四百九十五話 短過ぎるカラータイマー
両者の武器が壊れてからの数秒間……二人は何十を優に超える攻撃と回避を行う。
集中力が極限まで研ぎ澄まされているスティームの打撃は一回戦時に行ったものと比べ、遥かにクオリティが上昇している。
だが……どれだけ試合中に質が向上したとしても、一朝一夕では埋められない努力の差が、そこにはあった。
「がっ、ッ!!!!????」
左手で攻撃を弾く、ジャブを一瞬で行い、右側から襲い掛かるフックが当たる前に、体を半身にし……渾身の掌底が胸部に叩きこまれた。
掌底が水平に放たれたこともあり、スティームは脚に力を入れて踏ん張り、なんとか堪えることが出来た。
ただし、それは理論上の話。
スティームがそれを意識した時には既に、足裏は宙の上だった。
「ぐっ!!!!????」
体の前に強烈な痛みを感じた瞬間、今度は後方全体から強い衝撃を感じ、その場に崩れ落ちた。
「そこまで!!! 勝者、アラッド!!!!!!!!」
審判が勝者の名を告げた瞬間、観客たちは今日一番の完成を張り上げた。
『つ、ついに、遂に決着ぅううううううううッ!!!!!! あまりの激闘っぷりに、思わず実況を忘れてしまうほど、本当に本当に濃密な戦いだった。これが本当に二十を越えていない青年の戦いなのか!!!??? 彼らは今まさに、その様な常識を今、二人が打ち破った!!!!!』
これまでニ十歳以下の青年、少年たちの戦いぶりは何度も見てきた。
時たま現れる怪物、天才という存在がいるのは重々承知している。
本当に彼らはまだ子供なのか、そう疑問に思う試合も何度も見てきた。
だが……彼は今、断言出来る。
今日、この目で観てきた戦いの中で、ニ十歳以下という年齢に絞るのであれば、アラッドとスティームの戦闘が最高だったと。
人によっては、王都開催された学生が主役のトーナメントの決勝で行われた、アラッド対フローレンスの試合が最高だと言うかもしれない。
しかし……今回の試合内容は、ある点に関してはその戦いを間違いなく凌駕していた。
それは稀に見える戦闘の最中に起こった成長と覚醒。
未来の強者であろう青年の成長、劇的な覚醒をその眼で観ることが出来た。
実況はこの事を生涯自慢出来ると確信。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
試合終了後、これまで殆ど汗をかいていなかったアラッドの額に、多くの汗が浮かんでいた。
途中……本当に途中までは多少の緊張感こそ感じていたが、表情に緊張感が浮かぶことはなかった。
加えて、ただただスティームとの戦闘が楽しい。
心の中はそれで埋め尽くされていたが……ラストスパートといったタイミングで、その中に絶対に負けてたまるかという闘争心が芽生え、一瞬にして大爆発。
一気に体力と精神力がゴリゴリに削られた。
「大丈夫か、アラッド君」
「えぇ、大丈夫、です。俺は……問題ありません。ただ、スティームの方が」
「安心してくれ。直ぐに治癒師たちが治療を始めている」
「そう、ですか」
審判から友の状況を軽く聞き、一先ずホッと一安心。
そして……アラッドは表彰の時間まで人気のない場所で休みはせず、友が治療されている場所へと向かった。
(狙われるとしたら、今だろうな)
結果としてこのトーナメントの主催者である貴族の令息であるアバックは、決勝戦に進むことは出来ず、準決勝で敗退。
そうなると、どうにかして両者を引きずり降ろそうとするのがあくどい貴族。
絶対に直ぐに面倒な件が起こるという保証はない。
それでも、今このタイミングが一番狙い目という自覚はあった。
「さっきまで戦ってた、アラッド」
「治療ですね」
「いや、仲間の様子を見に来ただけだ」
特に止められることはなく、中へと入室。
ベッドの上には二人の治癒師から回復魔法をかけられているスティームがいた。
(……問題は、なさそうだな)
治癒師に治療を勧められるが、既にポーションを飲んでいる為、一応問題はない。
「……魔力切れで意識が落ちてるってとこですか」
「そうだね。君とスティーム君の試合は割と長かった。常に魔力、強化系スキルを使い続けてたことを考えると、当然と言えば当然の結果だ。最後は……随分無茶な強化を行って、一気に残りを消耗したってところだね」
赤雷を使用すれば、一気に魔力を持っていく。
長時間使用すれば、魔力切れによるぶっ倒れ待ったなし。
「それとね、彼……筋肉が断裂してる」
「ッ……赤雷による超強化に、肉体が耐えられていない。そういう事ですか」
「多分そうだね。全く耐えられない訳ではないと思う。でも、今のところ……もって三秒から五秒と言ったところかな。それ以上の使用してしまうと、今回みたいにあらゆる筋肉が断裂を起こす。勿論私たちであれば治すことが出来る。一定レベル以上の高価なポーションでも治すことが出来る……それでも、直せるからといって、諸刃の剣を壊れるまで何度も繰り返して使用するのはお勧め出来ない」
「えぇ、そうでしょうね」
使用時間があまりにも短過ぎる諸刃の剣。
しかし、使用時間の限度が三秒から五秒というのは、現段階での話。
これからの鍛え方、成長次第で持続時間は確実に伸びていく。
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