五百二十三話 意識し続けるようでは……

「っと、その前にあれだな。俺の知り合いが二人に迷惑をかけてすまなかったな」


「別にドミトルさんが悪いわけではないと思いますけど」


「スティームの言う通りですよ。だって、ドミトルさんがあのクソイケメン優男先輩の人格形成を行ったわけではありませんよね」


「あいつは初めて会った時からあんな感じではあるが……それでも、謝っとかないとって思いがあってな」


ドミトルはエレムの従弟や兄代わりの人物などではなく、せいぜい兄貴分といった関係性であり、二人が言うようにわざわざドミトルがアラッドとスティームに謝る必要はない。


ただ……当人にしか解らない思い、責任感などがある。

二人が貴族の令息だから、という理由で謝ったのではない。


そういった自分たちには理解出来ない考えがあるという現実に納得し、それ以上何も言わなかった。


「分かりました。ドミトルさんからの謝罪は受け取ります」


「話が解かるようで助かるよ。にしても、二人ともあの雷獣より強い雷獣を倒したんだってな。何か秘策でもあったのか?」


「そういった手はありませんよ。とはいえ、俺も強敵にしか使わない奥の手を使いましたけど……正直なところ、俺の従魔のクロがいなければ本当に危なかったです」


仮にデルドウルフのクロがいなければ、雷獣がアラッドたちに興味を示さなかった可能性もあるが……クロがいなければ勝率が下がっていたのは間違いなかった。


「お前さんの従魔って言うと、あの大きい黒毛の狼か」


「頼りになる相棒です。まぁ、この先……あまり頼り過ぎない様に強くなりたいですけどね」


「僕も同じですね。これまで何度も従魔のファルに助けられてきたんで」


「……そうかそうか。二人ともルーキーらしからぬ……いや、ルーキーだからこその向上心の高さ、だな」


ドミトルはこれまでの冒険者生活の中で、何人かの令息と出会ってきた。


中には相手が冒険者と言う職業に就いている平民であっても、礼儀正しい態度を取る子もいた。

しかし、大半は子供のくせに態度がデカい連中ばかりだった為、雷獣の話題を振った際、もっと自慢気な態度で話すのだと予想していた。


だが、実際に話してみると二人は自分たちの功績を誇ることすらなく、もっと高みを目指すという心構えがすでに備わっていた。


(あいつらの前でこんなこと言えねぇが、格が違うな)


なんて事を考えながら、ドミトルは本題に入る。


「なぁ、アラッド君。あいつは……君たちが言うクソイケメン優男先輩は、どうすれば今より前に進めると思う。こんな事を後輩に……しかもエレムの奴と少し因縁がある君たちに聞くのは間違ってるのは解ってるけど、どうしても聞いてみたくてな」


ドミトル自身が口にした通り、アラッドは何故自分にそんなことを尋ねるのかと思った。


(俺、前世では学生のまま死んだから社会人経験ないし、こっちでも……仮に冒険者として活動を始めてからが社会人だとしても、まだ一年も経験していないんだが…………仕方ない、真剣に考えるか)


今日初めて出会い、話した先輩冒険者。

縁なんてこれっぽちもない人物ではあるが、アラッドは確信した。


ドミトルは……本当に良い先輩などと、直感的に感じ取った。

理由としては浅く薄いかもしれないが、アラッドはそんな第三者からの考えなど気にせず、カクテルをちびちびと呑みながら本気で考える。


「………………まず、第一に自分は自分、他人は他人だとハッキリ区切るところからがスタートだと思います」


「はぁ~~、やっぱりそこか~~~~。俺もこの前の夜、一応ちゃんと伝えたんだけど……あれだよな、二人の前で爆発しちゃったんだよな」


「かなり爆発してましたね。とにかく、そこをなんとかしないことには始まらないと思います。後、クソイケメン優男先輩が俺と強さを比べてるのかは知りませんが、仮に比べてるのであれば多分意味がないと思うんで、自分だけの強さと幸せを求めた方が良いと思います」


「……いやぁ~~~、本当に良いこと言うね」


「どうも」


お世辞ではない。


まさにそれがベストな回答だと思い、同時に本当に十五歳なのかと思ってしまう。


「今は凄い俺を、俺たちを意識してるかもしれませんけど、これから何度も何度も顔を合わせるわけではありません。正直なところ……意識するだけ無駄なんですよ」


冷たい言葉に思えるかもしれないが、エレムに元々しっかりとした目標があることを考えると、アラッドに対して何か思う、考え続けるのは本当に無意味な時間と言える。


ドラングの様にアラッドに対して強い対抗心を抱いている者であれば、それが原動力となって前に進む力となるが、エレムの場合はそうではない。


大前提として、エレムの目標は英雄になること。


そのストーリーの途中でライバルと思える存在ではあるかもしれないが、物語が終わるまで意識していては、なれるかもしれない可能性を完全に潰してしまうかもしれない。


「仮に俺の行動で……他人の行動で何か納得いかないことが起こるのであれば、それはクソイケメン優男先輩になんとか出来る力が足りなかった。それに尽きると思います」


英雄を目指す……それを迷惑だと否定する者はいないだろうが、中途半端な力で得られる程、その言葉は……称号は甘くない。

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