップクラスの大きさ。
(何と言うか……まだ詳しい事は解らないけど、強さが充満してるって言えば良いのかな)
あまり騒がれない様に離れた場所に降りて近づこうとするが、門の警備を行っていた者たちは何が近づいてきたのか既に気付いていた。
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