四百五十九話 もし全面戦争になったら……

(う、うちの弟……カルロスト公爵家から攻撃されたりしない、よな?)


以前まで将来の道は騎士一択だったフローレンス。


しかし、アラッドというもう一人の怪物と出会い……その怪物は恐れ多くも、女王の異名を持つ彼女に説教を行った。


フローレンスが愛があっても前に進めない子供たちの為に、自分の力で現状を変えようと努力する。

それに関してはカルロスト公爵家としても、特に文句を言うことはない。


ただ……その目標のために騎士という道ではなく、冒険者の道に進もうとすれば……それはちょっと待ってくれという話になる。


フローレンスは冒険者という道に進んだとしても、結果として多くの人々を助けていくだろう。

それを考えれば、別に騎士とやってる事はあまり変わりないのでは? と思う者は少なからずいる。

しかし、突っ込んだ話になると、そういう簡単な話ではないのだ。


騎士団としても……カルロスト公爵家としても、フローレンスには是非とも騎士の道に進んで欲しい。

そう願われている彼女が今現在……出会ってしまった自分以外の怪物からの説教により、別の道を歩もうとしている。

本当に……万が一、億が一……フローレンスが冒険者の道に進もうものなら、カルロスト公爵家はアラッドに色々と申し上げたい事がある。


(アラッドがカルロスト公爵家に狙われたりしないよな……しないよな?)


本来であればパーシブル侯爵家を通してアラッドに文句を言うべきところだが、爵位が一つ下とはいえ、物理的な戦闘力に関しては冗談抜きでトップクラス。


そしてアラッドが製作したマジックアイテム、キャバリオンに関しては多くのファンがいる。

つまり、パーシブル侯爵家と敵対すれば、それらのファンすら敵に回す可能性が高い。


製作者であるアラッド本人と敵対するのも同じでは? と思うかもしれないが、フローレンスが騎士ではなく冒険者の道に進もうとしている……かもしれないとなれば、それはそれで貴族界では非常に大問題。


とはいえ……仮に、もしもカルロスト公爵家がアラッド個人と敵対するのであれば……カルロスト公爵家が甚大なダメージを被るのは間違いない。

個人間との戦闘ともなれば、フローレンスとの決勝戦で使用しなかった……色々と戦力差を覆してしまう切り札を使用する。


その結果、アラッドが敗北したとしても、カルロスト公爵家の戦力は壊滅に近い状態に追い込まれる。

そして……アラッドが潰された場合、今度は数年前と逆のことが起こってもおかしくない。


「フローレンスさん、貧しい子供たちを支え、背中を押す方法は他にある筈です」


「そうでしょうか? 良ければ、その方法について教えて頂いてもよろしいでしょうか」


全く考えていなかった。

どうすれば冒険者として活動する以上に稼げるのか、そう簡単に思い付かないのだが……ここでギーラスは今一度弟であるアラッドの凄さを思い返し……一つの結論に至った。


「フローレンスさん自身のブランド力を使う。それが一番のかと」


「私自身のブランド力、ですか」


「その通りです。アラッドは幾つものボードゲームを生み出していましたが、やはりアラッド自身が試作した物は高値で取引されています」


それだけの説明で、子供たちの為にどう頑張れば良いのか……ぼんやりとだが、浮かび始めた。



「ギーラスさん、本日は多くの質問に答えて頂き、誠にありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ楽しい時間を過ごすことが出来ました」


二度死にかけたが、色々と貴重な体験であることに変わりはなかった。


(多分……多分だけど、さっきの説明で冒険者という道に進むという選択肢は消えただろう。アラッドとカルロスト公爵家の全面戦争とか……ゾッとする)


アラッドが個人で戦うとはいえ、従魔であるクロは確実に参戦する。

そしてクロが……デルドウルフという絶対的な力、牙を持つAランクモンスターが他の同系統のモンスターたちを従えれば……一個人が破れるとは考えられない。


(いや、カルロスト公爵家としては責任を取って娘と、フローレンスさんと結婚してもらう方向に話を進めるか? 個人的にはそっちの方が有難いというか……余計な心配が生まれないというか)


何はともあれ、もう王都に留まる必要はない。

いつまでも仕事場を空けておくわけにはいかない。


宿に戻ってぐっすりと寝て、明日に備えよう……と思っていると、一難去ってまた一難という嫌な現実を……身をもって体験することになる。


「ドラゴンスレイヤー、ギーラス・パーシブルさん、ですよね」


「あぁ、まぁ……一応そうだね。君は確か……ジャン・セイバー君、だったかな」


「覚えて頂いてるとは、とても光栄です」


ギーラスが泊っている宿の前で待っていた人物は、アラッドと準決勝で戦い、フローレンスに借りを返すことが出来なかった三年生、ジャン・セイバー。


驚きびっくりはもうお腹一杯状態ではあるが、ギーラスは目の前の若者の眼を見て……要件は明日でも良いかな、とは言えなかった。


「何か悩みがあるみたいだね。力になれるかは解らないけど、俺で良かったら聞くよ」


「ありがとうございます」

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