四百五十八話 思わず殺されかける

「フローレンスさんは、フローレンスさんのまま十分に完成されている。後は、どこまで形を整えられるか……極めるか。重要なのはその辺りだと思う」


「整え、極める、ですか……一先ず、今より強くなることが一番ですね」


アラッドがBランクモンスターを複数回倒し、更にはAランクモンスターをソロで倒したという話も耳入っている。

周囲の同級生は、半信半疑な者たちが多い。


しかし、実際にアラッドと本気で剣を……拳を合わせたフローレンスは、一切嘘だとは……話の盛り過ぎだとは思わなかった。


だからこそ……ほんの少し前まで戦闘力に関しては切磋琢磨出来る存在、というのがフローレンスの認識。


(やはり、先生方とのトレーニング時間を増やさなければなりませんね)


もはや、生徒たちの中でフローレンスのトレーニング相手になる者はいない。

レイにあと数年時間があれば話は変わってくるが……レイとヴェーラのセットで、良くて筋肉聖女状態で戦う価値がある。


おそらく、光の精霊ウィリスを呼んでしまっては、完全に均衡が崩れてしまう。

そのため……現在フローレンスのトレーニング相手になる者たちは、パルディア学園の教師たちしかいない。


「それと、やはりなんとかしてお金稼ぎも頑張らないといけませんね」


「??????????」


吹き出し……はしないが、それでも頭の上にクエスチョンマークが十個ほど浮かぶ、予想外過ぎる言葉がフローレンスの口から零れた。


(カルロスト公爵家のご令嬢であるフローレンスさんが、お金稼ぎを頑張る????)


何故という疑問が尽きない。

故に、訊かなくても良い質問を訊いてしまった。


「その、フローレンスさんは何か購入したい物があるのですか?」


ギーラスの予想では、新しい武器……もしくは防具、マジックアイテムとの予想。


しかし、フローレンスの口から零れた言葉は全く違う内容だった。


「いえ、そういう訳ではありません。貧しい……愛だけではどれだけ頑張ろうとも前に進めない子供たちの為に、少しでも稼ぎたいと思っているのです」


「な、なるほど…………?」


一応納得出来る内容ではある。

寧ろ公爵家の令嬢がその様な内容を考え、実行に移そうとするなど……まさに聖女と言える精神。


ただ、まだ完全には納得出来ないギール……しかし、フローレンスにはフローレンスなりの理由があった。


「アラッドさんの形を真似るという、二番煎じの行いではあります。それでも……あの時、面と向かって目を逸らしてはいけない事実を伝えられ……少しでも自らの力で、子供たちが前に進めるサポートをしようと思ったのです」


「あぁ~、そう言うことでしたか」


ようやく完全に理解が出来た。


それと同時に、我が弟は本当に物怖じない、怖いもの知らずな猛者だと感心した。


(歳上である……学生という立場に限れば、他校と言えど先輩にあたる人物に説教か……何と言うか、アラッドには色んな所で驚かされるな)


屋敷で生活を送っていた頃の驚きも入れれば、両手両足の指以上に驚かされてきた。


「私も卒業後は冒険者になろうかと少々悩んでいるのですが、どうでしょうか」


「っ!!!!!!!???????」


本日に二度目、料理が気管に入って死にそうになるギーラス。


「ふ、フローレンスさん。い、今なんと?」


「卒業後、冒険者の道に進もうかと少々悩んでいるのです」


耳はボケておらず、ギーラスの聞き間違いではなかった。


(た、確かアラッドとトーナメントで戦う前から騎士団の内定が決まっていた……筈だよな?)


まだ記憶力もぼけておらず、過去のフローレンスに関する記憶は間違っていない。


「俺の記憶が確かなら、フローレンスさんは騎士団への入団が内定していた、気がするのですか???」


「えぇ、そうですね。二年生の頃からほぼ内定が決まっていました」


サラッと超エリート発言をするフローレンスさんだが、口にした悩みは決して冗談や嘘ではない。


「ですが、より多くのお金を稼ぐとなると、冒険者として活動する方が良いかと思いまして」


「そ、それは……その、そうですね……」


がっつりと否定は出来なかった。


騎士になれば、その称号故に、そこら辺の冒険者と比べれば毎月……一年間の収入は上回っている。

しかし、Cランクの上位以上の冒険者になってくると、今度はそこら辺の騎士より稼げるという、完全に構図が逆転してしまう。


(フローレンスさんの実力なら、いずれ宮廷騎士になるのも夢ではない……というか、そこまで到達するのが約束されたも同然……しかし)


宮廷直属の騎士ともなれば、それこそCランククラスの冒険者より収入は多い。

とはいえ、フローレンス・カルロストがいくら優れた戦闘者だとはいえ、直ぐに宮廷騎士になれる訳ではない。


仮に出世街道を文字通り光速で駆け抜けようものなら、いくらその色んな意味で歴史を塗り替える猛者と言えど、批判が鬼の様に舞い込む。


「アラッドさんはまだ冒険者になって一年も経ってないに関わらず、既にBランクモンスターを複数体討伐し、そしてAランクのモンスターをも討伐しました。それらの功績によって懐に入ってくる報酬を考えると……もしかしたらそちらの道に進んだ方が良いのでは? と最近よく考えるのです」


「そうですね……稼ぐ、といった一点に限れば冒険者は騎士に勝っていると言えますね」


目の前の人物が……今はアラッドが一歩先を行っているかもしれないがそれでも、少し前までは互角に近い戦闘力を有しいたため、冒険者には冒険者なりの苦労が……などという決まり文句は言えなかった。

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