四百九十九話 殺人鬼の誕生?

「一応聞きたいのだけど、特別な訓練とかしてたのかしら」


「……子供の頃から勉強、礼儀作法よりも訓練と実戦だけに時間を使い続けるという内容は……冷静に考えれば、特別な訓練と言えるかもしれないな」


「ッ……子供の頃から、というと?」


「五歳過ぎとかだな」


エレインとアバックは驚くを通り越してドン引きした。


「それは、その……パーシブル家の方針なのかい?」


「いや、俺が父さんに申し出たんだ。俺はスキルがスキルだったから、よっぽど油断してなければ弱いモンスターに負けることはなかったんだよ」


色々と隠してはいるが、決して間違ったことは言ってない。


そして……二人はアラッドが生まれ持ったスキルだけで、モンスターを相手に戦ってはいなかったと、即座に把握。


「多くの人にそういう話を訊かれるが、話す事は何も変わらない。始めるのが早かった、それに限るな」


「……その話を各家の当主たちが聞けば、自分の子供たちに実行しそうだね」


「あぁ~~~、あれだ。一つ付け足し忘れてた。俺はな……心の底から強くなることに楽しさを感じている。他の人と違う点、俺の才能は何なのかと問われれば、そこだな」


「なるほどね。無理矢理その教育を押し付けられたら、途中までは上手くいってたとしても、いつか爆発するかもしれないって事だね」


「そういうことだ」


スティームの言葉にハッとした表情を浮かべ、己の浅はかさ……思考の浅さを反省する。


(未来の子供たちには、ちゃんと複数の道を用意しないとね)


心の底から強くなることに楽しさを感じている。

それは確かにアラッドの紛れもない才能だった。


「才能があったとしても、それを親や周りから押し付けられて……素直に子供が受け入れるかと思うか?」


「ん~~~、私は半分アマゾネスの血が入ってるから、割とって感じがあるけど……普通っていうのを考えると、心の中では受け入れなさそうね」


「実際のところは育て方によるのだろうが、親が教育ってのをどこまで理解してるか…………バカがやれば、十数年後……もしくは二十年後ぐらいには、立派な殺人鬼が誕生する」


アラッドが言わんとすることは二人とも解る。

ある程度解ったのだが……ツッコミたいところがあった。


「あ、アラッド君」


「なんだ?」


「君は、その……本当に、僕よりも歳下、なのかな?」


「この中で一番歳下だろうな。まだ十六になってない」


改めて実年齢を聞き、二人は先程までではないにしろ、決して小さくない衝撃を受けた。


「あなた……さっきのセリフ、どう考えても数回は育児を経験した大人の発言よ」


「うっ」


的確なツッコミをされてしまい、思わず言葉に詰まる。

だが、即座にそれらしい返答を思い付く。


「実家に孤児院を移してるんだよ。そこで俺より歳下のガキたちと交流してきたからな……子供どころか嫁さんもいないが、それでも何となく解かる部分があるんだよ」


「孤児院を実家に? ま、まぁそれなら解らなくもない、わね」


「有名な話だよね」


エレインは本当に知らなかったが、アバックはアラッドが自身で稼いだ金を利用して街の孤児院実家の敷地に移し、子供たちに十分な教育などを施しているという話を覚えていた。


「冒険者としてのアラッド君しか知らない人は、今の話を訊いたら点になりそうだね」


「……だそうだけど、エレインはどう思った?」


「あなたの事を何も知らずに聞けば、所詮は金持ちの道楽と思いそうだけど……アラッドという人物の人となりを少しは知れた今、あなたらしい……優しさだと感じたわね」


お世辞ではなく、率直な感想。


アラッドの人となりを知っても道楽だと思う者はいるだろうが、それでもエレインは目の前の人間がどれだけ懐が広い人物なのだと感嘆した。


「そりゃ良かった。俺としては、ただ頑張ろうとしても頑張れない奴らに……頑張れる環境を与えたいだけなんだけどな」


「…………もしかして、そこら辺が実はアラッド君とフローレンスさんの仲があまり良くないって噂の要因なのかい?」


「良く分かったな。実際はただ俺が向こうを好きじゃないって話だけどな」


「好みのタイプじゃなかったの?」


「そういう話じゃないんだよ」


貴族の令息であるアバックとしてはやや理解出来ない考えではあるが……アラッドは実際に誰かに何かを施すという行動を起こしている。


学生がそれを行えるか否かという点は置いておき……アラッドは行動を起こした。

愛を深く語るフローレンスは結局のところ……その愛が必要な者たちのために、具体的な行動を起こしたわけではない。


(おそらく、アラッド君がフローレンスさんを好きになれない部分は、そういうところ……なのかな?)


アラッドが個人で動かせるだけの大金を有しているからというのが分岐点であるような気がしなくもないが、一先ずアバックは納得した。


「そういえば、アラッドは貴族の令息なのに婚約者がいないんだっけ」


「元々冒険者になると決めていたからな」


「ふ~~~ん……それなら、アマゾネスの聖地にでも行ってみる? 凄くモテモテになるわよ」


エレインの言葉に、提案された本人はどんな顔をすれば良いのか解らなくなった。

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