五百一話 何故俺たちを?
「「ッ!!??」」
休憩中、いきなり襲って来た攻撃に対し、二人は殆ど同時に反応。
しかし、それよりも先にクロとファルが反応し、クロが襲撃者の刺突を防いだ。
「ふぅーーッ、ふぅーーーッ!!!!」
「ん? どっかで見たことある様な……」
襲撃者は明らかに「裏の人間です!!!」といったそれらしい恰好ではなく、冒険者らしい服装の青年。
「君は、一回戦で戦った……」
「あぁ~~、なるほど。だからっ、どこかで見た頃があるって! 思った訳だ!!!」
いきなり襲って来た襲撃者はニ十歳以下の者だけが参加出来るトーナメントに参加し、一回戦でスティームと激突した選手だった。
(この感じ……どっかで見たことがあるな)
襲撃者の青年はどう見ても勝機を失っており、二人は何故彼が自分たちを襲ってきたのか、その理由についてばかり考えていた。
クロとファルもそんな主人たちの反応を察し、とりあえず攻撃などを弾くだけで潰そうとはしない。
(ん~~~…………そうだ、あれか!!!)
アラッドはパロスト学園にいた時、夜中に自分を襲撃してきた学生を思い出した。
その時の襲撃者である学生はほんの少し理性を残していたが、今回襲撃してきたレイピア使いの青年は完全に正気を失っている。
二人はレイピア使いの青年が何かしらのクスリを服用し、身体能力を大幅に上げていることは即座に把握。
だが、どれだけ考えても自分たちが彼に襲撃される理由が思い付かない。
「スティーム、一応訊くんだが、彼にこう……暴言とか吐いたり、したか?」
「いや、全く。試合中はただただ全力で、戦ってたから……アラッドは?」
「俺はそもそも、彼と関わってないから、な。だから、本当になんで、俺たちを襲ってくるのか、理由がさっぱり、なんだよ」
二人は何度も何度も当日の出来事を振り返るが、やはり恨みを買うような何かをしているとは思えない。
(勝てる、勝てる!!! 勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる、こいつらにカテルッ!!!!!!!)
レイピア使いの青年が何故こんな状態になり、二人を襲うようになったのか……外的理由があれど、根本的な問題は彼の心の弱さだった。
先日のトーナメント戦……決勝戦のアラッドとスティームの激闘を見て、予選に参加した者たちや本選に戦った者たちは大なり小なり衝撃を受けており、大半はその衝撃が向上心への刺激に変わっていた。
エレインやアバックの様に高い向上心を持つ者がいれば、気ダルげ騎士の青年の様に二人の実力を素直に認めながら……それでも俺は俺だというスタンスを貫く者もいる。
レイピア使いの青年も……あの決勝戦を観た当初は、エレインやアバックといった面子と同じ心構えを持っていた。
しかし数日間、同僚とモンスターと戦い、模擬戦を行ったりするが……まるで自分が成長出来てるとは思えない。
実際問題、覚醒……もしくは爆発的な成長など起こらなければ、数日や十日そこらで目に見えて成長することはまずない。
とはいえ……さほど歳が変わらない、片方に至っては確実に自分よりも歳下の人物がハイレベルな戦闘を行っていた。
それを見て焦るなという方が、無理があるというもの。
そんな中、やや酒に酔っていたレイピア使いの青年の前に…………一人の男が現れた。
「これを飲めば、あの目障りな青年二人を潰すことも容易いぞ」
やや酔ってはいた。
それでもローブを着ている顔の見えない人物が、何を言っているのかだけは解かった。
青年は貴族の一員であり、クスリなど忌避すべき存在だという認識を持っていた。
「違法だから手を出さない、卑怯だ……そんなくだらない理由で、怪物二人に勝てるチャンスをみすみす逃すのか? お前が前に進もうとしている間に、奴らも前に進んでいるというのに」
「ッ!!!!!」
謎の男の言葉は確かに的を得ていた。
レイピア使いの青年は今日みたいに少々多めに酒を呑むことはあれど、毎日依頼を受けて休日には訓練も欠かしていない。
だが、それはアラッドとスティームも同じだった。
寧ろ二人は従魔の力を借り、よりハイレベルな訓練を積んでおり……そういった内容を考えると、逆に差が開いているとすら思える。
年齢は殆ど変わらない。寧ろ少し上。
その時点で大きな差があるのに、これからどれだけ頑張ったところで、真の強者たちに追い付けるか?
答えは…………ノーではない。
ノーではないが、強くなるという強い覚悟を背負い、強くなること以外を捨てる必要がある。
彼は本気を出せば怪物、鬼才の領域に足を踏み入れるようなポテンシャルはない。
年齢的にはまだギリギリ間に合う。
肉体的にもまだ全盛期、ピークが来るのは先なため、そこまで強くなることだけに身を投じれば……修羅道に落ちることが出来れば、可能性はある。
だが、人間百二十パーセントほど追い込めば結果を得られるかもしれないと解っていても、その目標以外の全てを投げ捨てるような判断は容易に選べない。
だからこそ……楽に手に入る方法に、駄目だと解っていても……甘い蜜の匂いがする劇物に手を出さずにはいられなかった。
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